第11話 RE:Mission-10 行商人ト交流セヨ
〜 ヒソヒソ…… 〜
「おっ、おい……オルセットぉぉ……待ってくれよォォ……!」
〜 ヒソヒソヒソ…… 〜
「もう、だらしないよぉ? ボスゥ。
オバアちゃんが言っていた広場までもう少しなんだから、ガンバッテよ〜」
〜 ヒソヒソヒソヒソ…… 〜
「いや……オルセットは楽かもしれないけど……筋トレしていたオレでも……!
キツイんだよ……!? この……”薪”の量は……ッ!」
――二人が背負いしチョモランマ……もとい、
だが、その一方でオルセットはほぼ普段と変わらない足取りであった。
……その背中にボスの
恐らく、未だ自覚していないであろう彼女の
この光景を前にボスも、「いや……江戸時代じゃあ、女性でも60kgもあるらしい
〜 ヒソヒソヒソヒソヒソ……ねぇ、アイツら……。 〜
――二人は、村の中央広場へと歩き続ける一方……オルセットの頭頂部付近にある”黒い耳”が、ピクッと動く。
〜 ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ……あぁ、あの変わり者の”ベルガの偏屈ババア”の所に駆け込んだ……。 〜
――彼女の快活な足取りが、ジョジョにその快活さを失っていく……。
〜 ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソ……本当、獣人を助けるなんてどうかしているぜ……。 〜
――やがて、彼女の足取りはパッタリと止まってしまう……。
〜ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ……本当だよ、一週間くらい前にあの男がオレん
……だよな〜? しつこく食い下がって、本当迷惑だったよな……。
……ねぇねぇママ〜? あのオンナのヒト、アタマにおミミがツいているよぉ〜?
……こら、見ちゃダメよ……! あんな
……
……ホント、イカれてるよな〜? 王都で
……あぁ、そうだよなぁ〜? 王家に仕えていた、ラッキーなハズの亜人が…… 〜
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……やっと……追いついた……!
……んっ? どうしたんだ? オルセット? そんな
「……ッ!? うっ、ううんッ!? 何でもないよボスゥ!
ただチョッピリ……疲れちゃって……」
――オルセットの真横にようやく
「……そうか?
オレが言うのもなんだけど……無理せずゆっくり進んでも良いんだぞ?」
「ううん、大丈夫だよ……。早く行こう、ボスゥ!」
「あぁ……」
――そう言うと、二人は再び歩み出す……。
だが……以前と同じように前へとガンガン進むのではなく、オルセットは何故かボスの覚束無い足取りに、
「……ねぇ、ボスゥ?」
――正面を向いたまま少し俯き、彼女が
「んッ? どうした?」
「……ボスはぁ……ボクの事……好き?」
「……えっ?」
――突然の
「お、オルセット? 流石にオレ達は、会って
なっ、なのに、そんな性急にオレ達の……その……男女間の仲の結果的な物の答えを求めるというのは……!?」
――「いやもう何”
「……何言ってるの? ボスゥ?」
「えっ? ……じゃあ、何が”好き”なんだ?」
「……
――一瞬、ボスはズッコケそうになる。
しかしながら、ここで本当にズッコケては薪が四方八方に散らばったり、自身の腰や脚が大ダメージを受け兼ねなかったので、なんとか踏ん張ったのであった。
そして、オルセットの”世間知らず”に「好きの”主語”」と「好きの”意味”」を補足して行く……!
そうして、彼女は浮かない顔をしながらも再び彼に質問して行くのであった……。
「ボクが……ボクが、”ニンゲン”じゃあなくてもだよ……」
「……”種族”の事か?」
――非常にゆっくりとした歩み中、ボスは髪に隠れた彼女の横顔を見つめながら確認する。
「……そう、たぶん”シュゾク”の事……。ボスも前に言ってくれていた……」
「急にどうしたんだよ? 今更そんな事を言って?」
――一向に視線を合わせずに話すオルセットを心配するボスであったが、彼女は再び足を止めた……。
「……”ボス”と”オバアちゃん”だけなの? ……
「……”オレ”と”ベルガ婆さん”だけ……?」
――オルセットの言葉からボスは足も止め、ふと周囲を見渡した。
すると、ボス達に向けられていた視線や声は次々に鳴りを潜めていった……。
ある者は視線を逸らし……ある者は元々の話し相手へと視線を戻し……ある者は
勿論……
だが、見渡した際に
……そう、彼がこの
……
そして、その場で跳ねるように籠を背負い直し、彼は彼女の一歩前に出たのであった……。
「……ほっとけ。
この村の奴らが、どんな事を言っていたとしてもな……?」
「ッ!? ぼ、ボスゥ! それじゃあ答えになってな……」
「少なくとも……オレは、お前が”人間”じゃあなくても好きだぞッ! ……ット!」
――ボスは言い終わる瞬間、振り向き
……早い話が、「
「……」
「あっ、あれッ……?」
……まぁ、ここが地球であればその”古すぎるネタ”のチョイスと、微妙過ぎる”
「……プッ、アッハッハッハッハッハァァァ〜何それボスゥ〜ッ!? 変なの〜ッ!」
……意外や意外、腹を抱える程の大爆笑であった……ッ!?
