第94話「タランタンへの道」

 ジェノサイド・リアリティーの街から、長い階段をゆっくりと上がって外へ。

 西岸から見えるのは海だった。


「ここが、ムンドゥスか」


 すでに十名ほどになってしまった一隊を率いる七海修一ななみしゅういちは、思わずつぶやく。

 絶壁から吹き上げる潮風が、管理された環境であるジェノサイド・リアリティーから外の世界ムンドゥスへと出たことを感じさせた。


「一番近い街のタランタンへは、北東デスね。こっちの道が順路デスよ」


 道案内を買って出たウッサーが、みんなに説明してくれる。


「東南には、何があるのかな」

「見えるでしょう、そっちは昼間も日がささない『漆黒の森』デス。樹海といったほうが分かりやすいかもしれないデスね。暗くて足元の悪い森の中には、厄介な植物系のモンスターがたくさんデス。わざわざ悪路を突っ切る必要もないデスよ」


 もちろん、わざわざ厳しい道に行くつもりは毛頭ない。

 深い森があるということは、開発が進んでいないということかと七海は思う。


「分かったよ。アリスディア……じゃないウッサーくん。では、街道沿いを進んでいくことにしよう」


 重たいボディースーツを着て、重たい銃を持った徒歩の旅である。食料やサブウェポンも結構な重量がある。

 ジェノサイド・リアリティーで鍛えてはいるが、ただの高校生にこれはキツイ。日暮れまで歩くと、みんなほとほとに疲れてしまった。


「ほら元気を出すデス。牧場や麦畑が見えてきましたから、もう少し行けば村もあるはずデスよ」

「それは、助かる。みんなもう少しだ」


 元気いっぱいのウッサーはともかく、疲弊の色が隠せない七海だが、それでもみんなを励ましながら進む。

 牧場があるなら、馬車だってあがなえるかもしれない。


 そうなれば、旅も楽になるはずだ。

 やがて、木の柵に囲まれた村が見えてきた。


「わー村だ!」

「良かった、これで今夜は野宿しなくて済む」


 みんな歓声を上げて、村へと駆け寄ったがそれはすぐ悲鳴に変わる。

 七海達を待ち受けていたのは、ゾンビの集団だったからだ。


「何だこいつら!」


 一瞬ためらいを見せた三上直継みかみなおつぐであったが、相手が人間でなく死霊の類だと分かるとアサルトライフルの引き金を引いた。

 それに釣られるように、みんなはうめき声を上げながら迫ってくるゾンビ達を銃で撃ち続ける。


 半分腐りかけた脆い死体は、あっけなく蜂の巣になって倒れた。

 むしろ、この程度の敵にライフルはオーバーキルだったぐらいだ。


「生きた人間はいないのか?」


 よくよく見れば、村の柵はところどころが壊れていた。

 大量のゾンビに襲われて、廃村になったと見える。


 姿の見えない村人は殺られたか、もっと頑丈な柵がある街へと逃げたのかもしれない。

 他人ごとではあるが、できれば逃げ延びていて欲しいと七海は思った。


「待て、それ以上撃つな。こんなところで、無駄弾を使いすぎだ!」


 三上が注意の声を上げる。自ら、武器をライフルから『三叉の神矛トリアイナ』に持ち替えてゾンビを突き崩す。

 歩き疲れて村にたどり着いたところを、突然のゾンビで恐慌状態に陥ったが、大した敵ではない。


 弾数に限りがあるライフルを、こんな弱い敵に使うべきではないのだ。

 三上の指示で、攻撃を接近戦用の武器や、炎球ファイヤーボールへと切り替える。


 この手の死霊は、ジェノサイド・リアリティーでも、どちらかと言えば雑魚敵なのだ。

 日暮れまでかかって、村にたむろっていたゾンビを狩り尽くして、その日は無人になった村で過ごすことになった。


「ウッサーくん、ゾンビが村を襲うのはよくあることなのか?」

「そんなわけないデスよ。郊外でモンスターとして出たりすることはありマスが、大量のゾンビが村を襲うなんて聞いたことないデス」


 ウッサーの常識からしても、予測していなかった事態らしい。

 みんながくつろぐなかで、七海はちょっと思いついたことがあって松明を持って村の小さな共同墓地を調べてみることにした。


「なるほど、やっぱりだ」

「なにがやっぱりなんデスか?」


「この世界ムンドゥスは、土葬にするんだね。土に還るまでの死体が、ゾンビとなって蘇ったということだと思う」

「なんでそんなことになったんデスかね」


 村の共同墓地から、死体が土の下から這い出た後があった。


「村に居たゾンビに比べると這い出た後の数が少ない。ゾンビに奇襲されて殺された死体も、ゾンビになって数が増えたのかもしれない」


 村に何が起こったのか、形跡を調べることで大体予想が付く。

 慌てて荷物をまとめて出ていった様子もあったので、村人全員が襲われて死んだということはないと思うが、一部はその犠牲になったと考えるべきだ。


「これは、もしかすると……」

「ジェノサイド・リアリティーの影響ということだろうね。この世界の創造神ジ・オールは、真城ワタルくんとの会話のなかで、『死んだものを生き返らせることができないというルールそのものを破壊する』と言っていた。仲間を蘇らせてくれと願ったその結果がこれとは、相変わらず意地が悪い」


