第305話 カナータ傭兵団、出撃準備をする
西部辺境伯領までは常設転移門でサクっと移動したが、その先を傭兵団として100人以上が移動するとなると、馬車や獣車などの移動手段がそれなりに必要だった。
カナタはクヮァの獣車を使うつもりだったため、それと同行するためには、同等の速度が出る獣車を用意する必要があった。
「騎獣はコッコ種の2頭立てか、2足歩行の走竜かな」
コッコ種は走鳥と呼ばれる飛べない走ることに特化した鳥のことでクヮァと同種だ。
走竜は地竜系の飼い馴らされた竜種で、人を乗せて走る2足歩行の走竜と、荷馬車を引く4足歩行の走竜に分かれる。
2足歩行の走竜はスピードタイプであり、騎獣として騎士を乗せることが多いが、その力は強く人を乗せた幌馬車を引くこともできる。
4足歩行の走竜は地竜と呼ばれるパワータイプであり、力が強く重い荷馬車を引くが速度が出ない。
「騎兵として使える者は騎乗させた方が良いだろう」
リュゼットによれば、騎乗して行動する騎士と幌馬車で移動する兵士に分けた方が良いとのことだった。
移動中の戦闘では、幌馬車内の兵を展開することに手間取って先手を取られる可能性があり、騎士が自由に動ける状態にするのは、都合が良いのだそうだ。
「騎乗して戦闘が出来る者はどれぐらいいる?」
「遊牧民の戦士が20名と元傷病奴隷の騎士10名、戦闘奴隷5名だ。
全員を騎乗させる必要はないが、私たち小隊長を含めて30名は騎兵とした方が良いぞ」
小隊長は
あと25人となると戦闘奴隷を除いた30名から選ぶことになった。
竜車は10人乗りのため、10人単位で分けられた方が良かった。
戦闘奴隷60名で6台、元傷病奴隷10名で1台、遊牧民の戦士5名で1台が都合が良いだろう。
「各小隊長とイプシロン、遊牧民の戦士15名と元傷病奴隷の騎士10名を騎兵とする。
他は10名単位で走竜の竜車で移動とする。
クヮァの獣車は僕とシータ、イータ、ニュー、ミュー1で乗る」
なぜ騎乗に長けた遊牧民の戦士を騎乗させて元傷病奴隷15名で2台にしなかったかというと、この傭兵団には戦闘要員の他に女性が5名いたからだ。
それは飯炊き女たちだった。
100名を超える集団の食事を賄うためには、それなりの料理人が必要だった。
遊牧民の戦士は全員女なため、そこにその女性たちを乗せることにしたのだ。
本来ならば、ここに食料などの補給物資を運ぶ獣車や、その御者が必要になるのだが、そこはカナタの【ロッカー】とアルファたちが持つマジックバッグがあるため、補給物資はその中に分散して入れてあり、輜重隊そのものが存在していなかった。
飯炊き女などは、そこに便乗するのが常なのだが、便乗しようにも輜重隊が居なかったのだ。
そういった都合で女性だけの獣車が必要となったのだ。
「そうなると、竜車用の走竜が8頭、騎士用が走鳥含めて31頭必要になる」
ちなみに、走鳥を選んだのはマイと遊牧民の戦士合計16名だった。
つまり走竜が23頭、走鳥が16頭、竜車が8台必要となった。
ここにクヮァの獣車が加わる。
「そんなに簡単に手に入るの?」
「なに、ここは西部辺境伯領だ。
いつでも戦争の準備をしているから、必要なものは売っているものさ」
リュゼットの言う通り、あっさりと手に入れることが出来た。
西部辺境伯の名前を出せば簡単なことだった。
カナタみたいな子供の言う事は信用されないが、ミランダから渡された西部辺境伯家の紋章が入った鑑札は効果覿面だった。
「ところで主君、この傭兵団の名前は?」
「それを決めてなかったか。
それとリュゼット、これからは主君はやめて。
団長はリュゼットなんだからね」
子供だと信用されないということを、買い物で散々理解したカナタは、団長も自分では拙いと思っていた。
そしてリュゼットを替え玉にすることを思いついたのだ。
「では、団長権限でカナタ傭兵団としよう」
「あーそれ駄目。
僕の名前はスヴェルナ帝国にも伝わっているかもしれないからね。
正体がバレる危険がある」
「良い名なのに……。
では、カナータ傭兵団では?」
「ああ、名前とは思われないし、それっぽい響きかも」
「「「決まりね」」」
さて、食料やその他雑貨も買い込んだし、いよいよ出撃だ!
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あとがき
前話の最後で「スヴェルナ帝国に侵入した」なんて書きましたが、思った以上に出撃準備が必要でした。
なので最後は書き換えさせていただきました。
まだ侵入に至っていません。申し訳ない。
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