……まぁ、異世界……だからなのだろう。
……新鮮味があったと言えばいいのか……。
「ハァァァ〜ハァァ〜ハァ……何だか、どうでも良くなっちゃったなぁ……」
「おっ? そ、そうか?」
「うん、早く行こう! ボスゥッ!」
――オルセットはそう言うと今度は言葉通りに、軽やかにボスを追い抜いていく。
「差別意識かぁ……
「
そして、追いついた後に息を切らしながらもこう言ったそうだ。
……「流されんな、自分の意思はしっかり持て」……と、この言葉に対してび彼女の”世間知らず”が再び出てしまったが、それに捕捉を入れつつも彼は彼女を励ますのであった……。
無論、彼女の”世間知らず”が出てしまった程なので、彼女はこの言葉の”真意”を知るまでには至るかは定かではないが……少なくとも、”ボスに励まされている事”は理解し、彼に微笑みを見せるのであった……。
〜 ポン、ポロン……ポン、ポポン……ポンッ、ポポロン…… 〜
「……何だろう、この音……?」
「どうした? オルセット?」
――木々に囲まれ、森の一部と同化したかのようなベルガ
そこまでに続いていた、道中の左右に広がる”雑草達の緑の
杉……だろうか? 広場の中央には、ボス達が目一杯に見上げないと
……とは言っても、波紋状に広がる砂利道の
そんな広場の東側付近に現在、ボス達は入ってきた訳だが……。
中央広場に差し掛かる細い土道に入ろうとした時に、彼女は先程の”トアル音”を「中央広場の樹木」の付近から
〜 ……ポポポンッ、ポロン……ポン、ポロン……ポンッ、ポポロン…… 〜
「ほぉ……いい音色じゃあねェか」
――そう言いつつも、ボスとオルセットは樹木の元へと向かう。
先程までジワジワと汗を
しかしながら
そうでない大人や子供も極少数いたが……ボスはやるせない怒りが
「……車輪の
それでも、彼が胸ポケットに納めている”
そして、その音色の主人が来たと思われる北側にある横幅が広い道……ボス達が初めてこの村に訪れる際に通った土道に、クッキリとした”二本の
……ただ何故かパッと見、辺りを見回しても……
「……なるほど。
あの木の根元で
「……ストリートぉ、ライブゥ?」
「あぁ……今のは気にしなくていいぞ? オルセット?」
――首を
彼が最初に抱いた印象としては、「……地味だよなぁ」……とまぁ、相も変わらず失礼な物である。
だがまぁ……無理もない。”ドラ○エ”などの伝統的な
「……寝てるのかなぁ?」
「……そうか? 目が帽子で隠れてて見えないんだが……?」
「うん、寝息っぽい音も聞こえる……」
――オルセットの聴覚の良さに、思わず「へぇ〜」と言う
昼間の稼ぎ時でも過ぎて一息付いていたのか……その人物は、”茶色の皮帽子”に”細い荒縄”が数回巻きつけられ、そこに”白い一枚の羽”が差してある……そう! まるで「ピーターパン」が被っていそうな”羽付き帽子”で目を隠している、何処となく怪しい
その男は、大木の
ボスは一瞬、ド忘れしてはいたが……それは西洋の
「……いい音色だな? まだ店は開いているか?」
――大木の木陰から刺す日差しによって、心地良く”うたた寝”していなくもないように見えていたボスは、軽く冗談を交えつつもリュートの人物へと尋ねた。
「……ッ!? あっ、あぁぁ……お客さんか。
すまない、弾いている内にウトウトしてしまっていたよ……」
――どうやら本当に寝ていたらしく、急に声を掛けられたリュートの人物は一瞬、ビクッと反応した後……ズレた帽子を直しながらボスの方へと視線を向けた。
すると、現れた
……嫌、しかしながら人は選ぶだろう。元は
栄養不足なのか、行商による疲れとなのかは知らないが、蓄積し続けた疲労と思われる”目の
「こちらこそ、起こして済まないな。
オレはジャック。アンタの名前は?」
――「えっ? ボスゥ、名前が……!?」……と言わせる前に、オルセットの口に右手の人差し指を押し当てるボス。勿論、彼女は不服な表情をするが……今回は察しが良かったのか、それ以上は何も言わなかった。
「あぁ、紹介が遅れたな? すまない。
オレは”マケットのダース”だ」
――その顔つきに
一方で、一瞬目が点になりつつ「……”ベーダー”って、続きそうな名前だなぁ」……とボスは思いつつも?
「……何を”
……と、とりあえず”トボけて”みる事にしたようだ。
「おいおい……冗談はよしてくれよ?
――再び目が点になるボスであったが、少ししてある事を思い出した。
それは、ポーランドの小説が元となった「ダークファンタジーゲーム」の”実況動画”であった。
彼は未プレイでありその小説も読んだ事はなかったが、その動画の実況主が原作の大ファンらしく、彼も小説の世界に入り込んだかと錯覚してしまいそうな熱の入った解説とプレイ動画に、終始ワクワクさせられたモノだ。
そして、何故コレを急に思い出したかと思えば……それがダースの言ったまんま、そのゲームの登場人物達が
「じゃあオレも”日本のジャック”……いや、やめておこう……流石に世界観に合わねェわ……」と、改めて”
また同時に、「そういえば……ベルガ婆さんとの初対面時、出身地を言ってなかったけど……トルガ村じゃあないのか?」……とも思っていたが、脳内会議しても
「あぁ……済まないな?
実は……ここまで来る途中に
だから……出身地とか、一般常識とかが……その、あやふやで……」
「あリャリャぁ〜それは災難だったねェ……。
――陽気かつ、軽快な口調でボス達を
コレはボスの勝手な脳内イメージであったが、”異世界人は常識が違う故にズケズケと事情を聞きたがる”……と思っており、ダースもその例には漏れなかったが……ボスは嫌悪感を抱けなかった。
「……悪いな。
どうやらそれも、記憶を忘れた場所に落っことしてきちまったよ……」
――何故かって? ……それは「不謹慎かもしれないが」と、”丁寧な断り文句”を入れていたからだ。
もし、これを無しにダースがボスに事情を聞こうものなら、彼の”行商人嫌い”も相まって”ヘソを曲げた雑な回答”しかしなかっただろう。
その証拠に、彼の微妙なジョークが今日も軽快にスベっているであろう……?
……軽快にスベってねェ〜よッ!?
「そりゃあ残念。
聞かせてくれたらチョッピリは、”割引サービス”でもしようかと思っていたんだがなぁ……」
――軽く俯きつつ首を左右に振りながら、
ボスは
しかしながら”文句”や”表情に出す”よりも、いい加減肩に掛かる疲労が限界に近くなってきたので、商談を始めようと切り出すのであった。
「ところで、話を戻すが店はまだやっているのか?