 贔屓しないとも、新たなる悲劇が起こるとも言っていた。

 この結果を見て、真城ワタルくんはどう考えるだろうか。きっと表面上は気にしない振りをするだろう。


 でも本当は優しい彼は、心を痛めるに違いないと七海は思った。

 真城ワタルを非情の人のように言う生徒もいるが、実際はそうではないことを七海修一は知っている。


 もし本当にそうなら、七海の幼馴染である竜胆和葉を助けることもなかった。

 そうだ、和葉を助けたのは、生徒会を組織して全ての生徒を助けようとした七海修一ではなく、勝手に行動した真城ワタルだった。


 真城ワタルは、非情なのではない。

 確かに彼は他人にそっけない。その言葉はときに乱暴でもあったが、それでも彼は助けを求める友人を決して見捨てなかった。


 真城ワタルは、優しい男なのだ。

 ただ自分の手の届く範囲しか人を救えないことを知っているから、できないことをできると言わないだけで。


 それは、できないことをできると言い続けて生徒達を騙してきた自分よりも、ずっと人として誠実な行いなのではないか。

 だからこそ、人の本質を見る目がある和葉は、偽りのヒーローを演じた僕ではなく、本当の英雄であった彼にこそ心を許した。


 七海の記憶のなかで、「ヒーローみたいだね」と言って、笑ってくれた幼かった頃の和葉の可愛らしい笑顔が不意に思い浮かぶ。

 思い返すと和葉の言うことは、いつも正鵠を得ている。


 僕は、ヒーローみたいだけど、本物じゃなかった。みんなを救える本当の英雄になれるほど、強い力がなかったのだ。

 あのとき、それに気が付いていれば……。


 ときは戻らない。これは未練だ。これは当然の結果なのだと思う度に、七海の胸はチクリと痛んだ。

 いや、苦しんでいた和葉を自分の手で救えなかったと知ったときから、この痛みはずっと続いている。そのほろ苦さに、頬を歪める。


 こんなとき、せめて苦笑できればいいのに。

 まだ上手く笑えないなと、七海は思う。


 そんな七海の顔を見てどう思ったのか、ウッサーが慰めるように声をかける。


「七海、旦那様ならきっと大丈夫デスよ」

「そうだね。彼はそんなに弱くないさ。これは、ありのまま真城ワタルくんに報告することにしよう」


 こうなると、目指しているタランタンの街もどうなっているか分からない。

 廃村で一晩を明かした七海修一達の集団パーティーは、馬車と馬を発見して旅を続ける。


 そうして、タランタンの街に近づくにつれて増えていく村々で起こったゾンビによる襲来を目撃し。

 当面の目的地であるタランタンの街を目前として、街が陥落して厳戒態勢になっているという情報を聴きこんで、立ち往生するはめとなった。


