(続)どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫

第1話 ここはどこ?


俺の目の前には白い霧のようなものが広がっている。

その隙間から景色が見え隠れする。

緑の景色が多い。

霧も晴れてきた。

視点を移動させると、景色を高い位置から見ているらしい。

どうやら高原のようなところにいるようだ。


「ルナさん、知っているようでもあるって・・」

俺は声をかけてみた。

「うむ・・とにかく今すぐには戻れないということだ」

ルナJrは苦笑している。

笑うところなのか?


「ルナさん・・俺にはよくわからないのですが、飛ばされたのはわかります。 そりゃ遠くに飛ばされたのならすぐには戻れないでしょうが・・」

「テツ、同じ次元なら問題はない。 だが、ワシの本体との連絡は途絶えている。 ただ、あの魔法陣といい、この雰囲気といい、全く知らないわけでもないようなのだ」

「じ、次元? よくわかりませんね。 なんかルナさんにしては歯切れがよくない話し方です」

「フッ、そうだな。 テツ、念話は使えないだろう」

ルナJrがそういうので、俺はフレイアやアニム王を呼び出してみた。

・・・

確かにつながらない。

全くもって返事もない。


俺は少しずつ焦り始める。

「ルナさん・・これって・・」

「ようやくわかり出したか。 お前たちのいた世界との連絡が途絶えている。 今のところワシが推察できるのは完全な別世界か亜空間、そして亜空間なら地球の空間を利用して世界を構築しているだろうということだ」

「亜空間?」

俺にはよくわからない。

「そうだ。 まぁ別世界というのは考えにくい。 言い換えればディープダンジョンのような感じだな。 アニムたちが言っておったであろう。 魔素が滝のように流れ落ちていると。 つまりそのエネルギーを利用してこの空間が維持されているのだ」

ルナJrは言う。

「ディープダンジョン? それって、階層がわからないくらい巨大なダンジョンってやつですよね?」

ルナが笑う。

「あはは・・テツよ、まぁ間違ってはいない。 だが空間が通常では届かない距離、というと語弊があるな。 別次元ではないが、届かないもの。 例えば影だな。 見ることはできるが触れることはできないだろう。 次元が違うからな。 地球を利用してこの空間を確保しているのだ」

「なるほど・・影みたいなもの」

俺は何となくわかった。


地球の魔素を利用してこの空間が維持されているという。

だが、魔素の供給がなくなればこの空間ってどうなるのだろう。

そんなことが俺の頭に浮かんでしまった。

「ルナさん、今俺たちがいる空間って地球なんですか?」

「おそらくそうなると思う・・地球がなければ存在しえない空間だからな。 そういう理解でいいだろう」

「じゃぁ、魔素の供給がなくなれば、この空間ってなくなるんじゃないですか?」

「フフフ・・テツよ。 それはそうだろう。 だが、地球がある限り魔素は存在し続けるぞ。 それに今まで魔素を使った文明も発達していなかった星だ。 魔素が溢れかえるほどあるのではないか?」

ルナJrはカラカラと笑っている。

なるほど・・とにかく地球とはつながっているようだ。

それだけでも心のり所になる。


「では、ルナさん、どこかに戻る方法があるかもしれませんね」

「うむ、あるじゃろうな。 まずはどういった世界なのか把握しなければなるまい」

ルナJrが前を向いて言う。

「そうですね。 とにかく俺もルナさんがいるからさみしくありませんよ」

ルナは少し驚いていたようだ。

「テツよ・・それはワシのことが好きだということか?」

ブホッ!

「ち、違いますよ。 世界でたった1人じゃないってことです」

「なるほどな・・」

俺は焦ってしまった。

いったいどう考えたらそうつながるんだ?


「では、ワシら2人だけの世界というわけだな」

ゴ、ゴホ、ゴホ・・。

「い、いや、あのですねルナさん。 そういうわけじゃないのです」

!!

俺たちが話していると何やら気配を感じた。

即座に警戒モードに入る。

ルナJrも真剣な顔に戻っている。

俺たちはその気配の方を見つめる。


緑の草原をユラユラと歩いてくる人が見える。

その姿がはっきりとわかると、どうやら長いローブのようなものをまとった女の人だった。

きれいな姿勢と光るようなローブ、目は深い湖のような透き通った緑色の瞳だ。

その目を大きくして俺たちの方を見る。

特に警戒はしていないようだ。

「まさか・・」

その女の人はそうつぶやくと、少し歩くのを速めて近づいてきた。


俺は女の人を見ていたが、そのつぶやきを聞いて思った。

言葉がわかる。

そりゃ言語変換の能力が付与されているのだろうが、とにかくわかる。

あ、そういえばステータス画面を見るのを忘れていた。

見れるのかな?