この背中の売りモンに、そろそろ肩をヤラレそうでたまらないんだが……」
「おお、そうだったな! すまないすまない……。
こちとら、”行商人”ってなモンでお客さんの会話とかから、”商売のニオイ”なんかを探すのが大事でねェ……。つい話し込んでしまったが、大・丈・夫ッ。
休憩時間はもう終わりだ。早速、その薪を見せてくれないか?」
――そう言いながら、ダースは弦楽器を背後の樹木に立て掛けた。
そうして「ココ! ココ!」……と誘導するように、両手の人差し指と親指を伸ばして”拳銃”のような形に、細かく上下に動かしてボスとオルセットに指示するのであった。
……ひょうきん、と言うか……想像以上の陽気さに、何故かボスは隣に立っていた彼女に視線を合わせてしまう。彼女も思わず視線を合わせるが無論、意図は分かっていなかったので数秒後には「……ボスゥ?」と小さく呟きつつ、首を傾げてしまうが……。
「……まぁ、薪を置こう」……と何処か
薪が置かれた後、ダースは軽く揉み手すると慣れた手付きで次々と薪を籠から出して行き、自身の目の前あたりの砂利道の上に、正方形状になるよう並べて行く。
その際に「ニィ、シィ、ロゥ」……と何やら呟いていたので、恐らく並べると同時に薪の数も数えていたのだろう。数分後に全ての薪を並び終え、
「お待たせェ、お客さん! 随分と良質な薪だねェ?
良ければ、何処で採ってきたか教えてくれないかなぁ……?
……この後、なんか買うなら負けるからさぁ?」
――左手を口元に
「……教えるも何も、オレらは”ベルガ”って婆さんの
「……なんだ、あの婆さんのトコの奴かよ……」
――あからさまにガックリと
「……コイツ、商人として大丈夫なのか?」……と、そろそろ彼の愛嬌に”我慢の限界”という物が、熱を帯びてきたのを感じるボス。そして良く分からないモノの、彼の態度に感応されたか……ダースに”ジト目”を向けるオルセット……。
……まぁ、軽くダースを
「……アレ?
でも何で数年間も”一人暮らし”をしていた婆さんが、急に人を……」
「……なぁ? お取り込み中にすまないが、買うのか? 買わないのか?
それとも、その丁寧に並べた薪をオレらに幾らで売りつけるかを、考えてでもいるのか?」
――ブツブツと思案するダースに対し、あからさまにイラついた口調で尋ねるボス。オルセットは……”ジト目”を継続中である。
「いやいやいやいやいやいやッ!? とんでもないッ!
数えやすいように並べただけだけなのに、何で買ってもいない私がジャックさん達に、売り付けようなんてするんですかッ!?」
「……済まないが、そうも軽薄な態度を続けられると、そっちが思ってなくても疑っちまうんだよ……?」
「そうなのぉ? ぼ……ジャックゥ?」
――一瞬、ボスに睨みつけられて
一方でボスは、少し表情を和らげた後にダースへと首を向き直し……?
「……少なくとも、オレはな?」
「……はぁ、怖いお客さんですねェ……。分かりましたよ……。
えぇっと、お会計ですね? ”384本分”の薪で”
――ダースは腰に下げてあった大きめのポーチから、金貨と銀貨をボスに渡す。
しかしながら、左手に乗った一粒の金貨を右手で眼前へと摘み上げるボスの表情は、何処か
「3万2千
――一瞬、ギョッとしてしまうダース。
恐らく、今まではあまり頭を使う事のない一般客ばかりだったのだろう……即座に表情を取り
「い、いやだなぁ〜ジャックさん? こちとら
方々を旅するにだけにあって、それだけで資金はカツカツなんですから〜。
高く買いたいですけど……私に店を
「じゃあ良いよ、昨日高く買ってくれるって言ってた”行商人”が居たから、ソイツに買ってもらうわ」
――そう言って、クルリとダースに対し背中を向けてしまった。
しかしながら、態度も含めそれは……
ベルガから「1000〜3000br程で売れる」と聞かされた以上、その”
……「ここは一発、
そう思う一方でまたも、ボスの”
……彼は口をアングリと開けつつ、驚愕していたのだ。
まるで「そ、そんな!? オレ以外、こんな
「ど、どんな方ですか!? その人はぁ!?」
「あぁ悪りィ、名前は聞き忘れたよ。
……て言うか、さっきから
オレが気にし過ぎかもしれないが、さっきから客への態度が”最悪”と言って良い程だし……」
「ほ、他の店や行商人よりずっとマシですよッ! 私はッ!?
他なんかもっと
「それにッ! ……ベルガ婆さんからは、そこの薪は毎回”
「ですから、それは私の目利きに間違いはないですよッ!
それに、さっきも言いましたよね? 私は行商人の身であるが故に……」
「まるで分かってねェなぁッ! ダースさんよぉッ!?」
――自身の”ペース”に巻き込める雰囲気ではないと思ったのか、急な大声を出すボス。
その効果はテキメンで、ダースは一瞬ビクッと驚いて黙った後……突如、奇行に走り出したボスに
「あのなぁ、もしもの話だが……オレが未来で大儲けして、専属の”商人”や”商会”を探しているとかでも言ってたらどうする? ……アンタが今やっている事は、そんなデカイ魚を”些細な接客態度”や”ケチな
「……魚は、海のある”西側の教国方面”でしか獲れないのは分かりますが……。
それが、”接客態度”や”私の性分”と何の関係があるんですか?」
――急な真顔で話すダースに一瞬、ズッコケそうになるボス。
今までの口調から急変した事……よりも、”逃した魚は大きい”という
「違う違う! 確かに魚は好物だから食いたいけど、そう言う事じゃあない。
デカイ魚……”逃した魚は大きい”ってのは、”過去を振り返った時に失ったものに実際よりも大きな価値を感じ、後悔する”……って意味の例えだよ。オレの故郷のな?」
「……出身地は忘れているのに?」
「……人生は不思議な物だよ、ダース君?
ここで出会ったのも何かの
「……ジャックさん、何を言って……」
〜 パァン! 〜
「さぁ! ここから始めて行こうッ! 9万6千ッ!」
――
「ジャックさん、しつこいですよ!?
さっきも言いましたけど、あの値段は間違いなく……」
「じゃあ、オレはさっき言った行商人に売るだけだなぁ……9万6千」
「ッ!? ねっ、値段交渉になってませんよッ!? ……3万8千400!」
「そりゃあそうさ、オレはアンタの”誠意”が見たくて言っているんだよ? ……9万6千」
「お客さんが見せてるのは、”
「おいおい失礼だなぁ、冷やかしだけで済ませたくないだろう? ……9万6千」
「お客さんも折れないと、この薪を買う事を突っぱねますよッ!?
