第三章:エヌという星
第41話 その日、都内某所
マサノリが内閣総理大臣、副総理、官房長官と会談していた。
「で、そっちの進捗はどうかね」
「レンジャーチームはいいペースで仕上がってきている。あれならA級までは問題ないだろう。他も期待値を上回っているから朗報と言えるだろう。それよりも今日は?」
「アメリカ国防省から報告があり、その最新情報だ。かなり離れているが、今まで聞いたことがなかった信号らしきものを受信したらしい。君の話と関連があるかわからないが、念のため報告だ」
「どんな信号かデータはあるか?ここまでの距離はどれくらいか?」
「信号のデータはもらっている。あとで渡そう。距離に関してはまったくわからないようだ。初めての経験だからな」
「理解した。続報があったら教えてくれ」
「わかった。一つ聞きたいのだがいいかな?」
「地球の武器とあの4人(自衛隊レンジャーチーム)は使えそうか?」
「拳銃やライフルは効果がないわけではないが、1発2発当てたところでは効果がない。やはり一撃で倒せるくらいの武器でなければリスクが高いな」
「あの4人はよくやっている。相手を殺すという精神面の強さ、判断力と決断力はさすがだ。ただし魔法やスキルのセンスは、ゲーマーよりはるかに劣る。
あの世界の技術を使いこなすには、あの世界を自分のものにする必要があるからな。
それに、何か自分たちの技術や経験を優先しているようにも感じる」
「エリートゆえのプライドが足かせか…」
「それでもかなりの予算と人員をあのゲームの製作と維持、周囲への対応に使っているし、向こうに連れて行った16人の家族や職場、学校へのフォローもサポートしているんだから。しっかり働いてもらうぞ」
「それはもちろんだ。そういえば、以前に依頼していたものに関しては?」
「渋々だが、了承は取った。その時が来たら手順を説明しよう」
「了解だ」
≪室長、お忙しいところ申し訳ありません。E3です≫
≪≪どこのチームだ?≫≫
≪レンジャーチームが帰還率30%を切りました。場所は黒の島13ポイントです≫
≪≪わかった。あの場所なら大木さんに対応させる≫≫
≪よろしくお願いいたします≫
「残念ながら、例のレンジャーチームにトラブル発生だ。また来る」
マサノリは3人にそう告げると転移魔法で消えた。
その場に数秒の静寂が戻る。
「ふぅ~。行ったか。しかし何度会っても緊張するな」
「まさか5年前にあの男がこの場に現れて、それが現実になるとは…」
「最初は誰も信じなかったがな」
「でもあの魔法とやらで全員いきなり富士の頂上に連れていかれたり、竜に乗せられたりしたからな」
「あぁ二度とあんな体験は御免だ。あの男だけは敵にしたくない」
「アメリカはどうなんだ。こちらからアクションは必要ないのか?」
「あの男が接触しているし、余計な行動は起こさないように言われているからな。ただ、あの20名に関しては、何か察知されたかもしれないようだ」
「それはマズくないか?」
「すでに対処済みだと聞いているが、今後どうなるかわからない」
「アメリカも中国もロシアも、内情を知れば絶対に自分たちもあの世界に連れて行けと言ってくるからな」
「あそこの資源と力(能力)は日本で独占しなければならない」
「そうなれば日本の地位と力は世界で比類なきものになるはずだ」
「そのためにはあの男にもしっかり働いてもらわないとな」
「そういえば、あの学者から次にレポートが届くのはいつだ?」
惑星エヌ
この星には2の大陸と合計12の国がある。
12か国すべてが王国制度であり、それぞれの国を代々受け継いできた王が治めている。
ただし先祖を辿れば始祖は一つであり、それが東イスタン大陸にあるイスタ王国だった。
以前はこのイスタ王国がすべての大陸を治めていたが、ある出来事をきっかけに国を分割したという。
マサルほか日本から来た20人のうち、16人はイスタ王国が管理する5つのダンジョンを攻略中。すべてのダンジョンを攻略しているレンジャーチームは、東イスタン大陸と西ウエス大陸の間にある小さな島で奇妙な魔物を相手にレベルアップを続けていた。
ここは5つのダンジョンと異なり、階層があるわけでもなく魔物の力が管理されているわけでもない。
