第21話 RE:EPILOGUE - 1 タッタ”二人”ノ傭兵団


「じゃあな、婆さん……。今まで世話になったよ……」



 ――世話になったベルガに向け、別れの挨拶を送るボス。誰もがその素晴らしき旅立ちと、別れと言うほろ苦い辛さがあるんじゃあないかと、実感するようなワンシーンだと想像するであろう……。だが、この時点で実に奇妙であった……! 



 〜 ブゥゥンッ!  〜



 ――まず第一に、ボスの目の前にはベルガは存在していな・・・・・・・・・・かった・・・……。急に”旅人トラベラー”から”超能力者サイキックス”に、ボスが”職業変更ジョブチェンジ”したかと思う◯者の諸君がいるだろうが、そうじゃあない。


 そもそも今現在、彼は儀式に使うかのような”松明たいまつ”を持っていたのだが……。



 〜 カラン、ゴォォォォォォォォ! 〜



 ……何を考えてか、それを恩人である”ベルガの家”の中に目掛けて放り投げ、家に火を付けた・・・・・・・のだ……!


 急に”旅人トラベラー”から”放火魔アーソニスト”に、ボスが”職業変更ジョブチェンジ”し、「サイテー!」、「この人でなし野郎ッ!」……などなどと思う◯者の諸君が恐らく、大多数になるであろう……。

 


「……ねェ、ボスゥ……?」


「……んっ?」


「ホントに……オバアちゃんの家ごと、モヤすヒツヨウ……あったの……?」


「……まぁな。こっちウォーダリアは”土葬どそう”が主流かは知らないが……オレが住んでいた日本じゃあ、”火葬”が主流だったからな……」


「……カソウ?」


「……今やってる事。遺体を燃やしてから、墓に収める事だよ……」


「……そう……」



 ――ボスの横に並び立っていたオルセットが、悲しげな表情で俯く……。上記の話が本当ならば……一時期とは言え、ベルガと深いディープな時を過ごした故に、思う事でもあるのだろう……。



「それに……」


「……それに?」


「寝込んでいたオレを襲おうとしていた、赤壁盗賊団のクソ供の死体……あれは放っておくとえきびょ……病気びょうきの元になるんだよ」


「……ビョ〜キ?」


「う〜ん……細菌やウイルスと言った、目に見えないぐらいの”小っちゃい魔物”が体の中に入り込んで、体の中から人や動物を殺そうと攻撃してくる……って、今は思ってくれれば良い」


「ウェェェ〜!? だから、モヤしてヤッツケてるの……?」


「まぁ、そうだな。細菌やウイルスは大体、火や熱に弱い。増殖……増えるもとがなけりゃ、大体が弱っちいからな。それに婆さんの遺言状ゆいごんじょうにもあったけど、家を燃やして欲しいってあったしな……。不謹慎ふきんしんだけど、”でっかいまき”代わりとしてついでに燃やそうと思ってな……」


「……オバアちゃんのヒドイ姿……あれも、サイキンやウイルスってマモノの性なのかなぁ……?」


「いや、オレは医者じゃあないから詳しくは知らねェけど……。ベッドの下に隠されてた、あの地下室の光景……! あんな…あんな、首周りが紫一色に染ま・・・・・・・・・・る病気・・・なんて……地球じゃあ、物語フィクションの世界以外に見た事もねェモノだったよ……」



 ――屋根にも火の手が回り始めたベルガの家を見つめながら、そう語るボス。松明を投げた後、二人は火の粉が飛び散っても大丈夫なぐらいには離れていたが……それでも少なからず、その熱さは伝わってくるように感じていた……。



「……ねぇ、ボスゥ?」


 ――一緒に燃えるベルガの家を見つめていたオルセットが呟く。


「んっ? どうした?」


「ボスゥ……ケガしてネてたハズだよね……? オバアちゃんにも判らなかったハズなのに、どうやってボクのイバショが判ったの……?」


「あぁ、それか? まぁ、婆さんの忘れ形見のおかげ……って、感じかな?」



 ――そう言いつつ、ボスはスポジャケスポーツジャケットの胸ポケットから何かを取り出す。何かと、オルセットが見詰めていた彼の手に握られていたのは……小さな”丸い円盤上の物”であった。


 それは、上部に”菱形ひしがた状の針”らしき物が中心にあり……側面には葉っぱか、ツルのような……幾何学きかがく的な模様が彫られ、ちょっとした”工芸品”と言われてもおかしくない出来の代物であった……。



「……ナァニィ? コレ……?」


「魔針盤って、言う物らしい……」


「マシンバン?」


「あぁ。大きな魔力や、指定された特定の魔力がある方向を指し示す、特殊な魔道具だそうだ」


「……コレで、ボクのマリョクを追ったの?」


「いや、オルセットが村で盗賊団のクソ供と、オレを守るために戦ってくれたんだろ?」


「うん、オバアちゃんからキいたの……?」


「あぁ、その際に副隊長? ……とか言われていた奴が逃げる際、婆さんがソイツの肩に矢をブチ込んでたんだろ? その時の矢は”婆さんの魔力”が込められていたらしくて、それを辿ってあのクソ供のアジトに辿り着けたってワケだ」


「ヘェ〜。……でも、トチュウで矢をヌカれるとか思わなかったの?」


「おっ、オルセットがそんなトコに気が回るなんて意外だなぁ〜?」


 ――チョッピリニヤニヤした表情で、オルセットの横顔を見るボス。


「……ボスにバカにされてる気がする……」


 ――ここで彼女の”直感さん”が働いたのか……ブスッとした表情で軽くそっぽを向いてしまうオルセット。


「おいおい、悪かったって……。”成長した”って感じに言いたかっただけだよ……! ほっ、ホラ! 矢の事だって、婆さんが言うには……当たった際に矢から傷に魔力が移っ・・・・・・・・・・、それが治療されても一週間近くは残留するらしいからってのを、聞いてるからッ!」


「……ホント〜?」


「ホントホント! それにバカにはしてないからッ! ちょっとからかいたくなっただけだよ!」


「……分かった、ボスをシンじる……」


「……ハァ」


 ――そうして二人は、再び燃え盛るベルガの家を揃って眺め始める……。


「……まぁけど……何であの婆さんが、エルフが扱うような品々を持ってたんだか……」


「エルフ?」


「何だ、オルセット? エルフと仲良くしてそうな種族じゅうじんなのに、エルフを知らないのか?」


「……またバカにしてるボスゥ……?」


 ――ムッとした表情で、ボスの横顔を軽く睨んでくるオルセット……。


「いや、オルセットが……記憶喪失だってのは、忘れてねェよ! それに……オレの知ってるエルフが、この世界ウォーダリアのエルフと、全く同じって訳じゃあないかもってのは百も承知だってッ!」


「……じゃあ、ボスはエルフの何を知ってるの?」


「まぁ、物語の中でだけど……大体”耳が長い”、”人よりも長生き”、”森やその奥深くに住んでいる”、”魔法と弓矢が得意”、”大抵美男美女”……って所は、ここでもたぶん共通してるだろうと思ってる」


「……フ〜ン、じゃあオバアちゃんがその……”エルフのシナジナ”? をモッテいた事ってナニ?」


「今、婆さんの家の中で数十人近い赤壁盗賊団のクソ供の死体が、燃えているのは知ってるよな?」


「……うん、ボスがボクをここまでハコんでくれて……そしてボクが起きたら、ボスはたくさんのシタイの中で、タオれていて……オこそうとしてもオきなかったから、ボクがしばらく見守っていて……」


「……まぁ、オレが言うのもなんだが……洞窟にせよ、婆さんの前にせよ、よく魔物とかに襲われずに寝ていたなぁ……って思えるわぁ……。それと後、オルセットには迷惑掛けちまったな……」


「ううん、ベツにイイよ。ボクがボスをウマくオこせなかっただけだって……」


「改めて、見張りありがとな。それで話は戻るが……オレがオルセットを助けに行く直前、さっきのクソ供が寝ていた俺を襲いに来ていたらしいんだよな。それを全部、倒してくれていたらしい婆さんが……玄関先で座り込んでいた時に、魔針盤が入った袋と一緒にくれたんだよ」


「……ナニが入ってたの?」


「ポーションが五つに、エリクサーが一つだ」


「エリクサー?」


「オレの世界でも、名前だけはあった伝説とも言える回復薬・・・・・・・・・・だよ。婆さんの話じゃあ、この世界だとエルフの間に伝わる霊薬れいやくで、飲めばたちまちどんな怪我や病気も治し、四肢……腕や脚とかの欠損があっても、生えてくるだとか言ってたな……」


「……つまり?」


「……ハァ、とりあえず……今は”オルセットに飲ませた薬”って事だけ、分かってればいいよ……」


「あぁ! アレか〜!」



 ――取り留めもない話が続く中……どうやら二人は、ベルガの家を燃やして間もないようだ。その「ボスが起きた直後」に話す余裕がありそうではあったが……どうにも、その”余裕”がない程の事が、ベルガの遺体を見つけ出す”過程”か”その後”で、あったようだ……。



「でだ、そのエリクサー。流石に本当か眉唾物まゆつばものだったから、”魔針盤”と一緒に「スキャン」のスキルで調べたんだよ。そしたら……表示された説明文の中にエルフ独自の技術で・・・・・・・・・……って感じの記述があったから、何で婆さんが持ってるのかって思ったんだよ」


「やっぱり……ラフベルは、オバアちゃん……」


「んっ? そう言えば、婆さんの家の地下で見つけた遺言状にそんな名前があったけど……何か知ってるのか? オルセット?」


「うん。あのね、ボスゥ……」



 ――そうしてオルセットは、ボスにラフベルの英雄譚えいゆうたんを語ってみせるのであった……。ただ、彼女の理解力や記憶力はどうにも難があったようで……ベルガが語った内容よりも、詳細に欠ける物であった……。