……5万7千600! これが限界ですッ!」
――息も切れ切れに、叩きつけるように言うダース。
しかしながら、ボスはそれでも
「そうか? じゃあ言いたくなかったんだけどなぁ……。
オレはあの婆さんと結構仲が良くてな? お前に売らないように婆さんに頼む事だって出来るんだぞ? ……9万6千」
「……正気で言っています?」
「オレはさっきから正気だぞ?
……アンタの接客態度に、チョッピリ腹は立ててるけどな?
それに考えてみろ……最初の値段で売っていたら、今でも暮らしが厳しい婆さんがより厳しくなるかもしれないからこそ、目の前の
――どう見ても”
一方のダースは、薪を数えていた時から変わらぬ立ち膝の状態で、わなわなと身を震わせつつ……?
「あ……あの婆さんの所の薪だから、この値段なんですよ!?
この村の住人たちよりも、ズゥ〜と高いぐらいに買ってるんですよッ!?」
――その一言を聞きつけた一部の村人が、
「……そう言うなら、商人としての
そうすれば……
「……」
「……まさか、商人なのに
「分かりましたよッ! 買います! 買いますからッ!
最高単価の”半銀貨3枚”で買いますから!」
「……イヨッ、太っ腹ッ! ありがとうな!」
「
「なぁんか言ったか?」
「ッ!? いっ、いやいやいやいや……その代わり、先程言ってた”値引きサービス”とかは一切無しですからね!
……はい! 9万6千バルッ!」
――絶対聞こえてそうだったが、ダースの呟き愚痴を聞かなかった事にしたボス。
その後は
しかしながら、それだけで満足して帰るのがボス達の目的ではない。
今後一週間程……失敗してしまった狩りの成果を
そんな彼は、ジャケットの胸ポケットに受け取った金を仕舞うと、ベルガから聞いていた”購入すべき食材”を指を折りつつダースに伝えて行く。
そこでのやり取りは、彼の呟き愚痴を少々叩きつつも
自身に宿る”
そもそもその”言語スキル”があるからこそ、ベルガ婆さんやオルセット達の声が”
……人から見ると分からないが、細かいながらも色々と気になる事があると、
まぁ、それでも
それは数分後、購入した食料の入った麻製らしき袋を受け取り、ふと何を思ったのか袋の中を
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<リンゴォ>
水々しく赤々と
名前は「ウォーダリア」特有の物だが、地球の”リンゴ”と
品種改良のされていない原種であり、
尚、この世界の大気には魔力の源となる「マナ」という物質が存在しているおかげで、どんな食料を食べても
<基本性能>
(
(
(
(
(
<注!>「基本性能」は、その食料を”完食”した時のみ”100%”発揮されます。
(残した場合は、残量に比例して”回復量”や”効果”が減少してしまいます……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――このように、ベルガから聞いていた「食材の名前」はどれも”ギャグ”としか思えないような物ばかりであったからだ。……だが、彼女が話している表情は真面目そのものであったため、そうと思うしかなかった。
そういう思いがあったからか、ふと「スキャン」を行い……下記のような考察もしているのであった……。
……ナルホド。
婆さんの話にもあったが、「マナ」って物質が果実や生き物などに
回復量は、「MP最大値の○%」!?
……つまりは、オレがコレを食うとたったの”
……「h=時間」、「m=分」、「s=秒」か? 婆さん
後は、「スタミナ回復量」? 何だコレは……?
……あぁ、ナルホド。スキャン結果によれば、走ったり、跳んだり、格闘したりするなどの”あらゆる行動”を行う事で消費されていく事で減少していく「スタミナゲージ」という数値があり、ソレが回復する量だそうだ。
その回復方法が「食料」を食べる事……まぁ、単純明快ながら「食事」をすれば回復するらしい。
そんでコレが満タンな状態だと、傷を負っても
いかにもゲームらしい概念だが、現実でも「
……あれ? ちょっと待てよ?
「スタミナゲージ」って、
「どうだ? それらで間違いないよな?」
――ダースの声に、現実に引き戻されたボスは慌てて返事を返す。
「あ、ああ……大丈夫だ。今確認してたからな……」
「……ホントか? ボンヤリしてて?」
「大丈夫だよぉ? これがボ……ジャックのクセだからねェ〜」
「……フ〜ン。ところで、お嬢ちゃんは亜人なのかい?」
「アジン?」
「ホラ、嬢ちゃんみたいな人間っぽいのに、”耳”や”尻尾”なんかが付いていて
「……人間じゃあない……」
――呟くと共に、あからさまに俯き、意気消沈してしまうオルセット。
「おい、気を付けてくれ。
「……カノ、ジョ?」
――名前を呼んでくれないボスに思わず呟き、何処かより一層に違和感を感じるオルセット。
「へぇ〜? ところでジャックさん? お宅は彼女の……何なんだい?」
――そう言いながら、ダースは右手で”人差し指と中指の間に親指を挟んで握る動作”をボスに見せつけた。
ボスはその”
……意味? それは各自で調べて欲しい。
私は何故その”
「し……知り合いだよッ!