だが、今はそんなことはできない。


女の人が俺たちの前に来た。

「こんにちは。 あなた方は神様ですか?」

は?

いきなりの言葉に俺は戸惑ってしまった。

すぐには返答できそうにない。

ルナJrは平気だな。

俺は黙って女の子を見つめている。

「あ、あの・・私の言葉がわかりますか?」

女の人がおそるおそる聞く。

「あ、は、はい。 わかります」

俺がそう答えると、女の人はホッとしたような顔をしてニコッとする。

「よかったぁ。 あのもう一度伺いますが、あなた方は神様なのですか?」


俺はルナJrを見て違うと返答しようとすると、ルナJrが言葉を出す。

「女、もし我々が神ならどうするのだ?」

俺は唖然あぜんとした。

ルナさん、あんたねぇ。

女の人は少し焦っているようだ。

「い、いえ、どうも致しませんが、このストーンサークルは神を降臨させる聖遺物だと伝えられております。 私たち神官が交代で見回っているのですが、まさか人がいるとは思ってもみなかったものですから・・」

女の人は答える。

「そうか。 それは悪かったな。 我々は神ではない。 それよりも我々が凶悪な人間ならばどうするのだ?」

ルナJrが聞く。

「あ、その時はこれで撃ちます」

女の人はそう言うと、懐から銃を取り出していた。

・・・

この世界の女の人って、平気で銃で人を撃つのか?

既に銃を携帯しているし・・怖いな。


銀色のきれいな銃だ。

ルJrがそれに触れようとしたが、途中でやめた。

「なるほどな・・普通の銃ではないな」

「えぇ、神官銃です。 そしてこれは私専用で私しか使えません。 他の人が持つことはできません」

女の人はえっへんという感じだ。


俺は気になったので聞いてみる。

「他の人が持てないって、どういうことですか?」

「はい、他の人では作動もしなければ持ち上げることもできないはずです」

「なるほど・・痺れたり、毒に侵されたりするわけではないのですね」

俺がそう答えると、女の人が笑う。

「うふふ・・面白いことをおっしゃいますね。 そんなことにはなりません。 ただ、私以外には使用不能ということです」

俺はそれを聞いてどうなるのか試してみたくなった。

「そうですか。 もしよかったら俺に持たせてもらえますか?」


俺の言葉を聞いて女の人は不思議そうな顔をする。

「あの、私の言っていることがわからなかったのでしょうか? 私以外には無用のものだと申し上げたはずですが・・」

女の人の俺を見る目が痛すぎる。

可哀そうな子を見る目だ。

「い、いえ、わかります。 わかりますよ。 ただ、どれほどの重さになるのか知りたかったのです」

俺は慌てて言い訳をする。

「なるほど、そういうわけですか」

女の人はにっこりとして、そっと銃を手渡してくれる。

「気を付けてくださいよ。 いきなり地面にドンってなると思います」


女の人はゆっくりと銃を離していく。

パッと手を放して目を閉じた。

俺は銃を受け取ったが、それほど重くない。

むしろ飛燕の方が重い感じだ。

俺は銃を持っていろいろ眺めていた。

きれいな模様も施されている。

芸術品としての方が価値あるんじゃないのか?

そんなことを思いながら見て、女の人に返そうとした。


女の人はポカンと口を開けて見ている。

俺が目の前で手を振ってみる。

反応なし。

「あ、あの・・銃ありがとうございました」

「・・・」

女の人は反応していない。

ルナJrが近寄って行って、バシッとお尻を蹴っていた。

女の人はハッとした感じで正気に戻る。

「あ、えぇ、失礼しました。 まさか私以外に持てる方いるなんて・・やはり、神様なのではないですか?」

「女、違うと言っておろうが」

ルナJrが即答。

そして続けて言う。

「ワシらは旅をしていて、道に迷ったのだ。 突然霧に包まれて、気が付いたらここにいたのだ。 それだけだ」

ルナJrが勝手に答えていた。

「そ、そうだったのですか。 旅の方でしたか・・それは大変な思いを・・あ、でも、この場所は迷って来れるようなところではないはずですが・・」

女の人が何やらブツブツ言って考えこもうとすると、ルナJrが声をかける。

「女、ワシらはここがどこか全くわからないのだ。 いろいろと教えてくれると助かる」


女の人はルナJrの言葉に反応し、考えるのを途中でやめたようだ。

「あ、はい、わかりました。 では、私たちの神殿までご案内いたします。 ついて来てください」

女の人が俺とルナJrを案内してくれる。

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