 だが、そんなツギハギな話でもボスは根気良く、曖昧な場所は質問をしたり……独自に考察しては彼女に質問し返しつつ、補完したりしながら聞き続けたのであった……。


 しばらくして……ベルガの家の全体が、炎に包まれ始めた頃……ようやくオルセットが語り終える。



「……成る程な。とりあえず、オレが言える事としては……王国はクソだな」


「グスッ、そうでしょ〜ボスゥ〜」



 ――語っている内に、思い出しては泣いてしまったのか……指でゴシゴシと涙を拭いつつ相槌を打つのであった……。一応、忘れている◯者の皆さん向けに、”ラフベルの英雄譚”を簡潔におさらいしておくとしよう……。


 一つ。王国と帝国との長きに渡る戦争があった。


 一つ。王国がその戦争を終わらせるため(?)か、”停戦条約”を結ぶために帝国に向かう馬車があった。


 一つ。しかし、ラフベル一行はある子供を助けるために、その馬車を止めてしまう。


 一つ。国家存亡に関わる会議への邪魔をしてしまったが故に、ラフベル達は”国家反逆罪”と見なされ”死刑”と定められてしまう。


 一つ。しかし、通告されたその場謁見の間に居合わせた”宰相さいしょうの提案”によって、”とあるダンジョン”を攻略すれば、”死刑をナシ”にするとの取引を持ちかけられる。


 一つ。取引に応じたラフベル達一行はその日、地下牢にブチ込まれた夜に”とことん胸糞悪い物”を見せつけられつつも、体を休めるしかなかった……。


 一つ。翌日、途方もない胸糞悪さを感じつつも、看守によって連れてこられたのは……王城の地下に存在した、大きな”鉄の両開き扉”の前であった。


 一つ。その扉は「深淵しんえん巣窟そうくつ」と呼ばれる、いくつものダンジョンを攻略したラフベル達でさえも、全く知らない迷宮ダンジョンへの入り口であった……!


 一つ。ラフベルの仲間である「師匠のエルフ」の”ダンジョン攻略以外で、罪をつぐなう”と言う説得もむなしく……ラフベル一行は、そのダンジョンに身を投じ、死闘の果てに……!?


 ……と言った感じである。

 ……えっ? 中途半端? 何、人聞きの悪い事を……? せめて、”前話を読む楽しみを残した”と……長い物語だとしても、思って欲しい物である……。



「まぁ、国と国との問題を邪魔しちまった点でヤバいのは分かるけど、それでもなぁ……って感じだな」


「……ボスだったら、どうにかデキた?」


「……悪いが無理だな。子供を助けるくだりまでは良かったんだが、その後のラフベル……いや、ベルガの婆さんがあまりにも無鉄砲過ぎだ」


「……ムテッポウ?」


「……後先考えずに行動する事だよ。何個ものダンジョンを攻略しているとは言えど、全く見た事もない・・・・・・・・ダンジョンを攻略出来る! ……なんて、無謀過ぎる言い様だよ」


「エェ〜ッ!? ボスゥッ! 何で、あのイヤな”サイショ〜”みたいな事を……!」


「おいおい……むしろオレは、”シショーのエルフ”の気持ちで言ったんだけどな?」


「エッ?」


「後、攻めたくなかったけど……お話の中の”ラフベル”みたいに”強くなればいいんでしょ!?”的に、勝手に飛び出した挙句……この傷を作ってくれたのは”何処のドナタオル◯ット”だったかなぁ〜?」



 ――そう言いつつボスが独特な角度で指差すのは、自身の左脇腹・・・・・・であった。勿論、ほとんどの◯者の諸君は覚えているだろうが……マグズリーの”不意打ち”から(ある意味)オルセットを守った”名誉めいよの負傷”である。


 ベルガの治療により、ザックリと削られたハズの”左脇腹の肉”は何事もなかったかのように戻っていた。だが、彼の努力の賜物と思われる”腹筋シックスパック”がチラ見えする程に引き裂かれた……”スポジャケ”と”スポシャツスポーツシャツ”が、その傷が実際にあった事を、痛々しくも確かな証左しょうさにしていたのだ。


 しかしまぁ、オルセットの救出に必死だったとは言え……よくもこんなチョッピリ(脇)腹出しな、しかもボロボロ装いで、盗賊団の団長とヤリ合えた物だ……。



「うっ、ゴ……ゴメン……」


「……フッ、まぁ……チャンと反省しているみたいだし……それに、オルセットが”勇気”を出してくれなきゃ……今、オレはここに居なかったよ」


「ボスゥ……!」


 ――ボスに頭を撫でられ、目をうるおわせながら呟くオルセット。


「それに、オレの傷なんて……三日近くも拷問を受けていたオルセットと比べれば……」



 ――そう言いつつボスは、チラリと横目にオルセットを見る。そこには原始じ……失礼、もうそうじゃあなかった……。オホンッ、そこにはもう”オルセット”と言うべき感じの、彼女らしい”型にハマった装い”をした服を着た彼女が、ずっとボスと言葉を交えて居たのだ……。


 首元にレースの飾り、大胆に肩や腕の一部の布をバッサリとカットして露出させ、着物のたもとのような軽い膨らみを持たせた……全体的にオレンジ色の服。そこにアクセントなのか、「焦茶色のベスト」羽織っているのが、上半身の構成……。


 そして、上半身の派手さを抑えるためか……野暮ったく所々に修繕したと思われる”縫い跡”が目立つ「黒いズボン」。だが、ベルト代わりと思われる「コルセット風の腰蓑こしみの(布製)」が辛うじて、下半身の”ダサさMAX感”を抑え……仕上げに革製の「つま先が尖ったブーツ」で、”ファンタジー感”を演出してフィニッシュ!


 ……とまぁ、長々詳細を上げてみたものの……身もフタもなく一言で言ってしまえば、「踊り子風の服装」なのである。だが、彼女が踊りを踊って”チップおひねり”を貰うのは難しいであろう……。


 大衆よりも少数……特に、上半身の服の大胆にカットされた部分や、鎖骨付近から見え隠れする……未だに残る”痛々しい火傷あと”に対し、同情するような人達が居たらの話になるが……。



「……ボスゥ?」


「……ハァ……オルセット、話がある」


「? ナァニィ?」


 ――ボスとオルセット……この二人が、お互いの顔を見つめ合うように向き合う。


「悪いが……ここでお別れだ」


「……えっ?」


「まぁ……厳密には、”次の村か町まで”……ってトコだけどな?」


 ――ポリポリと後頭部の髪を掻きながら、苦笑するように歯を見せるボス。


「ど……どうして……!?」


「いや、どうしてって……」


「どうしてなのさァッ!? ボスゥッ!?」


 ――まるで頭突きを噛ますかのような勢いで、ボスの顔に接近しながら怒鳴るオルセット。


「……おいおい、まだ理由も言ってな……」


「キキたくもないよッ! ナンデさッ!? まだボクがヨワいッ!? まだボクのツヨさが足りないって言うのッ!? だから、ボスの”ナカマ”にしてくれないのッ!?」


「……理由を聞きたくないのに、理由を聞かせろって……そんな支離滅裂しりめつれつな……!」


 〜 ブォォォンッ! ピタッ! 〜



 ――一瞬、たった一瞬だったが……ボスは本能的な恐怖を感じていた。……彼が全く知覚出来ない程に素早く繰り出された、オルセットの”右ハイキック”……! それがまるで、死神の鎌の如く……彼の首筋で寸止め・・・されていたのだから……!



「ゴチャゴチャ言わず、チャンとリユウを言ってボス。じゃあなきゃ……次はホントにケリトばすよ……?」


「……フッ、戦うのが嫌だの、自分は臆病だの言っていたハズの子猫ちゃん・・・・・が……今じゃあ立派な猛獣・・になってるとはなぁ……?」


「……フザケてないで、早く言って」


「……分かった。分かったから、その今にもオレの頭をこう……”ラムネキャンディーの蓋”みたいに、パカッ! って、しちまいそうな足を下げてくれ……!」



 ――【……ラムネ? キャンディー?】――と、オルセットが内心疑問を抱きつつ、右足を地面へとゆっくり下ろす中……どうも、何処か”投げ槍気味”なボスは語り出すのであった……。



「まぁ、オルセットを仲間にしないのは……スゴくシンプルな話、お前が強くなった・・・・・・・・からだよ……オルセット」


「……ボクが?」


「あぁ。まだ自覚してないっぽいのは正直、チョッピリ驚いてるけど。それでも、武器も持たずに”素手”でマグズリーとり合ったり出来たんなら……進んで治安が悪い場所とか、危険な魔物が大量に出る場所に行かなきゃ、生きてイケるだろ?」


「……う〜ん、そうだろうケド……」


「それにだ。これからオレが行く先々は……たぶん、どれも人間が住んでる場所ばっかだ。このトルガ村で散々”嫌な目”にっただろ? なら、オレに付いて行けば……後は分かるだろ?」


「……そう……だね……」


 ――ズ〜ンとした感じに、顔を地面に向けて項垂れるオルセット。


「理解したか? てなワケで……何とかお前のお仲間同族を見つけるか、あるいはさっき言った”獣人とかの亜人”だろうと、受け入れてくれるような村や街までは、しっかり面倒を見てやるから……!」