知り合い、知り合い! ただの知り合いだからッ!」
――
無論、必死になっていた彼には全く気付けなかったが……。
「ふ〜ん、そうかそうか……彼女とは、知り合い……ねぇ?」
「なっ、何なんだよッ!? いきなり変な
「別に? オレは気になったから聞いただけさ」
「……蒸し返させてもらうけど! それが客に物を言う態度かよッ!?」
「じゃあ、オレも言わせて貰うが……オレの接客態度にケチを付けて来たのは誰だったけなぁ……? ジャックさん?」
「うっ……」
――強引だったとは言え、多少負い目には思っていたのか……僅かに
「まぁ、これ以上口喧嘩を売り買いしていても、何の儲けにもならないからなぁ……。
と言うわけで……ジャックさん? アンタはオレに薪を売ってくれたんだ……。
けどなぁ、今の食料程度だけじゃあ……オレの”買い物”も無駄になる。ならアンタだって、俺の商品をもっと買ってくれてもいいんじゃあないかなぁ……って、思うのがオレの道理なワケよ? 分かる?」
「……態度もそうだが、口も回るなぁ……お前……」
「へこたれる事があっても、商売をやめたら行商人も終わりなもんでねぇ……? で、どうなんだい? ジャックさん?」
――
買い叩こうとしたのを未然に防いでやったのに、ダメージがないかの如く商魂を見せつけるダースに心中、”呆れ”と共に何処か”感心”を覚えてしまうボス。
「まぁ、大儲けはともかく……専属の”商人”や”商会”を探すなんて
「……あ、あのぉ……?」
「ん? どうしたんだい? 嬢ちゃん?」
「……じゃ、ジャックは武器を探している……こ、ここで売っている?」
――先程のダースの一言もあってか、彼に苦手意識を抱いていたのか……視線を逸らしながら、しどろもどろに尋ねるオルセット。
「おぉぉ! あるぜあるぜ! 王国全土を
「……
――腕組みをしながら、イラついた口調でダースを
「じゃ、ジャック……! それじゃあ……!」
「……安心しろ、万が一買えなくても全力でお前を守ってやるさ……」
――そう言いつつボスは、オルセットの頭を撫でるが……彼女は黙ったまま、どこか浮かない表情を浮かべるばかりであった……。
「いやぁ……失敬失敬。
やっぱ、言葉よりも商品だよねェ……? 分かった分かった、チョイとお待ちなさいなって……」
――まるで
それを他所に数分後……ボスの眼前の床には、キレイに陳列された武器防具の数々が並べられていた。
「さぁ、どれが欲しいんだい? 何れも筆舌し難い
……先程の”薪の一件”もあったため、ボスは静かに「スキャン」のスキルを発動させた……。
~ウィィ~ン、ピピピピピ!~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ショートソード>
全長90cm、刃渡り50cm、厚さ3cmの小ぶりな片手剣。
無名の作者によって打たれた王国製の代物で、量産品ながらも王国内では中々の一品。
だが、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<基本性能>
(
(
(
(
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……”
え〜と? 次にパッと見分かりにくそうな表記は……っと。
……あぁ、この表記の攻撃速度にある「C+」……大まかな速さなのか。
スキャン結果画面は”
……んで、それを見ると武器や扱う人によっては「
後、ドワーフがいるのか! そんで帝国は工業でも盛んな国なのかねェ……?
……と言うか、やっぱり
――そう内心思いつつ、黙ったまま並べられた武器を見回し始めるボス。
しかしながら種類はあれど、どれも似たり寄ったりな性能のようで一通り見終わった彼は、今度は”防具”の方を「スキャン」し始めたようだ……。
~ウィィ~ン、ピピピピピ!~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ソフト・レザーアーマー(胸)>
低位の魔物のなめし皮を重ねて作られた、軽装の胸当て。
金属製の鎧と比べると防御力は
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<基本性能>
(
(
(
(
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……見るのも飽きてきたし、最後に手近に目についたこの防具はっと……。
……対象になる攻撃の受けたダメージに対して、「〇〇%カット」という感じかぁ……。
つまりは、この皮鎧は「100ダメージ」の”
後、見りゃあ判るが<胸>って表記がある事は、”頭”や”腕”とかもある「シリーズ物な装備」なのか? だとすれば、”単体での防御力の低さ”は納得するけど……「移動速度低下」とかの
……しかし ”刺突”とかの「他の攻撃」や、”炎”とかの”属性攻撃”はどうなってんだ……?
「なぁ、ダース?」
「おぉ、決まったか? ジャックさん?」
「ここにある「レザーアーマー」、”耐火性”や”刺突耐性”はあるのか?」
「……タイカセイ? シトツタイセイ? 何だいそりゃあ?」
――「言語スキル」の
「……”炎”とか、”何かに刺される事”に、この鎧は耐えられるのかって事だよ……」
「あっはっはっはっ! 面白い冗談だなぁ、ジャックさん!?
この
「……
――低い声を出しつつ、
「そっ、それは勘弁して欲しいなぁ……。
ところでぇ……何か
――一瞬
ボスとしては、一通り見せてもらった物の……ダースが扱う武器防具類の
だから、
……と言う訳もあり……?
「そうだなぁ……じゃあ、このナイフでも貰うか」
~ウィィ~ン、ピピピピピ!~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ナイフ>
全長20cm、刃渡り10cm、厚さ3cm、両刃の小ぶりなダガーナイフ。
相も変わらず”無名”だが、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<基本性能>
(
(
(
(
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――何処か物悲しい
まぁ、端的に彼がこのナイフを選んだ理由を言えば、「重量」意外……目立った”
それに、
「……ナイフ? そんなのでいいのかい?」
――そうだぞボスゥ? フォークはどうした?
ディナーの時間にはまだ早いぞぉ?
……フォークがあっても、非常時以外は武器に使いたくないけどな……。
「……
それに、オレはそこにある
「えっ、じゃあどうやってここまで……」
「聞かれても、覚えてねェって言っただろう?」
「……」
「まぁ、強いて言えばオレは”飛び道具”が得意なんだよ。
だから、基本的には遠距離で戦うんだけど、
――そう言いつつ、口元に右手の人差し指の頂点を添える。
その仕草を
まぁ、先程はチョッピリ茶化してしまったが、ボスの言っている事は間違いじゃあない。
「接近戦では、”ナイフ”の方が素早い」と、”
それ以前にボスも、基本的には”フリピス”を
「フ〜ン、じゃあそれで良いのかい?」
「あぁ、コレにする。……で? 幾らだ?」
「……粒金貨5枚」
「はっ!? 50000brゥッ!? そんなに高いのかッ!?」
「買う奴が居なかっただけで、そのナイフは地味に良いヤツなんだぞ?
……まさか、オレが間抜けだとでも思っていたか?」
――不適に笑みを浮かべるダースに、思わずボスは少したじろいでしまう。
まぁ、無理もない。ボス、オルセット、カルカの
……薪による儲けは吹っ飛んでしまうのであった……。
なら、回れ右して……と言う訳にもいかなかった。
ベルガのヘソクリ(?)を使ってしまう事を申し訳なく思っていたが、その反面……近接戦闘で使う武器も欲しかったのは事実……。連射の効かない”フリピス”を持っているからこそ、
「……くっ!」
「どうするんだい、ジャックさん?
