第167話【コミックス三巻発売記念!】ローランドの大切な一日(前)

 ※ お久しぶりです。

 本編終了から四年後のローゼンバルクになります。 




 ◇◇◇◇◇◇◇




 僕はローランド。こないだ五歳になったんだ。


「お、ローランド起きていたの? えらいね」

「おはようお父さん」

「おはよう。さあ朝ごはんにしよう」


 お父さんにほっぺにチューされて、僕もチューを返して、手を繋いでご飯を食べるお部屋に行く。

 お父さんが朝ごはん当番ってことは、お母さんはもうお仕事に行ったってこと。お母さんえらい。


 僕はお父さんの作ったお野菜たっぷりのスープを食べながら聞いた。

「お父さん、今日、何時に神殿に行くの? お母さんも一緒に行ける?」

「待ちきれないの? はははっ。お母さんのお仕事は昼までだ。お父さんも今日は早く帰っていいって、お館様が言ってくれたから、三人で行こう」


「やったー!」



 ◇◇◇



 僕はお父さんと、『りょうしゅかん』に行った。この大きいおうちはおやかたさまの家で、お父さんとお母さんはここで働いているの。


 実はね、僕は赤ちゃんのころからずーっと、ここに住んでいたんだ。ちょっと前に僕が大きくなったからお引越ししたけど、でも、『りょうしゅかん』のことは、なんでも知ってるよ。


 僕はお父さんとお母さんがお仕事している間、お絵描きしたり、お外でかけっこしたり、お勉強したりして待ってるの。


「じゃあ、ローランド、お利口さんにしているんだよ?」

「わかった!」


 玄関でお父さんにバイバイして、僕は入り口から一番近いお部屋を開けた。


「おはよーダイアナちゃん」

「あ、ローランド! おはよう。今日も元気だねー!」


 ダイアナちゃんは僕を抱っこして、ほっぺにチューして、僕もチューを返して、ダイアナちゃんのお席の隣に連れていってくれた。


「なになに? 今日もダイアナちゃんとお勉強しちゃうの?」

「うん。僕いっぱいお勉強して、ダイアナちゃんみたいにお手紙いっぱいビュンビュンしたい!」

「いいねいいねー。じゃあお名前の練習の続きをしようか。今日は「ド」をマスターしちゃおう!」

「マスターするっ!」


 僕はお手手が痛くなるまで、ドドドドドって書いた。ちょっと疲れたなーって思って隣を見たら、ダイアナちゃんは、僕の百倍速くお手紙を書いて、紙鳥にして、バッサバッサと窓から飛ばしていた。すごー!


「ダイアナちゃん、〈紙魔法〉楽しそうねえ。いいなあ」

「うん。〈紙魔法〉はローゼンバルクの役に立つし、案外強いのよ。私は〈紙魔法〉大好き!」

「ふーん」


 僕は今日の分のお勉強はおしまいにして、ダイアナちゃんバイバイして、キッチンに向かった。頑張ったから、ちょっと喉がかわいたの。




 ◇◇◇





「こんにちはー。ミルクくださーい」

 キッチンにはミラーお兄ちゃんがいた。ミラーお兄ちゃんは、ローゼンバルクで一番の美人さんだよ。


「ローランドー! おはよう。ちょっと待ってね。あ! あっためる?」

「うん。あったかいミルク好きー」

「OK」


 ミラーお兄ちゃんは、お鍋にミルクを入れたあと、魔法で火をつけてあっという間に湯気がもあもあってなった。

『りょうしゅかん』には、僕のクマさんのコップがちゃんと置いてあって、それにミルクを入れてくれた。


「いただきます……うん、おいしい。でもちょっとだけハチミツ入れてほしいな〜」

「しょうがないなあ。マリアさんには内緒だよ?」


 ミラーお兄ちゃんは「しー」ってナイショのポーズして、お匙いっぱいハチミツを入れてくれた。とっても甘い。うふふ。


「ねえねえ、ミラーお兄ちゃんの〈火魔法〉、カッコいいね」

「……そう? ローランドにはカッコよく見えた?」

「うん。ピカッて光ってボォッて燃えて、あっという間にミルクがポカポカだもん」

「……そっか。うん。今では〈火魔法〉、気に入ってるよ」


 そう言ってミラーお兄ちゃんは指先からパチパチ花火を出してくれた。やっぱりカッコいい!


 足をぶらぶらさせてそれを見ていたら、僕の影がもこもこって立ち上がった!


