第16話 四公訓練

さて、今日は四公訓練の日。本当なら、僕は参加しなくても良いんだけど。少し、不安だから参加。


「よーう、イル坊。久しぶりだな、元気か?」


「ディルさん、お久しぶりです。元気ですよ。」


ディルさん、本名ディルクバード・ゾイアデス。現役の貴族で、世界に3人しかいないZランク冒険者だ。ちなみに、貴族のマナーはディルさんに一通りは教えて貰ってたんだよね。うん、懐かしいなぁ。


まあ、まさか使うとは思ってなかったけどさ。


隣の女性は、ビオさんでZランク冒険者でもあり現教皇の娘さん。本名ビオラーナ・カレンデュラム。ちなみに、基本の読み書きや言葉遣いはビオさんひ習ったんだよね。だから、平民だけど敬語ペラペラと話せるし。一般では、敬語なんて使わないから平民の多くが敬語を使えない。ちなみに、読み書きなんて論外。書けない、読めないのが当たり前だ。


「イル君、お久しぶりね。」


おっとり、話しかけて聖人の笑みを向けて来る。


そして、後ろの男の人がケインさん。やはり、Zランク冒険者で本名ケインザール・ロメイシアン。ちなみに、暗殺や隠密などは彼に習った。剣しか、習ってなかったけど他の武器も教えてくれた人だ。


「イル、身長が伸びたか?元気そうだな。」


うん、世界に3人しか居ないZランク冒険者達。手紙を出した、その日から来てくれて間引いてくれている。その後、S級モンスター討伐情報とか来ていた。危ない、知らずに行けば5人は即死だったよ。


「ビオさん、それにケインさんお久しぶりです。会えて、嬉しいです。身長は、少し伸びました。」


「さて、挨拶はこれまでにしてだ。この森に、怪しい奴らが居たから捕縛してある。どうやら、錬金帝国の奴らしくてな。どーすっかね、イル坊?」


やっぱりか。うーん、国どうしの問題にはしたくないよね。面倒だし、戦争に発展するだろうし。


「そうだなぁ…。取り敢えず、殿下と話して来…」


「取り敢えず、敬語はやめろよ。イル坊、俺達の仲だろ?仕事なのは、わかるんだが堅苦しいぞ。」


ディルクは、苦笑してから言う。


「む…、うるさいよ。僕だって、仕事じゃないならディルク兄って呼ぶさ。まだ、四公訓練は始まって無いし良いっか。ディルク兄、現状は捕縛したのは錬金帝国の奴らなんだよね。やっぱり。」


ノイルは、いつもより更に砕けた言葉でため息。


それを見て、ビオとケインも優しく笑っている。3人にとって、ノイルは幼い頃から見てきた可愛い弟の様な存在だ。そして、ノイルにとっても幼い頃から遊んでくれる兄や姉であった。


「みたいだな。対応は、お前達に任せる。」


ディルクは、暢気に言って笑う。


「うん、分かった。っと、言っても殿下に丸投げする気だけどね。錬金帝国は、報告した通り僕の正体を知られそうなんだ。余り、関わりたくないのが本音なんだよね。何せ、何度も命を狙われてるし。」


すると、険しい表情をする3人。ノイルは、少しだけ困ったような不安そうな表情をする。いつもならば、隠してしまう感情だが。この3人に、嘘や誤魔化しが効かないのは幼い頃から知っている。


なので、ノイルは隠さず感情を表に出す。


「なら、俺が探りを入れようか?」


「やめた方が、良いよ。バレたら、面倒だし。」


ノイルは、即答してからため息を吐きだす。


「まあ、わかった。それで、賢者様。この異変、意図的な物だよな。いったい、何が目的だと思う?」


「おそらく、四公を崩して新たな剣聖を引き摺り出す事かな。国を支える、言わば柱を切り崩せば帝国の侵略も簡単だからね。それと、精霊や妖精を捕まえるつもりなんだと思う。それは、僕の立場としても許せる事じゃない。何としても、阻止するよ。」


ノイルは、雰囲気をガラリと変えて凛と言う。すると、殿下が近づく気配がしてノイルは表情を隠す。


「ノイル、お話は終わった?そろそろ、四公訓練が始まるみたい。えっと、その人達はどうするの?」


「僕達の、邪魔にならない範囲で引き続き間引きして貰います。それと、警戒も……。勘ですが、嫌な予感がするので。それに、この森……違和感が。鳥が鳴かないし、魔物以外の生き物の気配が……。」