これは
――単語は出なかったモノの、”限定品”というワードがボスの心を更に揺さぶる……ッ!
「あぁ! 分かったよ! 買う! 買うぜッ!」
「毎度ありィィィッ!
いや〜お客さんいい買い物したねぇ〜? へへへ……」
――買わされた薪以上の代金を受け取って、ホクホクそうなダース。
一方のボスは、少々悔しそうな顔をしながらも、購入したナイフを”腰のベルト”に装着していた。
右手で抜けるように装着され、丁度抜いた際に”逆手持ち”になるような感じである。ついでに、装着した後にナイフを抜き取っては構え、軽く振り回しもしていた。
「ほぉ〜。見た事ない”構え”や”振り方”だなぁ……」
「……
――無論、地球の”動画”や”雑誌”の事は言えないための方便である……。
「……カッコイイ……!」
「……ん? そうか? じゃあ、オルセットにも……」
「ソイツは売り切れだぞ? さっきも言ったろ?」
――振り向くボスに、片眉を上げながら言うダース。
先程まで意気消沈していたのが嘘のように、静かながらも目を輝かせていたオルセットに申し訳なく思ってしまう……。
「……悪かったな、オレは別のを買うから……お前はコレを……」
「……ううん、ぼ……ジャックが使って……」
「えっ? でも、それじゃあお前の護身用が……」
「……いいんだよ。
ボクよりも……ジャックが買った物なんだから、ジャックが使って」
――オルセットの奇妙な
なら、別のを……と提案するも、これも拒否されてしまう。
先程から彼女の態度がおかしくなっているのを不安に思いつつも、彼はナイフを仕舞おうとするが……?
「ところで、気になる事があったんだが……」
「……ん?」
――ナイフを仕舞う手が寸前で止まり、ボスの視線がダースへと向く。
「そこの亜人のお嬢さん……何で”首輪”をしていないんだい?」
〜 ダッ! ガッ、ダッダッダッ、ドサァッ! ブゥゥン! ピタァァッ! 〜
「ヒィィィィィッ!?」
「……おい? テメェは”奴隷商”なのか……!?」
――ほぼ一瞬であった……!
ダースの不吉な発言が終わった瞬間、ボスはダースに突撃し……彼の首を左腕で押さえつけつつ、背後の樹木に叩きつけたのだッ! しかも、彼が暴れないようにするためか……買ったばかりのナイフを逆手に持ち、彼の眼前に突きつけていたのだった……ッ!
「な……何の事かサッパリ……!?」
「トボけんなッ!
あの荷馬車の積荷の中に、こっそり奴隷でも隠しでもしていて……。
そんで、どっかオレが油断したタイミングを狙って……オレの知り合いを
「そっ、そんなとんでもない事は……!」
「吐け! 吐きやがれッ!
それとも何だぁ……? その
「ヒィィッ!? だっ、誰か! 誰か助け……うっ!?」
――圧迫する首への圧が、一瞬跳ね上がり……叫ぼうとした声がくぐもってしまうダース。
「おい? オレだって今の状況は恥ずかしいし、本当はしたくはなかったよ?
けどなぁ? 俺の知り合いに手ェ出そうとする、クソ野郎が居るなら……!」
「ボスゥ! やめてよぉぉぉッ!」
――ジョジョに振り上がって行く、ナイフを持つ手がピタリと止まる。
勿論、この静かなる
「やめてよぉ、ボスゥ……! どうして、そんなヒドイ事するの……?」
「ぼっ、ボスゥ? ジャックってのは……」
――鬼のような
……首を抑える左腕の力を少し強めた後、振り上げていたナイフを下ろし……オルセットの方へと振り向いた。
「……ひどいも何もって、さっきからお前がコイツに対して
「……確かに、ボスがイヤに思ってたから……ボクもイヤに思ってたよ……。
けど……アソコの馬車から人の”ニオイ”も”音”もしないのに、そんな事をしないでよぉぉ!」
「……えっ? そっ、そうなのか……?」
――一瞬、面喰らってしまい、背後のオルセットへと向けていた視線を
「ほっ、本当ですよ! さっきから言っているじゃあないですかッ!?」
「……じゃあ、積荷の中身を見せてもらっても大丈夫だよな?」
「……えっ? そっ、それは……」
「本当に”奴隷”を積み込んでないなら、オレに見せたって問題ないだろ?
それとも何だ? 奴隷以上に”
――視線を逸らし、黙り込んでしまうダース。
「よし、良い返事だ。
”
「ちょ、そんな事は聞いて……ぐっ!?」
――押さえつけていた左腕に一瞬、力を込めた後……ボスはそそくさとダースの荷車へと乗り込んでしまう。少しして、木箱などを開ける音やその中身を
一方のオルセットは、ボスが乗り込む瞬間に「ボスゥ……」と呆れたような口調で言った後は、どこか不安げな表情で揺れる馬車を見つめていたのであった……。
待つ事、数十分後……
「すみませんでしたッ!」
……と、それはそれは見事な
「「……えっ?」」
――無論、地球出身じゃあないダースとオルセットは、”土下座”の意味を知らず……二人揃って戸惑うばかりであった……!
「ちょ、じゃ……ボスさん? それは……何なんですか?」
「そっ、そうだよぉ……ボスゥ。何してんの……?」
「……土下座です」
……”
「ドゲ……ザ?」
「……オレの故郷で、最も「すみませんでした」……っていう気持ちを表現する時に行う動作だよ……」
「はぁ……」
――オルセットに続いて、どう返答すれば良いか戸惑うダース。
だが、そんな二人にお構いなしにボスはスクッと立ち上がり、スタスタと
「と言うわけで……ダース、コレ……」
「えっ?」
――唐突に右手に何かを握らされた感触がしたダースは、その右手を開いてみた。するとそこには……粒金貨が”3枚”、
「めっ、迷惑料って事でな……? 何とか……それで
「……えっ? イヤっ、穏便も何もオレは……」
「いいから取っておいてくれ! 悪かった!」
――ダースは何かを伝えようとするも、ボスに右手を固く握らされてしまう……。
その後、オルセットに買った食料を詰め込んだ籠を持って帰るように指示すると、彼自身もさっさと食糧の詰まった籠を背負った。
「ちょ、ボスゥ! ボクの服はッ!?」
「バカヤロウ……! 声を控えろ……!
