第9話 予想外の行動
賊が一斉にマテリアを見た。
「だ、誰だ!」
裏返った声で、マテリアの一番近くにいた賊の一人が叫ぶ。
「私はマテリア」
目を細めて睨みつけながら、マテリアは賊たちを見渡し――わずかに息を切らせていたガストに視線を向ける。
そして、涼やかな微笑を向けた。
「加勢するぞ、アスタロ」
口にしたのは、この中の誰でもない名前。
しかしマテリアの目はしっかりとガストの姿を捕らえ、言葉を送っていた。
「アスタロ? ガスト様を別の人と勘違いしてる?」
マテリアたちから少し離れたところで足を止め、ロンドは困惑した声を漏らす。
「あ、ああ、恩に着る」
理解しにくそうだが、マテリアが敵ではないことと、賊が混乱している今が好機と踏んだのだろう。戸惑いつつもガストは彼女に応える。
マテリアはうなずくと、賊の中へ切りこんだ。ガストもそばの警護隊員に目配せして、同時に攻撃をしかける。
身を低くして、マテリアは賊の間を縫うように駆ける。
すれ違いざまに一撃、一撃、確実に急所を突いて気絶させていた。
その場に赤き血潮を降らせず、男たちの体を折り重ねていく。
多勢に寡勢という戦局で、戦いを優位に運んでいるのは警護隊とマテリア。
その様をロンドは頭を整理させながら眺めていた。
こちらに賊が逃げてくる。と、ビクターが落ちていた剣を拾い、すかさず前に出て賊を弾き飛ばす。
余裕があるのか、マテリアの動きを見ながら「すげー」と歓声を上げている。
「なあ少年、『永劫の罪人』がどうして賊と戦っているんだ?」
「……僕に聞かれても困ります」
こちらに刃を向けるかも……という不安はある。
それでもマテリアの動きが美しく思え、目が離せない。
剣なんて人を傷つけるための、恐ろしい物だと思っていたのに、剣を振るう彼女の躍動がきれいだと感じてしまう。
ロンドが見とれている間に、賊は首領を残し、全員が地へ突っ伏していた。
「お、お前は、この国に災いをもたらした者ではないのか!」
首領の叫びにマテリアの眉根が寄る。
「何だそれ? 誰が好んで災いなんか起こすか!」
彼女は声を張り上げ、首領に飛びかかった。
すかさず首領は剣を交える。ほかの仲間よりも腕が立つのか、マテリアの剣撃を力で押し戻そうとする。
じりじりと、刃がマテリアの顔へ近づいていく。
が、恐れるどころか、彼女はニッと歯を見せて不敵に笑った。
「この程度じゃあ、村の老人でもお前に勝てるな」
「何を――」
首領が話すよりも早く、マテリアはいったん剣を引き、刃を閃かす。
ギン、ギィンと、鮮やかな連撃が決まる。
首領の手から剣は離れ、弧を描いて空を舞った。
マテリアは容赦なく膝を首領の腹へ打ちこみ、そのまま蹴り倒す。
彼は口からこみ上げた物を吐き出しながら、無残に地へ沈んでいった。
さっきまでの殺気と喧噪は消え、静けさが辺りを包む。
マテリアは軽く息を吐くと、ビクターのところへ近づく。
鋭くなっていたマテリアの目が、優しい曲線を作った。
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