「ちっちゃな影だと思ったら、ローランドだったか。久しぶり!」

「トリーお兄ちゃん!」


 僕がぴょんっといすから飛び降りて駆け寄ると、真っ黒なお洋服を着たトリーお兄ちゃんがサッと抱き上げて、頭をわちゃわちゃ撫でてきた。トリーお兄ちゃんはとってもとっても大きいんだ。でも僕くらいのときはチビだったんだって。ちょっと信じられない。


「トリーお兄ちゃん、お仕事行ってたの?」

「うん。いっぱい働いてきたよ。ローランド、褒めて」

「トリーお兄ちゃんえらいえらい」

 僕もトリーお兄ちゃんの頭を撫で撫ですると、トリーお兄ちゃんはにこーっと笑った。


「トリー、俺じゃなくてわざとローランドの影を狙ったでしょ? ココでつまみ食いしても怒られないように」

「バレたか。っていうか、ミラーはもうキッチン出てったと思ったのに〜。まあいいや。昨日から潜りっぱなしで昼飯まで待てない。二人とも見逃して?」


 そう言うと、トリーお兄ちゃんは戸棚からいっちばん大きなパンを取り出して、かぶりついた。とってもお腹が空いてるみたい。でも、すぐに僕のお母さんにはバレると思うよ。


「そんなにぺこぺこなら、僕のミルクも飲んでいいよ。はいどうぞ!」

 僕はもうちょっと甘いミルクを飲みたかったけど、我慢してトリーお兄ちゃんにあげたよ。すると、お兄ちゃん二人がなぜか二人とも顔を手で隠して、下を向いちゃった。


「尊い……尊すぎるわ……」

「こんな天使があの鬼のベルンさんの子なんて、天変地異だよ……」



 ◇◇◇



 トリーお兄ちゃんは結局、僕に大きくなってほしいからって言って、ミルクを返してくれた。だからごちそうさまして、二人にバイバイした。


 お腹がいっぱいになったから、ちょっとかけっこしようと思ってお外に出たら、お空の上から、キーンって音がして、んんんって、よーく見たら、エメルちゃんだった。あ、背中に、じきさまもいる。


「エメルちゃーん」

『ローランドーー!』

「おい、エメル、ローランドにぶつかる! スピード抑えろ!」


 エメルちゃんは『りょうしゅかん』の真上でパッと小さくなって、僕のところに来てくれた。じきさまは、しゅたっ! っと地面に落ちてきたよ。


「おいーっ! 空中で放り出すなっ!」

『ちゃんと〈風魔法〉纏わせて、衝撃来ないようにしてやってるじゃん。それよりローランド、また大きくなったな』


「うん、今いっぱいミルク飲んできたのー!」

『そっかー……うん。今日も健康だな。なんの問題もない』


 エメルちゃんは僕が産まれる前からずっと、僕が元気いっぱいかどうかチェックしてくれてるんだって。


「どのくらい大きくなったんだ? ローランド」


 じきさまはそう言うと、僕を高い高いしてくれた。


「本当だ。重くなってる。ローランド、五歳の誕生日おめでとう」

「うふふ。ありがとうじきさま」


 僕はじきさまにぎゅーした。じきさまはひんやりして気持ちいい。でもお友達の中にはじきさまをこわいっていう子もいるの。強すぎるし、お目目が氷みたいに冷たく見えるって。

 僕は好きだよ。すっごく優しいし、お熱出したときに氷まくら何回も作ってくれたもん。


「ローランド、おまえまで「次期様」はやめろ」


 そういえばお父さんも、もうすぐじきさまはじきさまじゃなくなるから、じきさまはやめようね、って言ってた。


「んっとね……じゃあ……お兄ちゃま!!」


 僕がそう呼ぶと、じきさまは、目をまんまるにしたあと、噴き出して笑った。

「プッ……あーははは! あー懐かしい。血は繋がっていなくても、やはり家族なんだな。うん、お兄ちゃまでいこう」


 お兄ちゃまはニコッと笑って、僕を肩車してくれた。なんとお兄ちゃま、笑いすぎて泣いてる? みんな、お兄ちゃまのどこが怖いんだろうって、僕の指で涙をフキフキしながら思った。


「ねえねえ、お兄ちゃまにエメルちゃん。二人はいろんな魔法使えるでしょう? どの魔法が一番好き?」

 僕がワクワクしてそう聞くと、なぜか、二人は「うーん」って考えた。


「……ローランド、俺はもちろん氷に思い入れがある。たくさん鍛錬……ええと……氷のお勉強したからな。でも、魔法っていうのは全部がスゴイんだ。だからどれが好きでもいいんだよ」


『そうそう。オレほどになると、ぜーんぶの魔法をかんっぺきに使えちゃうんだぞ!』

「そーなの? エメルちゃん、カッコいい!」

『だろう? だから、ローランドもどんな〈適性〉であっても、いっぱい勉強すれば、オレみたいにカッコよくなれる』


「……わかった! 僕、がんばる!」

「『よく言った!』」


 お兄ちゃまは僕を肩から下ろして、僕とおでことおでこをくっつけた。水色のキレイなお目目に吸い込まれちゃいそう。


「ローランド、ローゼンバルクは全ての魔法を尊重し、全ての〈適性〉の子どもたちを、等しく大事に育てるよ。約束しよう」


「んんん? お兄ちゃま、むずかしいよー」

『うんうん、難しいなー』

「難しかったかー」



 ※ 本日2/1 コミックス三巻発売です!

 と言うわけで、今日明日はクロエ祭り!

 是非お付き合いください。わっしょい٩( 'ω' )و

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