迷惑掛けた店で、これ以上図々しく買い物なんて出来ねェよ!」
「あっ、あのぅ……」
「ではダースさん! いい買い物だったよ! またなッ!」
――そう言うとボスは、踏み止まろうとするオルセットの背中を押しながら、そそくさと足早に広場から去って行ってしまうのであった……。
一時は何処か
しかしながら、ただ一人……中央広場に残された
「……好奇心からだったんだけどなぁ……」
――
それは後悔なのか……? 自分が痛い目にあったのはまるで、”身から出た
なので、ここはボス達が見えなくなった後……叩きつけられた際に落とした帽子を拾い、汚れをはたき落とした後に被り直したダースが、ノソノソと店仕舞いをした後……何を思ったのか、再び樹木の幹に寄り掛かり、物憂げにリュートを弾き出した所で一旦、区切ろう……。
〜 バンッ! 〜
「誰が登録するかッ! こんなクソ冒険者ギルドがァッ!」
――しかしながら、実は話はここで終わりじゃあない。
数十分後……場面は変わって、ここは「トルガ村」の中央広場から西にある、誰もが一度は聞いたことがあるであろう「冒険者ギルド」……。
数時間前に、「食料を買ったら、一旦家に置いた後……冒険者ギルドに行っときな」……とベルガに言われていたボス達は、彼女への”借金対策”も兼ねてこの場所に来ていた訳だが……。
「……ケホッ、ケホッ……!」
「あぁ……大丈夫かオルセット……?」
「……」
「……ホラ、これで顔とかを拭いときな?」
――西部劇によく出る”ウエスタンドア”を蹴り開け、店内へと罵声を浴びせながら出てきたボス。その真横を重い足取りでトボトボと歩くオルセット……。
しかしながら、黙りこくる彼女の様子は買い物をしていた時とは、あからさまに違っていた……。
それもその筈、彼女は頭から”ズブ濡れ”であったのだ……しかも、右頬が僅かに”赤く
そんな彼女の目の前に、彼の青いハンカチが差し出されるも……少しの間、彼女は無反応であった。
しかし……いつもの”元気ハツラツさ”が、
「きっと……合わなかったんだよ。……ここだけは……な?」
――横並びにゆっくりと冒険者ギルドから離れて行くボスとオルセット。
しかし、彼女は依然として口を固く閉ざしたままであった……。
「……だからさぁ、婆さんには申し訳ないけど……借金はしばらく待ってもらおうぜ」
「……」
「それでなぁ? 一旦、この村を出るんだ。
それで、別の冒険者ギルドがあるって言う、近場の”
――ガッツポーズをしながら熱弁するボス。
だがしかし、オルセットの態度は
「……そう、落ち込むなよ。
唐突過ぎて、対処出来なくてゴメンだけど……酒ブッ掛けられたり、偶然獣人嫌いな奴に
「……」
「ここで冒険者になれなくても、他の場所でなりゃいいんだ。
それで、二人一緒に冒険者になれば……」
「……ねぇ」
「んっ?」
「ボスは……ボスは、ボクの事……どう思ってるの?」
……ボスの歩みが止まる。続けて、オルセットも止まった。
気が動転したのか、彼は即座に返事を返す事が出来なかった……。
「なっ、何を言ってんだよ……オルセット?」
「……笑ってないよね? アイツらみたいに?」
「……えっ?」
「あのボウケンシャ達みたいにだよ……。
それに、ここに来るまでにヒソヒソ言っていた、村人達も……」
「……気にするなって言った事だろう? そんなこ……」
「ボスには聞こえなかったんだろうけどねッ!? バカにされてたんだよボク達はッ!? ここに来るまでもそう! あのボウケンシャ達にだってそうッ!」
「おっ、おい……オルセット……?」
「ボクが……ボクが、バカにされる事はイヤだったけど……!
それ以上に! 何でボクが居るだけで、
――最初に叫ばれた時……いや、それ以上かもしれない勢いの叫びに、思わずたじろぐボス。
「ボスは……ボスはボクの事を助けてくれたのに……!
”アジン”だからって、気にしないって言ってくれるニンゲンなのに……!
……何でみんなは悪く言うのさ……ッ!? 何で、ボクと一緒に”ボウケンシャトウロク”するなら、ボスは”ボウケンシャ”になれないのさッ!?
何でボスが、ツカまるなんて事にならなきゃいけないのさッ!?」
「落ち着けって! オルセット……!
たまたまここがダメで……ヤバイ所だったかもしれないんだから、さっき言ったみたいに……!」
「イヤだよッ!
ボスが一緒にボウケンシャになりたいって言うなら、ボクは
――嬉しくは思うも、何処か感情任せに……そう!
「おいおい……そう思ってくれるのは嬉しいけどさ……。
そんな子供
「……ホラ、やっぱり……」
「……はっ!?」
「……ねぇ、ボスゥ……ボク達、
――「いや、もう意味分かんねェよ」……と、唐突な話の飛躍に頭痛を感じ始めたボス。
「ちょっと待て! オルセット! 落ち着け!
話が分かんなくなったぞ!? 何で唐突にそんな話に行くんだ!?」
「ボクが聞いているんでしょッ!? ボスゥッ!? 答えてよッ!