ノイルが、険しい表情で複雑そうに呟く。


「森を知る、賢者の勘ならば否定できないね。」


「殿下、今の僕は見習い騎士ノイルです。」


ノイルは、抗議する様に挙手すれば笑うエウロス。


「うん、そっか。あのね、ノイル……見習い騎士がさ、コカトリス倒せてたまるかぁー!って言うのが僕の本音ね。四公も、驚いて思わず頭を抱えちゃったし。君、神童みたいに扱われてるよ?」


否定は、しないよ?だって、おじぃーちゃん(剣聖)の一番弟子だもの。腕前も、おじぃーちゃんに認められてるし。次期、剣聖候補だからね。


「殿下、私の師匠が誰かお忘れですか?」


「ノイル、剣を使うの禁止!」


えー、この流れだと魔術も禁止されそうだね。うーん、どうしたものか?一応、確認しないとね。


「殿下、私は騎士なのですが?」


「ノイルは、サポートをお願いね。」


あ、そう言って何もさせてくれないパターンだ。仕方ない、ディルク兄と一緒に影ながら間引く作業でもしようかな。その前に、カインと会おうかな?


「話は、終わったのか?」


「ファイ。えっと、別行動になりそう。取り敢えずさ、カインを見てない?一応、変なものを渡されていないか確認したくって……一応だけどね。」


ノイルが、少し困った様な表情で言えば笑うファイとアイリスが笑う。団長達も、お茶を飲みつつ聞いている。そして、ファイがカインを連れて来る。


「さて、豚さん。少しは、スマートになったね。でも、まだまだ豚さん。取り敢えず、母親から何か貰わなかった?てっ、言うか…貰っているよね?」


カインから、香辛料の様なピリついた匂いがする。ノイルは、話しながらも表情は険しく声も怒りが混じる。あれだけ、母親を信じるなと言ったのに!


「は?俺は、匂い袋を貰っただけだ!」


すると、ノイルは頭が痛そうな雰囲気で言う。


「いや、普通ジシナイの実やコーゼンの花、そしてザヤッタの葉を匂い袋にはしないよ!ジシナイは、興奮作用。コーゼンは、発狂や幻覚作用。ザヤッタは、感覚麻痺と精神崩壊作用がある。とても、危険な薬物なんだよ!特殊薬物取り扱い薬剤師、その資格保持者しか扱えない特殊激毒薬物だよ!しかも、激薬で扱いを間違えば死んでしまうんだよ?」


すると、青ざめてカインは薬物を渡す。ノイルは、鞄から液体の入った瓶を取り出して、素早く匂い袋をびんに入れてから振る。すると、液体は毒々しい緑色に。これは、コーゼンが薬品と化学反応を起こした為に変色したのだ。これで、コーゼンが入っているのは確定。もう少し、遅れていたらカインは発狂して暴れまわっていただろう。


錬金術は、余り得意では無いけど用意しといて良かった。ノイルは、内心は安堵してため息を溢す。


「ノイル、お前さ薬学知識も持ってんの?」


ファイは、真剣な雰囲気である。四公もだ。


「まあ、あるよ。」


「ならさ、さっきの薬物の輸入を禁止したらどうなんだ?止めれば、流石に毒物は作れないだろ?」


すると、ノイルは横に振り言う。


「それは、多分だけど無理。そもそも、その薬草は本来の使われ方じゃないんだ。ロインなら、分かるだろうけど薬と毒は、医学的にも実は紙一重なんだよね。分量や調合方法、薬の組み合わせで効果が大きく変わってしまう。本来、ジシナイは鎮静剤の効果が効きすぎる患者に微量調合される薬草だし。コーゼンは、不眠症や疲労回復に小匙1杯くらい調合される。そして、ザヤッタは少量なら麻酔や精神安定剤に使われる。だから、無いと困るしね。」


すると、凄い勢いでメモするロイン。ハイルも、興味がある雰囲気である。えっと、待って…。この国の医学レベルって……。もしかして低い?まあ、精霊王が居るし魔力は溢れてるから、魔法で事足りてたとか?うん、有り得そうだね。ヤバいかな?


「なるほど、勉強になったよ。ちなみに、調合方法や他の薬草との相性は!それと、副作用とか…」


あー、やばい!とても、逃げ出したくなってきた!


「ロイン、それは後でにしろ。でも、そっか。分かった、勉強になったんだけど……問題がな?」


うん、僕の薬学知識の事だね。ついでに、医療知識とか有効な知識を欲する視線を感じるなぁ……。


「教えないよ?僕だって、5歳から4年かけて教えて貰って習得したんだから。いや、頑張ったよ。」


「そりゃ、残念だけど……万が一があれば、その知識と技術で助けてくれるんだよな?」


ファイは、信頼の目で暢気に笑う。


「勿論だけど、怪我人が少ないに越した事は無いと思う。だから、気をつけて頑張ってね。」


ノイルは、疲れた様に言うのであった。

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