「……な〜んて、ボクがカンタンにナットクすると思った?」


「……えっ?」


 ――スッと顔を上げて、真っ直ぐ自分を睨むように見つめるオルセットに、チョッピリ面喰らうボス。


「……ウソだ。今のハナシは、ゼッタイウソ」


「ハァッ!?」


「リユウは分かんない。……けど、ボスがウソを言っている気がする……!」



 ――琥珀色アンバーひとみをギラつかせながら、ジョジョにボスの顔に迫っていくオルセット。その行動にチョッピリ圧倒されるボスだったが……冷や汗を流しつつも、彼女の両肩を掴んで押し退けながらこう語る。



「こ、根拠もねェのに、そんな事を言ってんじゃあねぇよ!? オルセットッ!」


「うん、リユウは分かんない。けど、ボスはウソを言ってる……!」


「……ハァ、あのなぁ……オルセットにイジワルしたいだとか、困らせたいだとか思って、オレは言ってんじゃあねェんだぞ? さっきも言ったけど、オレに付いて来たら……この村で味わった以上に”嫌な目”に遭うのが確実だから言ってるんだッ! オレは、オルセットが心配だか・・・・・・・・・・らこそ・・・……!」


「……ウソだ」


「ハァッ!?」


「……またボス、ウソ言ったでしょ? タブン……ホントにハナしたい事じゃあないでしょ? 今までのは……?」


「……」


 ――ここに来て初めて黙り込みつつサッと、チョッピリ目を逸らしてしまうボス。


「……ねェ、ボスゥ? 何で……”オクビョウ”になってるの?」


「……オレが?」


「……ボク、カクゴしてたでしょ? ボクは、ボスを守りたい……って」


「……おいおい、別にオレは守ってもらう程、弱くは……」


「でも、”ジュウ”があっても……ボクよりヨワいでしょ?」


「ヴッ!?」


 ――図星だったのか目を逸らしながら、あからさまに嫌そうな顔で歯を見せるボス。


「それに……」





 〜 グイッ、ズキュゥゥゥンッ! 〜





「ッ!?」


 〜 ズチュゥゥ……ポンッ! 〜


 ……べっ、別に……また私が発砲した訳じゃあない……ッ! そう! 後半の不可解な音をふっ、含め! だ、断じてであるッ!


「おっ、オルセット……? お前……なっ、何で?」



 ――とまぁ……ここで私が色々とはぐらかしては、”せっかくなシーン”が台無しになりそうなので、恥を忍んで言わせて貰えば……。


 まぁ、大胆と言うか……オルセットが無理矢理ボスの頭を両手でガッチリと掴み、グイッと向き合わせた直後……飛び込むかのようにディープなキスを彼に・・・・・・・・・・した・・のである……ッ!


 勿論、現実味がないような表情をしながら上記のセリフを言った彼に対し……彼女はほんのチョッピリ頬を赤らめながら、ゆっくりと下がっていったのだが……。



「……ボクも分かんない。ケド……何故かゼッタイ、しなくちゃって思ったから……」


「……!?」


「ねぇ、イヤ……だった?」



 ――これも彼女の”覚悟”の一つなのであろうか……!? そんな私の思いを他所に、少し恥ずかしそうにしながら、軽く目を背けるオルセット。


 【いや……あの……その……!】――おいおい、軽くテンパってる場合じゃあないぞ、ボス君?



「やっぱり……イヤだった……?」


「……イヤ……じゃあない。嫌じゃあないから……! スゥゥハァァ……ちょっと待てェ! オルセット!」



 ――両手を前に突き出し、途中に深呼吸しつつも目を逸らしてながらそう語るボス。ただ、私は明確な”男女差別主義”をするつもりはないが……発する口調は男らしくも、そのリアクションはいささか”女々しく”ないか? ボス君?



「イヤ、じゃあ無い? ……じゃあ、何なのさ?」


「フゥ……いいか? オルセット? 本当にオレでいいのか? 気づいてなかったのかもしれないけど……本当なら、仕方なかったとは言え……強引に、お前の”初めてのキス”を奪っちまった奴だぞ!? オレが引っぱたかれても! お前が泥水で口元をすすいでも! オレから文句を言えないくらいの事をしてるんだぞ!?」


「……?」


「取り敢えず、今のは分かんなくても良いから聞いてくれ……! それにだ、それに……これもお前を助けるために仕方なかったとは言えど……オレは躊躇なく、三十人以上も人殺しをしてきた。

 地球で暮らしてた頃には全くやってなかった事を……躊躇なく、三十人以上もだ! いいか? 兵士でもなかったオレがだぞ……!?」


「……?」


「難しい話に聞こえてるんだろうけど……最終的にオレが言いたいのは、オレは明らかに精神異常者……イヤ、頭がオカシイ……ブッ飛んでる! 危ない奴・・・・なんだって事なんだよ!」



 ――ここまでツバが飛びそうな勢いで、必死に自身の”異常性”を主張してきたボス。確かに、その主張してきた事は”現代社会”なら……至極当然に”精神異常者”だの”殺人鬼”だのなどと、他人やマスコミに騒がれる”格好の的”になっていたかもしれないだろう……。


 だが……ここは異世界ウォーダリア。日本どころか地球そのものじゃあない……無法に近いこの世界で……ボスの眼前で内容が分からずとも終始、”納得のいかない表情”で静かに聴き続けていたオルセットのように……そんなマトモさだけで生きて・・・・・・・・・・いけるのだろう・・・・・・・か……?



「だから……そんな事にオレ自身気づいちまった以上、今後オルセットに何をするか分からないし……。それに……オレに付いてくれば、今回以上に危険な目に遭わせちまうだろうし……。

 極端に言えば……英雄HEROを目指すと言っても、向かう先は”地獄”しかないようなオレを……獣人でもないオレを……”好き”になんてなったら……」



 ――英雄HEROを目指すと言っていた大口も何処へやら、目を背け項垂れるように語り続けるボス。だが、依然として彼は気づいていなかった……! 先程からジョジョに拳を握り締め……いかにも”NO!”と主張するような、オルセットの険しい表情に……ッ!



「だから悪い、オルセット……。オレもスンゲェ心苦しいけど……次の村か町とかまで送るから……そこからは…何とか……ウッ!?」


 〜 ズキュゥゥゥンッ! 〜


「……ンンッ」


 ――ここでまさか二度目のキスッ! 何を考えてるのか、恥じらいを隠す事もなく……ボス両頬をガッチリ捉え、彼の唇を強襲するオルセットッ!


 〜 ズチュゥゥゥ……ポンッ! 〜


「プハッ! おっ、お……お、オルセット!?」



 ――何とか彼女を押し退けるようにして、離脱に成功したボス。だが、ここまで忠告したにも関わらず……自身に対して嫌でも分かる程の”明確な好意ディープなキス”を二度も受けた以上、動揺を隠しきれなかった……!


 無論、今も尚……少し俯き、前髪で僅かに表情が見えない彼女を前に、その動揺はジョジョに増していくばかりであった……ッ!



「……ド〜でもイイ」


「えっ?」


「ボスが……ワルい人だとか、三十人イジョウもコロしたとか、それでアタマがオカシイとか……全部、ゼェ〜ンブ! ド〜でもイイッ!」


「いやっ……オルセットには分からなくても……本当ッ、激ヤバな事なんだってッ! ヴッ!?」


〜 ズキュゥゥゥンッ! 〜



 ――ここで通算、三度目のキスッ! オルセットさんッ!? ボスの背中と後頭部をガッチリ抑え込んでする程なんて……! どれだけ、ボスのハートを撃ち抜こうとしているのだッ!?



 〜 ズチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ポンッ! 〜


 ――しかも、ここ一番に長い”ディープなキス”ですしッ!?


「……プハッ! ニャァ、ニャァ、だから……どうでもいいのッ! そんな事よりも……! ボクは、ボクが大事なのは……! ボスとイッショにイたい事だから……ッ! ボスと”ナカマ”でありたい事だからッ!」


「……オルセット……」


 ――オルセットの不器用ながらも必死な好意を前に……心が揺らぎ始めたような口調で呟くボス。


「だって……だって、だってッ! それゼンブ……ボクを助けるために、ヤってくれたんでしょ!? カッテな事をしていたボクを! 置いてかれてもシカタないハズの事をしたボクを!」


「……」


「ボク……キオクソウシツしてるし……はっ、ハずかしいけど……頭もヨクないからさ……。ボスが、なんで助けてくれたか……ハッキリ分かんないけど……でも! これだけは分かるんだよ!」


「……」


「こんなボクを……ニドも助けてくれて、アリガトウって……! そしてボクは……ボスの事がスキなんだって……ッ!」



 ――ここまで立て続けに喋り続けたオルセットを前にボスは、何処か困ったような……例えるなら、駄々をねる子供を前に叱ろうにも、それ以前に子供が可愛くて叱りたくても叱れない親のような……だが、彼女から見れば、”困惑してるかのような苦笑”を浮かべていた……。


 それがまだ否定されていると思ったのか、オルセットは目をつむり……再びボスの唇へと襲撃を仕掛け……!






 〜 スゥゥゥ……ピタッ! 〜


 ――だが止まった!? いや! ボスが人差し指と中指で、三度を越えようとしたオルセットのキスを、止めたのである!


「……ハァ……。良いんだな? 後悔はしないんだな?」



 ――この突如とした事態に目を見開いて驚き、驚愕の速さで首を引っ込めていたオルセットに対し……たずねるボス。その問いに対し、オルセットは僅かに目尻に溜まっていた涙を撒き散らしながら……強気にこう答えた。



「……もう! しつこいよボスゥッ! ボクはボスの事がスキ……ッ!?」






〜 ズキュゥゥゥンッ! 〜


 ――まっ!? まさかまさかまさかまさかの……! ここに来て、ボスの反撃ィィィィィッ!?