 タランタンの街を襲ったのは、ゾンビの襲来ではなくこの騒乱に乗じた灰色の鬣を持つ猛犬人のルードック族の大盗賊団であったようで。

 黒毛の熊人であるバグベアード族が領主を務めて、支配階層を形成していたタランタンの街に、一種の政変クーデターが起こっていたのだ。


 しかも、タランタン地域の支配権を争う二大種族は、どちらも七海達の種族であるいわゆる人間種を繁殖力が強いだけの使い回しの利く農奴ぐらいにしか思っていない。

 最悪の状況である。


「ウッサーくんから聞いてたけど、ただの人間ってこんな差別的な扱いを受けるんだね……」

「七海、だから小生意気なルードック族の盗賊とやらを皆殺しにしたらいいんデスよ。この世界ムンドゥスは実力勝負デスから、力を見せつけてやればいいだけデス」


 ウッサーは気軽にそう言うが、たかだか十人程度で街一つを占拠する大盗賊団を襲うなんて決断ができるはずもなく。

 七海修一を中心とする先発隊は、壁に囲まれた街の周辺の村で農奴としてこき使われていた人を中心に情報を収集するしかなかった。


     ※※※


「真城ワタルくん、というわけなんだが……」

「そうか七海、状況はよく分かった。もう少し鍛えたら、俺達も行くからな」


 ログハウスのベッドに寝そべっている俺は、七海の涼やかな声を聞きながら瞑目する。

 七海が、ウッサーの暴発を抑えられるのは後どのくらいだろうか。


 何なら暴れてもいいが、大多数の軍隊相手に十人程度の集団パーティーがどれだけやれるかは未知数とも言える。

 街に篭っている盗賊団とやらの規模や武装の程度も分からない以上、まず情報を集めて回っている七海の判断は正しい。


 いや、アイツはいつも正しいな。

 天性のリーダー気質ってやつだ。これ以上死人が出ても困るし、七海に任せておけば間違いはないだろう。


「現地政府と交渉して協力を得らればと思っていたが、最初の街で政変クーデターが起こってるなんて想定外だ」

「七海でも、読み間違うってこともあるんだな」


 思わず笑ってしまった俺がそう誂うと、七海は憮然とした声を発した。


「真城くん。笑いごとじゃないよ。とにかく、現地は混乱していて二大種族の争いに巻き込まれないように動いているが、有益な情報を集めるどころじゃなくなっている」

「ハハッ、すまない」


 そう言いながら、七海はそう怒っている風でもない。

 むしろ俺が報告を聞いて笑っているのに、安堵しているような口振りだ。


 ふんっ、俺が自分のせいでゾンビが出て、村が一つ二つ崩壊してるぐらいで心を揺らすと思ったかよ?