何で、あのダースって言う人と話している時は、ボクの事を
何で、
――”質問を質問で返すなあーっ!!”……と何やらボスは一瞬、思っていたようだが「そう言う事か」……とも納得していた。
「いや……言わなくて悪かったよ、オルセット……」
「何がッ!? 何を言わなかったのさッ!?」
「落ち着け、落ち着けって……オルセット……。
聞きたいなら、声のボリュームを落としてくれ……」
――「ボリューム?」……と首を傾げるオルセットにすかさず補足を入れつつ、両手を胸の前で小さく前後させ……馬を落ち着かせるかのように”どうどう”的な仕草をするボス。
「考えてもみろよ……。
もしもあのダースが、オレ達の命を狙ってるような奴に雇われている……みたいな事があったら、”名前”とか”関係”を知られているのは、不利な事なんだよ」
「……フリな事?」
「そう。例えば、オレ達が何処かに出かけていた際……その行先を”悪い奴”が村人達に聞いたとする」
「……ウン……」
「その悪い奴が、ダースから聞いた”ジャック”とか”知り合い”で、村人達に聞くんだけど……誰しもが”知らない”って、言うハズだ。分かるか?」
「……ウン、何で?」
「……村人達は、オレらが”ボス”と”オルセット”って、名前しか知らないハズだからだ」
「……アァァ……!」
「だろ? 誰か分からなければ、居場所も分からない……。
説明が遅れて悪かったけど、これが”偽名”ってメッチャ基礎的な情報戦の一つなんだよ」
「……ギメイ? ジョウホウセン……?」
――「世間知らず、入りました〜!」……と、居酒屋店員の注文を叫ぶ声が、ボスの中で
「だから、ダースには悪いけど……しばらくは”赤の他人”のままにしときたいのさ。……納得出来たか?」
「……全然……」
「……えッ!?」
「ギメイとか……ジョウホウセン? は何となく分かったけどさぁ……ボスゥ?
そうじゃあないんだよ……」
「……じゃあ、何なんだよ……ッ!?」
「ボスは……ボクを……”ナカマ”だと……思っている?」
――不安げな表情でボスを見つめるオルセット。
彼女にとっては余程大事な事なのだろう……その証拠に、
一方のボスは、蒸し返される質問に少々動揺してしまったのか……?
「な……何を言っているんだよ、オルセット……? 勿論だ……」
「……ウソだ」
「何でッ!?」
……獲物を狙う獅子のような鋭い目つきで、真っ向からボスの発言をバッサリと斬り捨てるオルセット。
「理由は分かんない。……けど、ボスがウソを言っている気がする……!」
「……んな、根拠もない事を……!」
――なんて事をボスは言っているが、実は当たっていた。
彼はオルセットを
唐突に出た彼女の「仲間になってもOK」発言に、
「……じゃあ何で、口の形がいつもと違うの?
いつもより汗臭いニオイがしているの……!?」
――それと、意外にも
「……」
「……”チンモクはYES"……ってさっき言ってたよね? ボスゥ……!」
「……ッ!?」
「何でさ……何でさ、ボスゥ……何で……?」
――とうとうオルセットは泣き出してしまった……。
両目を抑える両手の甲から、ジョジョに……ジョジョに
「女の涙に男は弱い」……とはよく言われるものだが、ボスもその例から逃れる事は出来ないようである……。どうにかしたい気持ちは、ジョジョに彼女の肩に迫ろうとする”両手”が物語っていたのだが……?
……その手が一向に触れる事はなかった。どうにかしたいのだが、そのまま
……数分後、ようやく気持ちが落ち着いてきたのか……彼女の両眼を抑えていた両手が下された……。
「……もういい」
――しこたま底冷えたような声で、オルセットが呟く。
「……へっ!?」
「ボクが弱いから、ボクがバカにされる程に弱いから……ボスはボクを”ナカマ”って認めたくないんでしょ……!?」
「ちょ、なんでそんな考えになるんだよッ!?」
「もう”一人ボッチ”はイヤなんだよッ! ボクは!」
――俯き、両手で頭を抱えながら叫ぶオルセット。
「……ッ!?」
「記憶はないけど……タブンずっと、ボクは”一人ぼっち”だった……。
けど……けど、ボスに助けてもらって……ボクにヤサシクしてくれて……ウレシかった……。
すっごく、ウレシかったんだよッ!」
「……」
「だから……ボスが”エイユウ”を目指しているって言ってくれたように……ボクも逃げたくない……!」
「……逃げたくない?」
「ぼっ、ボクも……”オクビョウ”を理由に……!
ぼっ、ボスと別れて……! また……一人ボッチ”には……!」
「……おい、オルセット。オレはそんな風には……!」
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! 〜
――ボスが何かを言い切るよりも早く……突如、土煙が舞い上がる……!
突然の事に、
「ゴホ、ゴホッ! おいッ! オルセットッ!?
……あぁッ! クソッ! アイツ、速すぎるんだよッ!」
――悪態を吐きつつも、ボスは彼女が走り抜けて行ったと思われる”土煙”を頼りに走り出す……ッ!
「……追いついたら、オルセットに”仲間だ”……って事をチャンと言おう。
それに、”弱い”って気にしてるなら……
それ以上に……オレだって
――切れ切れになりそうな息も気にせず、そう呟き「頼むから……! ベルガ婆さんのところに帰っててくれよ!」……と願いつつも、ボスはひた走る……!
……初めての、異世界での”
<異傭なるTips> ウォーダリア・フード・セレクション1
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<パァープリカ>
日に当たると、鮮やかな反射をする
地球上にある「ピーマン」は、熟すと”赤”や”黄色”の鮮やかな色に変色し、その中でも肉厚な果実になっているものを「パプリカ」と呼ぶのだが……。
この世界ではその「ピーマン」の状態であるのが、「パァープリカ」である。
市場では不人気な野菜の代名詞の一つであるが、その原因がなんと言っても”色”である。
その
では何故栽培されているかと言えば、熟し、色によって甘味が違う「赤パァープリカ」や「黄パァープリカ」が人気なためである。
しかしながら、人気のなさの原因の一つとして”調理方法”が悪いためでもある。
実際、うまく調理できた場合は”えぐみ”が消え、ほのかに残る”苦味”と”食べ応えのある食感”で、単体でも中々なボリュームを感じさせてくる意外性No.1(かも知しれない)な野菜である……!
因みに、この鮮やかな”楝色”を出しているのは、「ブルーベリー」などに含まれる「アントシアニン」に近い物と予想され、現地でも一部の物好きには”視力改善”効果があると伝わっているそうだとか。
尚、しつこいかもしれないが__。
この世界の大気には魔力の源となる「マナ」という物質が存在しているおかげで、どんな食料を食べても
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<基本性能>
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