 〜 ブチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ポンッ! 〜


「……プハッ! ハァ、ハァ……なら、オレも後悔はしたくない……。オルセット、オレも……お前が好きだ……!」


「……ボスゥ……ッ!」


 ――自身の両肩に手を置きながら、真剣かつ真摯しんしな眼で見つめてくれているボスに応えるかのように……両目を涙を潤わせ、見上げるオルセット。


「あぁ……だからって訳じゃあないけど……いや、ここはむしろ”待たせすぎたな”と言うべきなのか……」


「……ボォスゥ?」


 ――折角の雰囲気ふいんきが台無しだよッ!? ……とでも言いたいような、拗ねた口調にジト目で見上げるボスの名前を呼ぶオルセット。


「あぁ……スマン、オルセット。その……何だ……今、言った事に……嘘偽りはねェんだけど……」


「……ナニ?」


「その……十九年も彼女がいなか・・・・・・・・・・った・・のに、それが急に出来ると思うと……照れと言うか…恥ズいと言うか……あぁもうッ! オレ自身がクソダサくて、クソッタレェェ……ッ!」



 ――【……カノジョ?】――と内心首を傾げるオルセットを他所に、右手で両目を覆いつつ恥ずかしいのか首を左右に振り続けるボス……。


 まぁ、何とも締まらないが……あえて弁護するように言えば、【”ハードボイルドな男”を演じてないと、正気を保ってられるかどうか……】――などと、語っていたボス君である。キッカケが何かは不明だが……恐らくここに来て、その”いつわりの仮面”がうっかりがれてしまったのだろう……。



「……ボォスゥ?」



 ……が、そんな戸惑う彼に対し、ずっと”疑問符?マーク”を浮かべてばかりでもなく、彼の内心なぞ知ったこっちゃあない彼女は……再び拗ねた口調にジト目で見上げる彼の名前を呼ぶ……!



「いやぁ!? スマンッ! オルセットッ! 言う! 言うからッ! そんな怖い声出さないでくれよッ!?」


「……ナニを言いたいの?」


 ――すっかり涙が流れ出てしまった両目で、ボスの顔を見上げながら……チョッピリ、ブスッとした表情で聞くオルセット。


「フゥ……あのな、オルセット? 俺が思う英雄HEROってのは……”助け出したい相手を失うどころか、かすり傷もさせないで救い出す”……って感じの奴なんだ」


「……」


「けど……メチャクチャ理想だってのは、嫌なぐらい分かってる。今の話が分からなかったとしても、三日近くも拷問を受けたオルセットなら……今の話の英雄HEROには、オレは全然どころか……バカにされて笑われても仕方ない程に、なれてないんだよ……」


「……ボスゥ」


 ――哀れむかのような口調で、彼の名前を呟くオルセット。


「だから……さっきの”危ない奴”の話もあるけど……それ以前に、今後の襲い掛かってくる敵や危険に対して……お前を守り切れる保証もない、現状”ダメダメな英雄HERO様”であるオレだとしても……オレの仲間になってくれるのか……?」



 ――半ば投げ槍気味な口調で自嘲じちょうするボス。だが……直前の口調と共に、表情が和らいでいたハズのオルセットが、再びブスッとした不機嫌な表情に変わる……!



「……ボスのバ〜カ」


「えっ?」


「もうワスれちゃったの? ボクは、ボスを守りたい……って」


「いやっ……忘れてねェよ……!」


「……そう? ケド、頭のヨクないボクでも、ボスは”ジュウ”がないと……ボクよりヨワイ・・・・・・・ってのは何となく分かってるからこそ、言ってるんだよ?」


「いっ、いや……そんな事は……ッ!」



 ――おや? だが、口調は何処か悔しそうだぞ? ボス君?


 ……黙っとけよ……ッ!



「それに……ボクがボスを”スキ”だからこそ……ボクは、ボスを守りたい……って、言ってるんだよ?」


「……」


「……ねェ? オネガイ、ボスゥ。ボクを……ボスのナカマにしてよ……ッ!」



 ――まるで、ダンボール箱に入れられた捨て猫のような……うるんだひとみに甘えるような口調でボスの胸に体を埋め、彼の顔を見上げるオルセット……! この反応に彼の頬が一瞬赤らんだ気もするが……すぐに動揺した表情に早変わりしてしまう……。だが、意を決したかのように、彼女に尋ねるのであった……!



「……ホント、良いのか? こんなオレでも……後悔しないのか?」


「……しつこいよ、ボスゥ? チャンと答えてくれないと……さっき言ったようにホント、ボスの頭をケリトばしちゃうぞ?」


「……フッ。おおッ、怖ェなぁ……! どうやらオレは……とんでもない猛獣ちゃんに、目を付けられちまったみたいだなぁ……?」


「……ニャフフ……良かった。やっと、いつものボスらしくなってきた気がする……」



 ――う〜ん、微笑ましく見えるこの光景だが……その背景は(一応、葬儀のためとは言え……)絶賛、家が火災中・・・・・なのである。そろそろ背景の事など、記憶の彼方にブッ飛ばしていたであろう”◯者の皆さん”が居たら……一応は、”不謹慎”であると、再び心に留めて欲しい。


 おっと、そんな注意をしている間に……いつの間にかボスとオルセットの二人は、再び真剣な表情でお互いを見つめ合ってるようだ。



「……じゃあ改めて……待たせたな、オルセット。オレの今後の旅に……オレの仲間として、一緒に来てくれるか?」


 ――真剣な表情で尋ねるボス。その声色には、先程まで呆れる程に見せていた”恐れ”や”迷い”は……微塵にも感じられなかった……ッ!


「……ウン。なる、なるよ……! ボスのナカマになるから、ボスは……ボスはずっと、ボクがタスケたいと思えるヒ・・・・・・・・・・ーロー・・・であってね……ッ!」



 ――対するオルセットも、真剣な表情で答える。だが……上記のセリフは後半になるに連れて、まるで”正義の味方ヒーローに憧れる無邪気な子供”が言ってるかのようになってゆくのであった……ッ!



「……あぁ、努力はするよ」



 ――【……それが例え……地獄に落ちるような道であってもな……】――何やら不穏な心境を述べつつも、世話になった人物ベルガの家が燃え盛っているにも関わらず……心通じ合った者同士、ガッチリとお互いを抱きしめ合い、熱烈な”ズキュゥゥゥンッ!”合戦をおっ始める、ボスとオルセット……!


 まぁ、誠に恐縮きょうしゅくで……遺憾いかんながら……非常に不謹慎であるがッ! ……遠目から見れば、その光景はある意味”映画ポスター”などとして描かれそうな……一度見たら忘れられないワンシーンになる程、印象的な場面となっていたであろう……!






「ねェ、ボスゥ? これからどうするの?」



 ――ちょうどベルガの家が”真っ黒な炭の山”に成り果てた、およそ数時間後……お互い眠い目を擦り合いながらも、オルセットはベルガの家の近くにあった”岩”の前に座るボスに尋ねていた。


 勿論、熱いキスを交じり合わせた以上……彼女は彼の真横、それも彼の右肩が密着しそうな程近くに並んで座っていたが……。



「そうだなぁ……取り敢えず、当面の目的としてはラフベル……ベルガ婆さんの”敵討カタキうち”を目標にしようと思ってる」


「ホント!? ボスゥッ!?」


 ――余程嬉しいのか、背後の尻尾も天を突き刺しそうな程にピンッ! と立てながら声を上げるオルセット。


「あぁ。世話になった恩があるからな。それを返さない”恩知らずな行為”なんて……オレが目指したい英雄HEROに反するしな?」


「ボスゥ……ッ!」


 ――目がキラキラと輝くような喜色に富んだ表情で、呟くオルセット。


「それに、こっちは私的だけど……その過程で、奪われたオレの記憶を持っているであろう”ドス”共を探したい」


「……カテイ? ドス?」


「あぁ、これはチャンと説明しないとな……」


 ――そう言うとボスは腰に付けていたナイフを抜き取り……その柄の先っぽで、座り込んでいた前方の地面に何やら”文字”を書き始めたのであった……。


「ナニそれ? ボスゥ?」


「まぁ待てオルセット。まず、最初に聞いていた”過程”ってのは……始まりと終わりがあった時の、その真ん中って事だ。今の婆さんの話だと……始まりってのはオレが”敵討ちをする”って話から始まる。

 次に、終わりってのは婆さんの仲間達を殺した、王国地下ダンジョンの最奥にいるって言う……クソッタレな化け物を・・・・・・・・・・ブッ倒す・・・・ってところまでだ。それで……この話で言う”過程”は、その王国地下ダンジョンに行き着くまでの間って言う事になる」


「う〜ん、ナルホド?」


 ――分かり易い程に首を傾げつつ、そう語るオルセット。


「まぁ、旅すれば嫌だと思っていても、分かるハズだよ……」


「じゃあ、ドスってナニ? そこのジメンにカいたモノは?」


「慌てんな、オルセット。順を追って説明するから……。最初に”ドス”てのは、オレらが確実にブッ倒さないといけない”目標”の一つだ」


「モクヒョウ?」


「……目指す目的の事。オルセットの事で言うなら、”オレを守りたい事”とかだよ……」


「あぁ〜! ナルホド!」


 ――またもや分かり易い程に首を縦に振りつつ、両手を軽く叩いてはそう語るオルセット。


「フゥ……それでだ。さっきから言っている”ドス”ってのは、奪われた”オレの記憶”を持っているであろう、クソッタレな奴ら・・・・・・・・の事だ」


「……え? キオクをモッテいるって、ど〜ゆ〜事? ボスゥ?」


「あぁ……あの時はオルセット、気絶してたからな……。まぁ簡単に言えば銀河……いや、オルセットが見た事もない”光”が入った、水晶玉みたいな奴に……オレの記憶が何故か入っていたんだよ」


「えっ、じゃあ……キオクがモドッたの!? ボスゥッ!?」


 ――嬉しそうな声色で尋ねるオルセット。


「いや……完全じゃあない。それに、本当なら集めたくないような・・・・・・・・・……胸クソ悪りィモンだったよ……」


 ――その時の激痛を思い出すのか、右手を額に当てながら顔色を悪くするボス。無論、心配しないオルセットじゃあない……!