 俺はあのとき言ったんだ。何としても瀬木を蘇らせると。


 そのためには、この世界ムンドゥス一つ滅ぼしてでも構うものか。

 世界ムンドゥスを救うなんて、俺にはどうでもいいことだしな。


「じゃあ、真城ワタルくん。僕達は、もう少し状況を調べてみる。街から撤退したという、バグベアード族のほうも気になる」

「ああ、引き続き頼む」


 プツンと、テレビのように『遠見の水晶』の映像が途絶えた。

 俺は、ベッドのサイドボードの上に乱暴に放り投げる。


 そうしても壊れないほど丈夫なアイテムだということもあるのだが、いちいち立ち上がって置くのがキツかった。


 戦闘訓練をしているときは良かったのだが。

 こうして一度休んでしまうと、ちょっと身動きするだけでも全身の骨にヒビが入ったときみたいな痛みが走った。


 今日は四方から延々とデーモンにタコ殴りにさせるという乱暴なやり方で、急速に軽業師ランクを上げたために、四肢が悲鳴を上げている。

 中学生のときに成長痛ってやつがあったが、その百倍ぐらいの勢いで横になっていても骨と筋肉がギシギシと軋んで眠れないのだ。


「七海くんとの電話終わった?」

「和葉……ッ、痛いからあんまり強く触らないでくれ」


 和葉は、ベッドの上に寝ている俺に勢い良く抱きついてきた。

 痛みを感じたということもあるが、あんまり抱きしめられるといろいろと困るので、あえてそう非難してみた。


「あっ、ごめんなさい。筋肉が引きつってるなら、マッサージでもしようか」


 しかし、和葉はそのまま俺から離れずに、俺の二の腕をさすって来た。

 和葉も風呂上りなので妙に良い香りがするし、これから寝ようというので薄いシャツ一枚なのだ。


 この感触は、下着すらつけてない。

 俺の胸板に意外にも大きい胸を押し付けられるようにされたら、いかに心身ともに鍛えている俺だって何も感じないというわけにはいかない。


「マッサージもいらない。回復自体は、ヘルスポーションを飲んで終わっている。あとは放っとくしかないんだ」


 今の痛みは、ランクの急上昇に合わせた成長痛みたいなものなので薬では癒せない。

 本当は、言うほど痛くねーしな。


 ちょっと動くたびに、身体の骨がバラバラになりそうな程度だ。

 ついさきほどまで俺は、業火に身を焼き、皮を引き裂き、骨を粉々に砕きながら鍛え続けていたのだ。


 この程度の成長痛など、苦痛のうちに入らない。

 自分が更に強くなるための痛みと思えば、むしろ甘美ですらある。


「そう、だったらマッサージじゃなくて……」


 和葉の呼吸に、艶のある響きが混じり始めた。俺の身体を摩る、手つきが怪しい。

 今は身体が動きにくいので、このままだとマズい。


「あと、電話じゃなくて『遠見の水晶』だからな。七海は頑張ってるってよ。和葉も、ねぎらいの声ぐらいはかけてやっても罰は当たらねえだろうに」


 これは、七海のことを考えてというより、単なる誤魔化しだ。

 七海の話を出されると和葉は不快らしく、無理に抱き上げられた猫がむずがるような声を上げた。あとは、俺からもう少し離れてくれるといいんだけど。


「むうっ、それが真城くんの命令だったらそうするけど、私としては七海くんの声も聞きたくないんだよね」


 そういう和葉の七海への嫌悪だけは、本物のようだ。

 無視されるぐらいなら、嫌われていたほうがいいと七海は言っていた。


「友になってくれないなら、せめて私の敵であってくれ……か」

「えっ、なに?」


「いや、何でもない」


 ニーチェが、そんなことを書いていたように思う。

 愛の反対は憎悪ではなく無関心だ。


 嫌うということは好くと同じく、対象に強い関心を持つということである。

 後で好悪を反転させるためにヘイトを溜めておくというのも、心理学的には間違った選択でもないとはいえる。


 ただ、心理学なんて結局は占い程度にしか役に立たない似非科学だ。

 人の本当の心は、計算式では測りきれないほどに深い。


 こう目の前で七海のことを話す、黒く沈んだ和葉の瞳を見ていると、深淵に引きずり込まれてしまいそうだ。

 悪鬼そのもののであるデーモン四体相手に、一日中殴り合いしてきた最強である俺が、心を震わされているのだ。


 近くにいる俺までもが一緒に引かれそうになるほど、和葉は深く七海を恨んでいる。

 強い引力を持つ和葉の瞳から眼が離せなくて、俺は四肢の引きつる痛みも忘れた。


 竜胆和葉は、生半可な女ではない。

