第46話 暗黒の災厄


 賢者ノダムールはいつか訪れる異星種族からの襲撃に備えるため、様々なデイルを子孫に伝えている。


 その中のひとつに“その命をもって強者を異国から召喚する秘術”があった。


 だが王族の命を代償とするそのデイルは、当然のことながら試すこともできず、そして平和が長く続いたことで、誰もがその存在を忘れていったのである。







 ノダムールがこの世を去りおよそ200年が過ぎた頃、伝承で伝えられていた異星種族が惑星エヌを襲撃する。


 その当時を記録した書物には以下のように記載されている。





―――――空は黒く染まり、見たこともない異業の生物が大地に降り立った。奴らは知性なき野蛮な生物であり、何の躊躇もなく人々を襲った。賢者ノダムールが予言として伝えていた暗黒の災厄が、エヌに降り立ったのである。





 しかしその驚異に対抗すべく準備を重ねていたエヌの王国は、怯むことなく立ち向かっていった。


 ノダムールの遺志を継いだ子孫たち、さらにこの脅威に対抗すべく準備していたエヌの兵士たちも多くいた。そして激しい戦いが始まったのである。



 当時ノダムールの血を受け継ぐ子孫は50名ほどいたという。


 その中で戦闘に長け、ノダムールの力を子孫に残せない男性の王族が先頭に立ち、そして長い年月をかけて研鑽し受け継がれていった魔力を持つ兵士たちが、邪悪な侵略者に対抗していったのである。



 彼らの炎、雷、氷、風、土、水、光、闇、力、波、毒、音、無、空、霊など様々なデイルが敵を駆逐し、刀匠によって鍛え上げられた武器は敵を葬った。


 ノダムールが伝えたデイルや武術、武器は効果的であり、襲撃者を圧倒する。


 そして襲われた多くの村や町を開放し、多くの王族が英雄として民に称えられた。







 しかし、ある状況から戦況は一変する。



 それまでとは比較にならない、巨大で圧倒的な力を持つ魔物の群れが突如溢れたのだ。そしてその力は圧倒的であった。





 当時、エヌで最強のデイル使いと呼ばれた5人の戦士がいる。


 彼らはその力で数多くの魔物を討伐していたが、その魔物を一体倒すのに2人が犠牲になった。


 そして前線で先頭に加わったノダムールの血を継ぐ30名の王族のうち、20名が倒れこの世を去った。


 それほどまでに激しい戦いであったのである。




 しかしその惨劇は終わらない。さらにその魔物が100体以上、イスタン大陸に向かっているとの報告に王族は衝撃を受ける。


 この時点で戦える王族は15名。


 残り15名はまだ幼い王女と王子、そして国王を含めた老齢の男女たちであった。



 対するは最強の戦士を葬る魔物が100体以上、どうみても勝算はなかった。


 そして彼らは決断する。



 ノダムールが伝えた“その命をもって強者を異国から召喚する秘術”の使用を…







 賢者ノダムールが残した“召喚の儀”は、王族が自らの命と魔力をすべて犠牲にし、異国の強者を召喚すること。


 自らの命と魔力をすべてて犠牲にする、つまりそれは王族にとって死を意味することだった。


 だがどんなものが召喚されるのか、そのものが本当に強者なのか、その答えは誰にもわからない。だがノダムールを信じていたエヌの王族は、その力に頼るしかない状況となっていたのである。




 その召喚の儀を実行するにあたり、彼らはいくつかの結論を出した。まず最初に王自らが犠牲になること。そして召喚の義と召喚されたものを見極めてから、その後も召喚を続けるか検討するというものであった。





 王自らを犠牲にした召喚の儀は、見事成功した。


 王の亡骸の横で光り輝く召喚陣に現れたのは、チキュウという星でニホンに住むという青年であった。


 王族はその青年を見た瞬間、召喚の儀は成功したと確信する。


 溢れ出す魔力の量と質が、あの5戦士をもはるかに凌駕するものであったからだ。


 そして意外なことに最初から言葉を含め意思の疎通が可能だった。


 理由は定かではないが、青年には王の魔力も定着しており、それが影響したと考えられている。




 その青年にとっては右も左もわからない状況であったが、エヌを救うためともに戦うことを決意。実際にその力は目まぐるしく、王族では使えないようなデイルを難なく使いこなし、圧倒的な力で魔物を撃退し続けた。



 およそ3か月、青年の働きによって戦況はエヌ有利に傾きかけたが、ここでさらなる絶望がエヌを覆う。撃退した100体の強力な魔物をさらに上回る、より強力な魔物がエヌを襲ったのだ。



 いかにその青年が強者であっても、一人だけでは限界があった。


 ニホンから召喚された青年は、護衛の王族とともに命を落としてしまったのである。




 この状況を踏まえエヌの王族が決断したのは、小出しにせず、可能なすべての王族による召喚で強者を呼び一挙に魔物を殲滅。それがエヌを守る最適な方法であった。


 幼い王女と王子を残し、負傷して戦えない戦士を含め、25名の王族は同時に召喚の儀を行った。





 そして呼ばれた25名は、チキュウだけでなく、他の星から呼ばれたものもいた。しかし全員が戦闘に耐えるだけの精神力や能力を持っていたわけではなく、まったくデイルを使えなかったものもいた。中には状況に対応できず、絶望し、自ら命を絶ったものもいたという。



 だがチキュウから来た23名は誰もが強かった。


 ニホンから来た14名、アメリカから来た2名、チュウゴクから来た2名、フランスから来た1名、イギリスから来た1名、インドから来た1名、オーストラリアから来た1名、タイワンから来た1名。



 23人の召喚者は一丸となり、魔物を撃退していった。


 その後魔物をイスタン大陸とウエス大陸の間にある島に追いやり、最終決戦を控えた時、想定外の出来事が起きる。



 突如王都にかつてない強力な魔物が出現したのである。




 この襲撃で王都の兵士だけでなく3人の召喚者も倒され、王都は崩壊し多くの民が殺された。最後に残された二人の若き王子と王女の命も風前の灯火であった。



 そしてその2人は決断する。



「私たちは戦うことができません。しかし民を置いて逃げることもあり得ません。そしてこのままでは無駄死にです。何もせず死を迎えることになれば、ノダムール様や父と母、そして兄たちに顔向けができません。しかし召喚が成功すれば無駄死にではありません。どうか後を頼みます」



 周囲の反対を押し切り、二人の若き王子と王女は召喚の儀を行い、ニホンから二人の兄妹が呼ばれたのである。





「作戦会議」へつづく

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