「えっ? じゃあ、そんなモノ集めなくても……」


「いや、オレが我慢しても集めるべき物だ。胸クソ悪りィモンだったが……それを見たご褒美なのか、オレが持っていたハズらしい”スキル”も、一緒に取り戻せたんだよ。それが例え、オレだけにしか使えなくても戦力の増強……”オルセットを守る力”とかにはなるハズだから、集めなきゃいけねェんだよ……!」


「……スキル?」


「んっ? ステータスとか、自覚してないのか?」


 ――そう言いつつ、ボスは彼女の目の前に己の”ステータス画面”を虚空に浮かべる。だが……!


「……ステータス? て言うか……ナニしてるの? ボスゥ?」


「……マジか……!?」



 ――【えっ、じゃあ……オレしか認識してなかったって事か? それとも、この世界は”教会”とか特定の場所や……”ステータス開示が出来るアイテム”がないと、己のステータスを見れない感じなのか……?】――と、五秒も掛からない脳内考察を終えると、オルセットの方に視線を戻す。



「……オルセット? ホント、ステータスとか……スキルって言葉、知らないんだな……?」


「うん。知らないから、ボスにキいてるんだよ?」


「……マジかぁ……」



 ――【スキルとかの概念が伝わんない中で、どうやって強化してきゃ良いんだよ……!?】――どうやら、ボスの”オルセット強化計画”にまた一つ、難題が増えてしまったようである……。



「ちょっと、ボスゥ? またバカにしてる?」


「いや、してないから……。とりあえず、スキルとかの話はここまでだ」


「えぇ〜、気になるよ〜」


「詳しく説明するのが難しいんだよ。とりえあず今は、”オレ達を強くする物”ってぐらいに思ってくれればいい……」


「……フ〜ン。じゃあケッキョク、”ドス”ってナニ?」


「おいおい、さっき説明したばかりだろ?」


「チガウ。ナンで”ドス”って……ボスがヨんでるのかって、ハナシ」


「あぁ、そう言う事か……。それなら答えはシンプルに、”オレの名前”と混同しないためだ」


「……コンドウ?」


「……この場合、ちゃんと間違わないためって事。由来……どうしてそう呼ぶのかって話になれば、オレがゲーム好きな話から始まるな」


「……ゲーム?」


「遊びの一種だよ。少なくともこの世界には全くなくて、オレの住んでいた地球じゃあ、一般的だった遊び。その中で……今回のオレ達の冒険みたいな事を、”追体験出来る遊びRPG”があったんだよ」


「……あの、ダンチョとか……言ってたヤツをヤッツケル……みたいな?」


「そう! そう言ったトコまでの過程を、楽しんだりする遊びなんだよ!」


「へぇ〜」


 ――全く想像は出来てなさそうだが……それでも興味のありそうな声色で声を上げるオルセット。


「それで、その今オルセットが言った”団長”。そのゲームの中とかじゃあ、”ボス”や”ボスキャラ”って……呼ばれていた奴みたいなのと、同じだとオレは思うんだよ」


「えぇ〜あんなイヤなのが、ボスと同じナマエ〜!?」


 ――分かりやすい程の嫌悪感ある声で、そう語るオルセット。


「ハハッ、オレを思ってくれるのは嬉しいけど……大体”ボス”って呼ばれる奴は、悪いイメージな事が多いんだよ」


「……イヤだなぁ……ボスはチガうのにィ……」


「でも、今の話を聞いて……なんかまぎらわしいだろ? 同じにしたくないって?」


「……ウン。同じにしたくないね……」


「だろ? だからこそ……そこに書いた奴で、説明する必要がある」


 ――そう言うとボスは、地面に書いてあった文字を指差すのであった……。


「……コレ? ナンてカいてあるの?」


「これは”アルファベット”、あるいは”ローマ字”って呼ばれていた、地球にあった言葉だ。でだ、ここに書いてあるのは……オレの名前になる」


「……コレで……ボスゥ?」


「厳密には違うけど、さっき言ってた”ゲーム”に出ていた表記なら……この”bビー”、”oオー”、”sエス”、”sエス”で、”bossボス”って言うんだ」



 ――そう言いつつボスは、一つ一つのローマ字をナイフの柄の先っぽで指し示しながら、そう解説する。因みにボスが「厳密には違う」と言っていた事を明確に表記すれば……本来は、「BoSu」になる。



「ウンウン」


「でだ……オレがボスで、敵対する相手もボスキャラなら……その向かい合った構図は、ある意味鏡写し・・・。そう考えると、こうとも書ける」


 ――そう言うとボスは”boss”と書かれた真下に、再び同じようにナイフの柄の先っぽで文字を描く。だが、それは全く同じではなく……”b”が”d”となり、”doss”となっていた……!


「……これで、ドス?」


「そうだ、オルセット。この”b”ってのは、さっき言ってた”鏡”って物に映すと”d”って文字に見える。だからオレは今後……奪われたオレの記憶を持つ”クソッタレ供”を”ドス”って呼ぶ事に決めたんだよ」


「ナルホドねェ〜」


「まぁ本当は、敵が”長い名前”だったりする時……一々呼ぶのがメンドクセェってのもあるけどなぁ……」


「あぁ〜タシカに、あのダンチョ……グラ、グラボ、グラボキレイ? まぁボクも、イヤなヤツのナマエはヨびたくないね〜」


「ハハッ、そんな名前だったのか? あのクソ団長? 画質が上がりそうな名前だなぁ?」


「……ガシツ?」


「まぁ……今は、さっき言った”ゲーム”ってのを、キレイに映す物って思っておけば良い……」



 ――少し歯切れ悪く言い淀むボス。まぁ、仕方ないであろう……大体、中世ヨーロッパに近い世界で”コンピューター”やら”テレビ”やらと、”現代文明の賜物”と言える代物を説明するのには、難しくて当然なのだから……。



「フ〜ン。でも……いつかその、ボスがやっていた”ゲーム”ってのを、やってみたいなぁ……!」


「ハハッ、まぁ……前向きに思っといてくれ……」



 ――【”異界のスキル”で出だせなきゃ、永遠にお目に掛かれないだろうけど……】――なん…だと…? おいおい、悲しい事を思いながら目を逸らすなよ……ボス君?


 ……うるせぇ。なら”オンボフリントロロ拳銃ック・ピストル”以外、出せるようにしろよッ!


 ほぉ〜、言うねェ〜? では、そのスキルの真価が発揮されるまで……もう少々お待ちを……。


 えっ? ハァッ!? スキルの真価ァッ!?



「ボスゥ、ボォスゥッ!?」


「えっ、ハッ!?」


「も〜マエからあったけど、急にコロコロヒョウジョウがカわるのナニィ? ホント、ナニしてんの?」


 ――呆れ顔なオルセットに右肩を揺すられ、ハッと気づくボス。


「あ〜前から心配に思わせていたらスマン。ちょっと、考え事をしててな……?」


「……ホント〜?」


「ホントだって! あぁ……ホラ! それとさっき言った話をまとめるなら……まず一つ目に、婆さんの敵討ちのため、王国のダンジョンを目指すッ! 次の二つ目に、この世界の何処かに居る”ドス供”をブッ倒して……オレの記憶を取り戻すッ!」


「……それだけ?」


「……まだ言い終わってないって。そして三つ目に、オレが地球に帰れるすべを探す。もしないなら……この世界で安全に暮らせる場所を、探すか作る! ……ってのが、オレらの目標かな?」


「……えっ、カエる……?」


 ――ボスの”帰る”という一言に対し、意表を突かれたかのような……あるいは、まるでこの世の終わりのような表情と口調をあらわにするオルセット。


「まぁ、帰れるアテが全くないし……そもそも、そんな方法がこの世界にあるかどうかも分からないから正直、ほぼ望み薄には思ってェェェ……ッ!?」


 〜 ギュウゥゥゥゥゥゥッ! 〜


 ――おおっと、少々そっぽを向いて一人語りするような感じになっていたボスの胴に、オルセットが全力で抱きつくゥゥゥッ!


「イヤだよォォォ……ボスゥ……ッ! カエらないでよォォォ……ッ! ボクをまた……一人ぼっちにしないでよォォォ……ッ!」


「わっ、分かった……! 分かったから、オルセット……! 帰らない……と言うか……今は絶対…帰れないから……離せ、離せって! 内蔵全部……口から出ちまうって……ッ!」



 ――抱き付きと共に、涙も全力で流しまくるオルセット。これ程懐かれる事をしたボスは、誇っても良いと思うべきだが……コルセット未使用にも関わらず、よりシェイプアップしそうな自身の胴を前に、アップアップな状態となっているようだ。


 ……オマエなぁ……ッ!?



