ブレイン・ウォッシュ

 お兄ちゃんが私を頼ってくれません……こんなに私にはバブみが溢れているというのに……


 そうだ! 洗脳しよう!


 ――今日も妹の思考は腐っている


「お兄ちゃん、退屈でしたよね、ごめんなさい……」


「それはいいから出せよ」


「そんなお兄ちゃんにプレゼントです!」


 私は今となっては懐かしいCDプレーヤーを渡す、昨今のポータブルオーディオは通信機能が整っているのが多いのでその辺油断してはいけない。


 そしてCDプレーヤーの中には私の愛情がたっぷり入ったCDが入っている。


 私の歌からASMR、催眠音声までフル完備だ。


「お兄ちゃん……ちゃんと聞いてくださいね?」


 お兄ちゃんが『ひぇ……』と歓喜の声を上げて受け取ってくれた。


 よし、これで学校にいる間も私とお兄ちゃんは一緒にいられるも同然!


 その夜、お兄ちゃんはCDを聞きながら悶えていました、きっと私の声がいいからでしょう、私の良さに気付くのはいいことです。


「おーにいちゃん? CDどうでしたか? 結構収録苦労したんですよ? ますたりんぐ? とか言うのも面倒だったんですけどお兄ちゃんのために頑張りました」


「頼むからその努力をまともな方向へ向けてくれ……」


 お兄ちゃんはつれない返事をします、でも分かってます! これがツンデレってやつですね、そうに違いありません!


「あれ? もしかしてハイレゾの方が良かったですか? ごめんなさい、機材が無いので……」


 お兄ちゃんは残念なものを見るような目でこちらを見てきます、お兄ちゃんが私の高音質な声を望むのは分かりますがさすがの私も収録の仕方が分かりません。

 いやいや、お兄ちゃんが望むならDTMやってる友達に頼むべきでしょうか?


 しかしお兄ちゃんへの愛を語るのを収録してもらうのはちょっと恥ずかしいですね……


「お兄ちゃん! どんな音声が聞きたいですか?」


 お兄ちゃんはしばらく考えた末に答えた。


「環境音……」


 お兄ちゃん……私への愛が深すぎて私の私生活の音が欲しいようです。


 さすがにちょっと恥ずかしいですがお兄ちゃんが欲しがってます……これは収録するしかないでしょう!


 その日は私の生活音を収録するためにピンマイクを付けて生活しました。


 きっとお兄ちゃんもこの音楽を聴けば私に落ちるでしょう……完璧です!


 次の日、CD-Rを焼いてお兄ちゃんに渡しました。

 お兄ちゃんは始め方最後まで聞きながらしみじみと愛おしそうに聞いていました。


 ……しかし気のせいでしょうか? お兄ちゃんが感激しているのは私がお風呂や寝るときにマイクを外しておいたときの音のような気がします……


「ああ……普通の音だ……落ち着くなあ……懐かしい……」


 お兄ちゃんは満足しているようなのでそれを突っ込むのも野暮という物でしょう。

 私はその日お兄ちゃんが私の音声を聞くのを想像しながら気持ちよく眠りにつけたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る