第9話 『新しい家は大豪邸②』

 

「ちょっと、陰キャ君、あの二人に何したの?」


 赤髪と黒髪の彼女たちが居なくなったリビングで、茶髪の彼女が旺太郎に質問する。


「いや、デパートでちょっと口論になっただけだ。あそこまで嫌われる事をしたつもりはないんだが」


(つーか赤髪に関しては向こうから言ってきたじゃねーか)


「変態さんは無意識に変態さんなんです。だから嫌われて当たり前なんですから。いえ、寧ろ嫌わない私がすごいんですよ。私に感謝するんですね」


「なんつーか……すごいな……。てか変態じゃねーよ」


 そんな事を言いながら、目をキラキラと輝かせて旺太郎の方を見つめてくる。旺太郎も思わずその勢いに圧倒される。


「まぁ、紫乃は口は悪いけど繊細だし、黒音も真面目だからね。仲良くなって、とは言わないけど、悪く思わないであげてね」


「お、おう……」


 ニコニコと笑う茶髪の彼女だが、どこか威圧感とも似たようなものを感じ、旺太郎は寒気を感じる。


「さて、じゃー私たちも自己紹介しよっか。私は夏野美栗なつのみくり。好きなタイプは……あはは、ちょっと恥ずかしいかも」


 わざとらしく上目遣いで旺太郎を見つめる美栗に、思わず旺太郎は視線を逸らす。


「聞いてねーよ」


「ひっどーい」


 そう言って「あはは」と笑い出す美栗。


「でもおねーさん、そう言うの嫌いじゃ無いぞっ」


「……白い髪の、自己紹介してくれ」


「ちょ、無視はひどいよっ」


 揶揄うような美栗の言葉を全力でスルーし、話を次に進める旺太郎。流石のコミュ力の無さと言ったところだろう。


秋月白奈あきづきしろな、です。よろしくです」


「夏野に秋月か、よろしくな」


「陰キャ君、美栗でいーよ?」


「……」


 髪をかきあげながら名前で呼ぶ事を求める美栗に、旺太郎は冷たい反応。「ん?」と言って反応を急かす美栗だが、彼はそれすらも華麗にスルー。


「秋月、残りの二人は?」


「……ちょっと毒舌な方が冬木紫乃ふゆきしの、真面目なのが春咲黒音はるさきくおん、なんです」


「ねぇ」


 と、白奈の方を向いていた旺太郎の顔の目の前に、美栗が顔をグイッと近づけてくる。


「旺太郎くん、私のこと、嫌いになっちゃった……?」


 目をうるうるとさせながら、今までの態度とは打って変わってしおらしい態度でそう尋ねてくる美栗に、旺太郎は視線を逸らす。


「い、いや、そういうわけじゃ」


「じゃあ、好き?」


(……な、なんて答えるのが正解なんだ?)


 旺太郎の顔を手で無理やり自分の方へ向かせ、美栗はそう問う。訳の分からない状況にダラダラと冷や汗をかき困惑する旺太郎。


「……生憎、そういう事には興味がないんでな」


「そっか……。私は……キミのこと……す……」


(ま、待て待て!まだ出会って半日くらいだぞ!?いくらなんでも早―――)


「すっぱい臭いがするなーって」


「……え?」


(す、すっぱい?ん?新手の告白スラングか何かか?)


 そんな旺太郎の困惑する反応を見て、美栗が嬉しそうに笑い出す。


「あはははは!あは、やっぱ陰キャ君、あはは、いい反応するね、あははは!やば、涙出てきた」


「てめぇ……」


 ゲラゲラと大きな声で笑う美栗に、今までのことが演技だと確信し腹を立てる旺太郎。


「変態さん、ワキガなんですか?」


「ちげーよ!」


 横でその様子を見ていた白奈が、旺太郎にワキガ疑惑をかけるが全力で否定。


「美栗、からかい過ぎです。面白かったですけど」


「あは、ごめんごめん」


「お前ら……あ」


 と、ふと先ほど言われた事を思い出し、旺太郎はその原因を理解する。つまり、すっぱい臭いがする原因だ。


「そうだ、手土産を持ってきたんだ」


「おー、陰キャ君にしては気が効くじゃん」


「中々やるんですね」


 そう言って旺太郎は、スーツケースの上に置いた紙袋から梅干しを取り出し、テーブルの上に置く。


「えぇ、梅干しって。だからすっぱい臭いしたんだ」


「そういう事だな」


 美栗は少し引いたような顔で苦笑いする。だがこれでワキガ疑惑も晴れ、一件落着。


「梅干しさん……!」


(さん付け……)


 一方の白奈は、その梅干しを見て目をキラキラと輝かせ、ただの食べ物に、さん付けまでする始末だ。


「梅干し好きなのか?」


「うん、白奈の好物なの」


 美栗が旺太郎の質問に答える。


「た、食べていいんですか?」


「だーめ。もう少しで晩ご飯でしょ、紫乃に怒られちゃうよ」


「うぅ……梅干しさん……」


 今にも泣き出しそうな、悲しそうな顔になる白奈だが、美栗の言葉もあってかなんとか我慢。


「さて、私はやる事あるから、陰キャ君は白奈に家の案内して貰って」


「任せて欲しいんです」


「あぁ、頼む」


(そう言えば、色々あって勉強する為に急いでた事忘れてたな……)


 漸く一段落ついたところで、旺太郎は自分のやるべき事を思い出したのだった。

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