「イヤァァだァァァッ! 今イッシュン、ボスがウソ言った気がするゥゥゥ……ッ!」


「ウソじゃあねェってッ! マジで……頼むからッ! 離せッ……! オレを……殺す気かァァァァァッ!?」


 〜 ギュウゥゥゥゥゥゥ……ピタッ! 〜


「あっ、アレ?」


 ――急に締め付けから解放された感覚を感じ、思わず戸惑ってしまうボス。


「じゃあ……ヤクソクして、ボスゥ……」


「……帰らないって事をか?」


「……うん」


「……あのなぁ……短慮になるなよ、オルセット?」


「……タン…リョ?」


「浅い考え。深く考えず、すぐに答えを出そうとする事。この場合……もしオレが地球に帰れる手段が見つけられたのなら……それは、オルセットも一緒に・・・・・・・・・地球に来れるかもしれない可能性があるって、考えられる事もあるんだよ」


「えっ……じゃあ……?」


「美人だし強い。しかも可愛らしいトコロも多くある。……こんな良い彼女を、この殺伐さつばつとした世界に置いてくなんて、勿体ねェだろ?」


「ボスゥ……!」



 ――この時、オルセットは……ボスの”口説き文句の意味”を、百パーセントは理解していなかった……。だが……彼に多く褒められた事・・・・・・・・は直感的に理解しており、体の奥底から初めてと思えるような”アッタかく、ウレしいキモチ”がコンコンと湧き上がってくるのを感じていた……!


 【まぁ……けど、幻術魔法とか……その耳や尻尾を隠せる・・・・・・・・・・魔法か何か・・・・・がないと……観光は出来ても……日本どころか、地球に住む事が出来ないだろう事が、また難題だよなぁ……】――その一方で、キザな台詞セリフで決めつつも……脳内では即座に”もしも”をシュミレートしては、再び頭を悩ませる彼が居たのであった……。


 ……まぁただ、軽く苦言をこぼすなら……真面目マジメなのは良いが、サラッと良い雰囲気をブチ壊すような事を言わずとも思っているのは……と、言いたい物である……。



「ねぇ……ボスゥ?」


「んっ、何だ?」


「やっぱり……チャンとヤクソクして」


「何だよ……物足りないのか?」


「ン〜ン、チガウ。オバアちゃんのイエの前で、してくれたコト……」


「ッ!? なっ、何だ……? キス……か?」



 ――おやぁ? 散々「”ズキュゥゥゥンッ!”合戦」を”大切な彼女さん”としまくったってのに、まだ慣れていないのか〜?


 だ、黙れってのッ! クソッタレェェッ!



「そう、キス。あの”キモチイイ”コト……」


 ――頬を上気じょうきさせながら……チョッピリ恥じらいのあるような甘え声で、ボスを見上げるオルセット。


「……べっ、別の事じゃあ……」


「ボスゥ? ボクがまだボスのオナカにダキツイテいるの……分からないホド、バカじゃあないでしょ?」


 ――ちょっとした呆れ顔で、両腕にチョッピリ力を込めながらそう語るオルセット。


「……ごもっともな話で……」


 ――残念、どうやら退路はたれたようだ……。


「……ゴモットモ……まぁ、イイや。じゃあ、ボスゥ? 早くシテね?」



 ――そう言いつつ、ボスのお腹から抱き付くのをやめると……彼と目線を合わせるよう上半身を起こした後に、そっと目をつむるのであった。


 【国際結婚とか……こんな感じだったりするのかねェ……? 少なくとも個人的なイメージ、日本人の彼女だったら、ここまで積極的じゃあない気がするなぁ……。まぁ、嬉しくないワケじゃあないけど、やっぱチョッピリ小っ恥ずかしいと言うか……】――などと、恐らくながらも今更だろうが……”心の準備”が出来ていないボスは、そんな事を思いつつ軽くタメ息をく。


 だが意を結したのか、彼もまた目を瞑り……彼女の唇へとゆっくり、ゆっくりと……! 潜入スニーキング任務ミッションを仕掛けて行く……ッ!






 〜 SUPPLY DROP INCOMING 〜


「……ハッ?」


 〜 ピロリン♪ ドコォッ! 〜


「ドワァァァッ!?」


「ボスゥゥゥゥッ!? えっ、なっ、ナニコレッ!?」



 ――なっ、何と言う事であろうか……ッ!?

 ボスが潜入スニーキング任務ミッションを仕掛けようとした直前、彼の脳内に”流暢りゅうちょうな英語音声”が流れたかと思えば、次の瞬間ッ! 何処からともなく彼の頭上に”何か”が直撃したのである・・・・・・・・ッ!


 勿論、この唐突な彼の悲鳴を聞いて呑気にしてられるオルセットではなかったッ! 彼の頭を強襲し、転がり落ちた”何か”に驚愕きょうがくするも……直様すぐさまボスを肩にかかえると、全速力でその場から離れるのであったッ!



「……ゥゥ……」


「ボスゥ、ボスゥッ!? ダイジョウブッ!?」


「あんまり騒ぐなよ、オルセット……大丈夫だって……」


 ――直撃した部分をすりながら、今にも号泣しそうなオルセットをなだめるよう声を掛ける。


「ほ、ホント……?」


「ホント、ホント。マジだって。かすり傷にもなりゃしねェよ……」


「よ、ヨかったぁぁ……ッ!」


 ――一瞬、オクトパスかと思える程に、ボスを抱えたまま地面へとヘタリ込んでしまうオルセット。


「……なぁ、安心するのは良いけど……そろそろ降ろしてくれないか?」


「あっ、そうだったね……ゴメン」


 ――そう言いつつ、ボスを降ろすオルセット。だが彼の方はそれで安心した訳じゃあなく……スポジャケの内ポケットから”フリフリントロックピス・ピストル”を素早く抜き、周囲を見渡す。


「……で、オルセット? 素早く俺を非難させてくれた事に感謝するが……肝心なオレの頭に落ちた、クソッタレな物はどこにあるんだ?」


「えっ? あ、アレのコト……?」


 ――オルセットが恐る恐る指差す先……ボス達が座っていた岩の前に、未だ転がっていた物を見たボスは……!?


「……えッ? ダン……ボールだと!?」


「……ダン・ボール? それが、あのマモノのナマエェ? ボスゥ?」


「いや違う。オレの世界じゃあ……一般的な箱だよ。”木箱”や”タル”とかよりもずっと軽い、紙製の箱だ。後……途中で区切らず、”ダンボール”って言うんだよ」


「ヘェ〜。”ダン・ボール”じゃあなくて、”ダンボール”かぁ……」


「しかし、何でオレの頭に? この近くにオレ以外の、転生者か転移者でもいるのか? ソイツらのイタズラ……にしても意味が分からな過ぎる……!」



 ――そんな考察を呟きつつも、ボスはジリジリとダンボール箱の元へと”フリピス”を構えながら歩み寄って行く……! だが、その道中で彼の考察にあった人物転生者or転移者の襲撃どころか、妨害すらもなかった……。


 それどころか、彼が語っていた”団長ドス”を撃破後……落ちていた「謎の水晶玉」の時のように、段ボールを軽く叩いたりするなど”神経質なチェック”をしても何も起こらなかったのである……!


 大量の付属品と共に”六十インチ以上の液晶テレビ”が入っていたかような幅と大きさ……ボスが被ってもスッポリと身を隠せそ・・・・・・・・・・うな大きさ・・・・・……ッ! そんな大きさであっても、何も起こらなかったのである……ッ!


 進んでチェックする彼が心配なのか、背後でソワソワとするオルセットを他所に彼は……突拍子とっぴょうしとしか思えないが、しかしあり得なくない考えに辿り着くのであった……!



「”そのスキルの真価”……まさか、オレのスキル?」



 ――脳内に頻繁ひんぱんと思える程に響く、謎の声……。大抵は無視しているモノの……その内の一言に、ボスは答えを見出していたのだッ!


 ……んな事言ってねェで、そろそろ何企んでるか白状したらどうだ、クソッタレ?


 嫌だなぁ……そんな私を”陰謀論”めいた目で見るなんてェ、いけずゥ〜。あのですねェ? 多少、やかましいかもしれませんが……私は純粋に、貴方の”実況”や”サポート”をしたいんですよ? けど、あんまり助け舟を出すと……◯者の皆さんに、チートだなんだのって”白い目”で見られかねないのが……。


 ……おい? 後半、何を呟いてんだよ、クソ野郎?


 いんや何も? それよりも……そろそろその”ダンボール”、開けないと後ろの彼女さんが、私よりも喧しくなりますよ〜?


 ちょ、おいッ! 待てよッ! クソ野郎ッ!



「ボスゥ? ボォスゥッ!? もう! また、何考えてるのさァッ!?」


「うわぁ!? ビックリしたぁッ!? そんな怒鳴るように言うなよ、オルセットッ!?」



 ――ホラァ、私の忠告を聞かないから〜。

 余計に驚かなくて良い事に、驚いてしまうんじゃないかぁ〜? ボス君?


 ハァ……ご忠告どうも、クソッタレッ!



「イッちゃうよッ! やっぱりアタマにブツかって、ボスがおかしくなっちゃったかと思っちゃうよッ!」


「本当に開けて大丈夫か、考えていたんだよ!」


「……じゃあケッキョク、どうなの?」


「チョッピリ、気は進まないけど……開けてみる。けど、オルセット? もし……危ないと思ったら、さっきみたいにオレを下がらせてくれ」


「……うん、分かった。気をツケてェ、ボスゥ」



 ――不安をまだ残すボスだったが、未だ右手に握るフリピスをより強く握り締めつつも……意を決して段ボールを開封していく……! 果たして……中に入っているのは、”希望”か”絶望”か……はたまた”Am○zonの品”か……ッ!?



 〜 ……パカァ……! 〜


「……何もない?」


 ――だが、その神出鬼没しんしゅつきぼつな出方に反し……そのダンボール箱の中身はスッカラカンのもぬけの殻であっ……!?