 最初は不釣り合いだと思ったが、あの七海修一が惚れたのが、和葉の足が不自由だった同情からでも、幼馴染だからって理由だけでもないと分かった。


 竜胆和葉には、底がない。

 軽く触れ合っただけでは分からないが、深く触れ合うと、どこまでも情が深い女なのだと気づく。


 その愛情も憎悪も、底が見えないほど深い底なし沼だ。

 足を取られたら最後、どこまでも、引かれ続ける。安全圏にいるつもりの俺も危うい。溺れかけている。


 なあ、七海。お前の考えはまだ浅いぞ。

 現実は、ギャルゲーや少女漫画じゃねえんだ。


 こんなにも深い、身を切られるほどの痛みを伴った感情きもちは。

 簡単に反転させられるものじゃない。


「ごめんなさい。真城くんは、ダンジョンで疲れてるよね」

「ああ、そこに配慮してくれると助かる」


「疲れないように、優しくするからね」

「っておい!」


「うふふっ、冗談だよ」

「だよな……」


 七海との約束もあるから。

 行きずりで、和葉と男女の関係を持ってしまうわけにもいかない。


 こうも蕩けるほどに柔らかい肌を、甘い香りが移ってしまうぐらいに擦り付けられると、俺の若さが全く反応を返さないわけにはいかないわけだが。

 そこは和葉も、誘惑はすれど無理強いするわけではないらしく、一線は引いてくれている。


 あとは、俺が自分の内側で暴れ狂う獣を上手く飼い慣らしてやればいいだけだ。

 自分を抑える術なら、俺もいくつか知っている。


「だけど、真城くんのことが好きだって言ったことは冗談じゃないから、それは分かっておいてね」

「そうだな……」


「私は、真城くんのためだったらなんだってするよ」

「そこまで好かれることは、やってないと思うんだけど」


「それ本気で言ってないでしょう? 真城くんは、私のことを分かってくれる人だもん。真城くんがいま気がねしている、誰かと違って」

「まあ……」


 俺が分かっていることぐらい、和葉にだって分かる。だから、誤魔化しきれない。

 ゆっくりと、俺の身体の形を確かめるように蠢く和葉の手の感触は、無視してしまえるものでもなかった。


 今は、成長痛で感覚の鈍った俺の四肢の痺れがありがたく感じるぐらいだ。

 早く寝てしまえばいいんだが。


「真城くんがやりたくないなら、私はしなくてもいいけど。そんなに我慢しなくても、いいと思う。ちょっとだけならいいんじゃないかな、今なら誰も見てないよ?」


 そういうことじゃ、ねえんだよな。

 七海に気がねするなんてのも、本当は言い訳なんだ。


 童貞が何を言ってるんだって感じだが、遊びの女のつもりなら、ここまでやられたら劣情に任せて抱いてしまっていたかもしれない。

 でも、情が通ってしまった和葉とはダメなのだ。


 だって、手を伸ばしたら、ちょっとだけで済むわけねえだろう。

 そして本気の女とそういう関係になれば、やがて子ができて家庭を作ることにもなるかもしれない。


 俺は崩壊した家庭に育ったから、そうなる自分が上手く想像できない。

 きっと俺は、そうなるのが怖いんだ。


 胸の内側にある、黒くモヤモヤしたものを言語化すればそうなるのだが。

 俺は、とにかく自分の過去の古傷に触れられたくはなかった。


 このまま和葉の深い瞳をずっと見つめていたら、やるせない子供の頃の記憶まで一緒に引き出されそうになる。

 だから、目をそらして誤魔化す。


「誰も見てないって、久美子とアリアドネがいるだろ?」

「そこに寝てるよ」


 二人は床に敷かれた木綿の布団の上に、相次いで昏倒するように倒れていた。

 久美子もそうだが、アリアドネがこんな寝方をするなんて尋常ではない。


「いつの間に……」

「ダンジョンで二人は真城くんと一緒にいられるでしょう。ここでは私の番だから、ね」


 何が「ね」なのか、知らないけども。

 なんか怖いので追求しないでおく。


 そうして、夜が更けていく。

 ありがたかったのは、和葉が優しく摩ってくれたおかげで、骨の髄まで軋んでいた痛みが消えたことだ。


 和葉がそのようなスキルを持っているのかもしれないなんて、無粋なことは俺も言わない。

 治療のことを手当と言うように、優しく愛撫されることで痛みが和らぐことがあっても、不思議でもなんでもない。


 床で爆睡している二人も、そうだったのかもしれない。

 和葉が側にいると、よく眠れるからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る