 〜 ……シュワァァァァァ……! 〜


「……煙?」


 〜 ……パシュゥゥゥン……! 〜


「ウワッ!? 信号弾フレアかッ!?」



 ――何と! 何もないかと思えば、何者かの魔法の仕業か……ダンボール内から突如、白い煙がモクモクと上がり始めたのである! そして、ボスが反応した次の瞬間ッ! 彼の言う”信号弾フレア”のように、その”赤い光”は一気に空高く打ち上げられて行ったのである……!


 突然の射出に驚き、思わずダンボールの中身を覗いていた彼は尻餅を付いてしまうが……特にそれ以外に目立った外傷はなかった。だが、彼の顔色は酷く”焦り”と”緊張”にむしばまれていたのであった……!



「気を付けろオルセットッ! やっぱこれは罠だ! 今のでどっかの敵に、合図を送られたに違いない! 敵が攻めてくるぞッ! すぐに周囲を警戒して……!」


「ボスゥッ! そんなコトよりも、上ッ! 上ミてッ!」


「おいッ! オルセットッ! 幾ら”物を知らない”からって、呑気に信号弾フレアを珍しがってる場合じゃあ……えっ!?」



 ――流石にこの状況で、オルセットの呑気さを見逃せないボスは彼女を怒鳴り付ける。だが、ふと彼も”信号弾フレア”を見上げた際、彼女に怒鳴りつけた事を前言撤回したいと、全力で後悔していたのだ……! 何故かと言えば……?



 〜 ……シュワァァァアァァァァン……ッ! 〜


「……嘘だろォォォォォォォォォォッ!?」


 ――独特な音ソニックブームを発しながら……先程、空に上がったばかりの筈の”赤い光”がボス目掛け、”流れ星シューティングスター”如く急速降下してきていたのだッ!


 〜 ……シュワァァァアァァァァ、ドプンッ! ……バタンッ! 〜


「ボスゥッ!?」



 ――”赤い光”はボスの頭に直撃すると、彼を押し倒すかのように頭の中に吸い込まれて行き……そのまま彼は仰向けに倒れてしまうのであった……! この時、”瞬間移動”と錯覚する程の足の速さを出せるオルセットでも、即座に反応が出来ない程、その”赤い光”は速かった。


 何も出来ず……言葉を詰まらせていた彼女の無念を現すかのように、その右腕が彼の元へと伸びたその時……ッ!



 〜 ……ピシュゥゥゥゥゥゥンッ! 〜


「ウワッ!? ナニィッ!?」



 ――お釈迦しゃか様や神様の放つと言われる”後光ごこう”と比べりゃ、チープではあろうが……。それでも、大抵の人は神々しいと思ってしまうような”赤い閃光”が突如、ボスの体から発せられるのであったッ!


 そのまぶしさに、思わずオルセットは顔を背けつつ……両腕で目をガードしてしまう。だが、少ししてから再び彼の方を見ると……その神々しい風景は、まるで最初からなかったかのように彼が仰向けに倒れたままであったのだ。


 特に彼女の”嗅覚”や”直感”にも危険は察知されなかったのか……離れていたのは数十メートルにも満たない、”短距離”にも関わらず彼女は全力でボスの元へ駆け付ける……ッ!



「ボスゥッ! ボスゥッ! 大丈夫!? ボスゥッ!?」



 ――まぁ、やり方を知らないと信じたいが……ボスのスポジャケの胸ぐらをムンズと掴んでは、必死に上下左右とシェイキングして彼を起こそうとするオルセット。彼を”モノスゴクシンパイ”しているのは、非常ヒジョ〜に良く分かるが……もう少し、その……穏便おんびんに……!



「イテ……オワァァ!? オワァァァァッ!? オワァァァァァァッ!?」


 〜 グワンッ、グワンッ、グワンッ、ピタッ! 〜


 ――”イテテ”といった事も言わせてもらう暇もなく、頭と共に呟こうとした言葉もシャイキングされてしまうボス。


「ボスゥッ! ヨかったぁ……!」


「……ゲホッ、ゲホッ! オルセット……今度、素人でも出来る”介抱の仕方”を教えてやるから……今みたいな事は、二度としないでくれ……!」


「えっ、あぁ……ゴメン、ボスゥ……」


 ――上体を起こし、額に右手を当てつつ……”やれやれだぜ”と言わんばかりに首を左右に振るボス。


「それよりオルセット、いいニュースだ」


「……イイニュース?」


「あぁ、良い知らせ。なんとも奇妙なモンだが……あのオレに入ってきた”赤い光”。アレはどうやら、オレのスキルの一部らしい。さっき、オルセットにやたらめったらシェイキングされてる間に、新しいオレの力が支援投下サプライされたとか知ったんだよ。……まぁ、実にフザけてるけど……」


「……ヘェ〜、どんなの?」


「じゃあ、今から一つやるな? ただ……これから何があっても、さっきみたいに慌てたりすんなよ?」


「う、うん……」



 ――そう言ってボスは立ち上がり、それに連れてオルセットも立ち上がる。

 【ホラ、オルセット。握手……いや、この手を握ってくれ。それで、握った後に目を瞑るんだ】――彼は右手を彼女の方に伸ばしながら、そう語る。


 彼の右手から彼の目といった具合に視線を移し、チョッピリ不安げなまなこを彼に向けていた彼女だが、ボスの真摯な視線を信じ……彼の言われた通りに従うのであった……!



「”絆”を結ぶ魔法よ……なんじを親愛なる”戦友とも”と認め……そして、同時に最高の”相棒パートナー”として……目に見える形として示せ……! <バディバンズ>……ッ!」


 〜 ペカァァァァァァァァァァ……ッ! パシュゥゥゥゥゥゥンッ! 〜



 ――新たに入手したスキル発動のための呪文か、ボスが唱えた後には、彼の「ガンクリガンズクリエイト」発動時の閃光に良く似た……あるいは、それよりも派手な閃光が二人の周囲を眩く照らすのであった。そして、独特な閃光音の後……二人が瞑っていた目をゆっくりと開くと……?



「ンッ、ナニが……! ウワァァァ……! ナニナニ!? ナニコレボスゥ!?」



 ――目を開けた後、何が起こったのか確認するために周囲を見回していたオルセットは、自身の”右手首”の変化に気づく。うっとりとした瞳で見つめるその先には……”金剛石ダイアモンド彫刻エングレーブが彫られた腕輪”がいつの間にか装着されてた。


 勿論、それに見惚みとれつつもはしゃぐ彼女を横目に、眺めていたボスにもだ。



「これが”バディバンズ”ってスキルの効果か……。一見は何の”戦術的タクティカル優位性アドバンテージ”もない、豪華な彫刻エングレーブが彫られた腕輪ブレスレットに見えるが……」


「ねェ、ボスゥ! ナァニィ!? ナァニィ、コレェ!?」


「あぁ、それか? 具体的な名前はないんだが……名付けるとしたら「ダイアレット」だろうな。オレら傭兵団・・・・・・の旗揚げのあかしみたいなモンだ」


「ヘェ〜、ダイアレットッ! ……でも、”ヨウヘイダン”ってナニ?」


「まぁ、その事はちょっと待て。その前に……コイツは見えるか?」


 ――そう言いつつ、ボスは再び己の「ステータス画面」を虚空に浮かべる。すると……?


「ッ!? ウワァァァ……! ナニナニ!? ナニコレボスゥ!?」



 ――そう言っては、まるで”ネコジャラシエノコログサじゃれる猫”を連想させるような……虚空に浮かぶステータスを無邪気に掴もうとした。何度も繰り返すも……その掴む手は、全てすり抜けていたが……。



「ハハッ、そうジャレれついても掴めねェよ。これはある意味、自身の”魂の力”……あるいは”心の力”を視覚化したようなモンだ。これがオルセットにも見えたって事は……お前もコレを出して見れるハズだ」


「ホントォッ!?」


「あぁ。こう……出したい! ……って、思いながら「ステータス」と声に出すか……そう思いながら心の中で「ステータス」言えば、出せるハズだぞ」


「そうなの? じゃあ、ステータスッ!」


 〜 ヴィィン 〜


「ウワァァ……! デタデタッ!」


 ――ボスと同様に、オルセット自身の目の前にも「ステータス画面」が虚空に現れるのであった……! 


「ボクのステータス、ナニが出ているのかなぁ……? アレッ? ナンてカいてるか……分かんないや……」


「ハハッ、どれどれ……チョッピリ読んでやろうか?」


「ホントォッ!?」


「あぁ……えっ? ……マジか?」



 ――オルセットの側面に回り込むようにして、彼女が表示していた「ステータス画面」を覗き込むボス。だが……それを流し見していたボスは、言葉に詰まってしまう……!



「……どうしたの? ボスゥ?」


「いやぁ……オルセット? 済まないが……じっくり読んでやるのはまた今度……って事で良いか?」


「エェ〜ナンで〜ッ!?」


「悪いな。新しいスキルをゲットした以上……それを使った”やるべき事”が出来ちまって、それをオルセットに手伝って貰いたいのもあるから……」



 ――【……なんかウソっぽい……】――と、ブスッと呟くオルセット。まぁ、彼女は気づいてるかは知らないが……ボスの目は動揺するかのように泳いでいるし、声はそれを隠しきれていないし……本当であろうと……!


 おい、マジで黙れよ……ッ!



「……分かったよ。でも、チョットはオシえてくれても良いでしょ?」


 ――仏頂面で、そうボスに向けて喋るオルセット。


「分かった、分かった……まぁ、言うなら……少なくとも、さっきオルセットが言っていた”ボクはボスより強い”ってのは……事実だ」


「ホントォッ!?」


「あぁ、マジのマジ。オオマジって奴だ……」


「やったァッ! それなら、ボクはボスを守れるね! ボスゥッ!」



 ――オルセットがそう飛びねはしゃぐ傍ら……彼女に教えたにも関わらず、何故か落ち込むボス。だが一つ、確実に公開するとすれば……オルセットの”STR”の数値は、軽く”彼の五倍”はあったのである……!


 ……聞こえてないにしろ、公開すんのマジで止めろよ……ッ!



「あっ、そうだ。ねェ、ボスゥ? さっき言ってた”ヨウヘイダン”……ってナニ?」


 ――両目を右手で覆い、首を左右に降りつつ落ち込んでいたボスに、唐突に質問を投げかけるオルセット。


「えっ、あぁ……そうだったな……。まぁ、簡単に言えば……今後、オレ達は冒険者になる事はない・・・・・・・・・・からかなぁ」


「ど〜ゆ〜コト?」


 ――首を傾げるオルセット。


「おいおい、オルセット? 酒ブッ掛けられたり、引っぱたかれってのに……あんな奴らがいるような場所で働いて、また会うような事をしたいのか?」


「……イヤだ」


 ――眉間にシワを寄せ、明確過ぎる拒否反応を示すオルセット。


「おぉ!? ほぼ即答だなぁ……まぁ、だろ? だからオレも、この世界で生きて行くにはどうすれば良いか考えたんだよ。それで参考になったのは、婆さんが話してくれた一般常識だ。その中にそれがあった。……”傭兵の存在”だ」


「……ヨウヘイ?」


「あぁ、簡単に言えば……金で雇われる兵士の事だ。要は国に属さない……この世界で言えば、王国兵や帝国兵じゃあない兵士……と言った感じになる」


「じゃあ……センソウってヤツに、ボクタチも出るの?」


「まさか。オルセットの事を”ボロクソ”に言う……そんな国どころか国民を守るために、参加するワケねェだろ? ただまぁ……何かしらの”義理”が出来ない限りはって、事になるが……」


「……ど〜ゆ〜コト?」


「まぁ、噛み砕いて言えば……オレらが仕事する相手は基本的に”国”じゃあなく、この”トルガ村”みたいな”村”や”街”とかの、「小さな集落」が対象になる。

 そこでオルセットに対して差別するような奴ら・・・・・・・・・じゃあなければ……金を対価に、”素材の採取”や”魔物退治”、今回戦ったクソ盗賊団とかの”武装集団の討伐”……まぁ、ある意味”何でも屋”みたいな事をするんだよ」


「へぇ〜ナンデモ……ねェ〜?」


「戦う力はオレらにあるだろ? だからそれを有効活用してるだけだ。……ちょっと懸念はあるが……」


「……ケネン?」


「心配事。言えば「冒険者ギルド」に属していないデメリットだ。村は大丈夫でも、街や王都とか……警備がしっかりしている場所だと、ギルドが発行している”証明書ライセンス”がないと入れないかもしれないと、言ってたからな……。

 他にも、オレらが有名になってくればそれを面白く思わない奴らが、”襲撃”とかの”妨害”を仕掛けてくるかもしれない……」


「……それでダイジョウブなの? ボスゥ……」


 ――またも完全には理解してなそうではあるが、要点をつまんだのか……心配そうな表情をしながらボスを見る。


「安心しろ。仕事がなくて金を稼げなくても……今回ゲットした”スキル”のお陰で、”最低限の生活ベースキャンプ”は出来る。それに……最終的には、何処かしらにチャンとした”家”か”基地”は構えたいと思っている」


「……ホントにダイジョウブ?」


「大丈夫、信じろ。少なくとも……オレに会う前に味わっていたであろう、ひもじかったり、貧しかったり、差別をさせないよう、努力はする」


 ――そう言うとボスは、今更ながら汚れていたズボンの汚れをはたく。そうした後にベルガの家の残骸を背に、オルセットに手招てまねく。


「行くぞ、オルセット」


「えっ? ドコに?」


「オルセットにはシャクだろうが……目的地はあの”クソ赤壁盗賊団のアジト”だ」


「えェェ〜ナンでェェェ〜?」


「明日以降に備えるためだ。今んトコ……オレのスキルには、排除した敵の武器・・・・・・・・がないと……満足な”寝床”や”飯”に在り付けないんだよ」


「……う〜ん」


「それとも、オルセット? 明日以降の夜も、昨日の”燃やした婆さんの家”のような……暖かい暖房が容易に手に入るとでも思っているのか?」


「……いや、ないとオモう……」


 ――少々能天気な表情をしていたオルセットだったが、ボスが出した質問に神妙な面持おももちで納得するのであった……。


「オルセット? 嫌だと思うが……俺と一緒に旅をするって事は、こういった”汚い事”も……時に平気な顔で出来るようにならなきゃいけねェんだよ……」


「……」


「……落ち込んで止まってても、何にもならねェよ。人は”理想”や”夢”だけで生きていけるワケじゃあねェんだ……。オレの”英雄HEROとして理想”や、無念に終わった”婆さんの夢”と……嫌でも見てきただろ……?」


「……」


「まだ嫌だと思うなら……その思いは、”深淵しんえんの迷宮”奥に居るって言う「クソッタレの化け物」まで、しっかり取っとけ。そして……そいつと会ったら、その思いを乗せた一撃を……思いっきりブチかましてやれ……ッ!」


「ッ! ……ウン」


「……フッ、ようこそ英雄HEROの道へ。ただし……向かう先はOUTER HAVENだろうけどな……?」


「……ウン、ボスゥ。どんなイヤなコトでも……ヒドイ事があっても……ボクはボスのソバに、ずっとイるからね……!」



 ――そう言いつつ、かつて冒険を夢見た老婆が住んでたこの地を背にして、ボス達はその場から旅立って行くのであった……。


 その老婆が住んでいた周辺の土地や草むらは……未だ赤黒く、生臭い匂いを発してはいたが……そこに吹き込む風は、異様に”爽やか”であった……。それに不思議な事に、昨日に雨が降らなかっ・・・・・・・・・・にも関わらず……その土地の空には「虹」が架かっていたのだ。


 しくも……それは、彼の頭に入り込んだ”赤い光の軌跡”に沿うように……。


 そして……彼が何故”岩の前に座っていた”のか、気になった”◯者の諸君”も居るのではないだろうか……? その答えはその岩につたなくも、この世界ウォーダリアの言葉で刻まれていた、”碑文ひぶん”にあった。


 【約束を果たし義理固き英雄ベルガ――師匠のエルフと共に、無念に散った仲間達を思いつつ、この地に眠る】


 ……そう刻まれ、その碑文の下には……供えられたかのような何かの”白い花”が風に吹かれ、そよいでいたのであった……。





<異傭なるTips> ARCHIVE:ベルガの遺書


 ボス、オルセットへ。


 これを読んでいるって事は、アタしゃはもうオッんじまってんだろうだワサねェ……。けど同時に、あのクソ盗賊供の魔の手から上手く逃れてきたか……あるいは、まさかと思うけど、一人残らず倒しちまったのかしれないワサねェ……。


 まぁ、とにかく……ここに帰れて「おめでとう、お帰り」とだけは、言っとくワサ……。


 けど……憎まれ口なアタしゃに似合わない世辞を見ても、ど〜せ「何で何も言わずに死んだんだッ!?」……って、多分怒ってるだろうワサねェ……。まぁ、その怒り顔をアタしゃが腹を抱えて、あの世から笑っているのも面白そうだワサけど……イイワサ。せっかくだから教えてやるワサ。


 お貴族クソ様みたくお上品かつ、まどろっこしく言える性分でもないワサから、率直に言うワサなら……アタしゃは”病気”だったんだワサ……。


 いや……数十年も「デトーション解毒薬」や、「ハイポーション」、その他ありとあらゆる薬草を配合して作った薬を試し続けても、一切治らず……ついには薬が一切効かなくなったやまい……いや、ここまで来るともう……”呪い”と言っても良い「毒」だったワサね……。


 そうだワサ。お互い”記憶喪失”って大変な事になっていても……本音で話し合っているであろう、お前さん達の傍で……アタしゃは……ずっとウソをき続けてたんだワサ……。「アタしゃは病気じゃあない。疫病のように、うつるかも分からない「毒」にさえむしばまれてもない……元気で頑固で物好きな、偏屈の老いぼれババア」を演じ続けてたんだワサ……。


 もう、オルセットのお嬢ちゃんから「英雄ラフベルの話」を聞いてるかも知れないワサが……何処となく察しの良いお前さんなら、「ラフベルはアタしゃベルガ」だって……気づいてるだろうワサねェ……。まぁ、最後の最後で無邪気な子供みたいだったお嬢ちゃんが、急にアタしゃの事に気づき掛けたのは驚いたワサけど……。





 (書いてる最中に吐血したのか、血で汚れて読めない部分がある……)





 ……スマナイワサが……このイマイマしい”ドク”のセイか、ただでさえマトマラなかったアタマが、サビツイテきたワサから……ここからはテミジカにカクワサ。


 まず……ここまで見たら、アタしゃのイエごと、アタしゃの死体をモヤシツクしてホしいワサ……。


 ツぎに……アタしゃや、アタしゃのイエにあるものは、ゼンブスきに、モッテいってイイワサ……。


 サイゴに……デキればでイイ。バレットお こくの オ ジョウのチカにあるダ ジョンの スを……ブッコロシテ テホ イワサ……。


 「エイ ウラフベルノハ シ」を知ッテ オマエさんら ら……分カル  だろ……?


 サ ゴニ……アタシャ りもオ ビョウデ マヌ ナシニ  をシタラ……アノヨデ  ケリア テ……


 (最後の筆跡が、手紙から飛び出すように乱れている。どうやらここで力尽きたようだ……)

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