しかしこの小さな島で戦うことは、この星に来た時点で決定していたことである。
現在この島でレベルアップを図るレンジャーチームは、予想を超える強さの魔物による猛襲を受け撤退を余儀なくされていた。
「なんだあいつは。魔法が一切通用しないぞ」
「ミナトは大丈夫!?」
「致命傷ではない。ただ戦線復帰まで2分はかかる。ここは退避した方がいい」
「ちっ…くしょ…う…」
「しゃべるな!回復が遅れるぞ!」
「カノヤ!爆風で煙幕を張って、そのあとM84スタングレネードを使う!」
「了解!」
魔法使いのカノヤは、魔物ではなく地面に向けて爆裂魔法を放ち、相手の動きを制する。
「魔法耐性があるようだけど、これならどうだ!」
その間に魔法戦士のオズキが収納からM84スタングレネードを取り出し、魔物に向けて投げつけた。
M84スタングレネードは、直接肉体にダメージを与える武器ではなく、起爆後の爆発音と閃光で相手の視覚と聴覚にダメージを与える武器。
この星で使うのは3度目だが、ここまではすべて効果があった。だがこの黒き島の魔物に使うのは初めてだ。
「ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
魔物は爆裂魔法による煙幕でスタングレネードが投げられたことに気付かず、目の前でその衝撃を受けた。あまりの轟音と眩しさに一瞬怯んだが、すぐに態勢を立て直して4人を探している。やはり人間に与えるような効果は期待できなかった。
4人はすでに現場から退避を開始していたが、魔物は早くも4人を捕捉し、猛烈なスピードで追いかけてきた。
「これはマズイ!」
「どうする、戦うか?」
「ダメだ。勝つ道筋が浮かばん。それに信号は送っているんだよな!」
「あぁ一度目が3分前、その後3回送っている」
「なら、それに期待するしかない。とりあえず走れ!」
レベル120を超えたレンジャーチームをものともしない黒き島の魔物。
最初の1撃で戦士ミナトの防御を突き破って戦闘不能に陥れ、あらゆる魔法をはねのけている。
それが2体。
もはや絶望的ともいえる状態だった。
しかし彼らは命拾いをする。
「シュッ!」
空気を切り裂くような音がした瞬間、魔物の首を何かが通り過ぎたように見えた。すると魔物の動きが止まり、頭部と胴体が別々に分かれて倒れていく。
「間に合ったかな」
「大木さん!
「助かった…」
空から降りてきたのは、両手に斧を手にした狂戦士(バーサーカー)だった。
「もう一頭は、逃げないか。ならしょうがない」
そう呟くと、その男は手にした斧を魔物に向けて軽く投げつけた。
一瞬とはこのことだろう。
同様に首を切断された魔物は、叫び声を上げることもなく静かに倒れる。
「大丈夫か」
「はい。ありがとうございます。これで何度目ですかね」
「まぁ気にすることはない」
「13度目ですね」
大木と呼ばれた男の後ろで眼鏡をかけた男性が答える。
「別に村田さんには助けてもらってないですよ」
「私も大木さんと行動している身ですからね。危険な場所にあっちこっち振り回されているんですよ」
「大木さんの横なんて、この星で一番安全な場所じゃないですか」
「それよりも、あの魔物を調べたいのですが、よろしいですか?」
村田は日本政府が指定した調査官で、マサノリの仲間である大木とともに惑星エヌを調査している。
敵対する魔物や惑星エヌの文化や言語、歴史、資源などについて、ありとあらゆることを調べているが、生粋の文系で学者肌ということもあり、体育会系のレンジャーチームとは肌が合わない。
「大木さん、この魔物のランクはいかほどですか?特性は?」
「こいつはSランクとAランクの間くらいだな。前からも言っているようにこのランクは俺たちが勝手に付けているものだから、参考程度にな。同じAランクでも能力によって感じる強さも違うしな」
「ふむふむ。やはり切断されても血液の類は一切流れないですね。この魔物の弱点は?主な戦い方は…」
大木はやれやれという感じで村田からの質問に答えていく。毎度のこととはいえ、レベルがいかに高かろうが疲れるものだ。
<大木さん、そっちは大丈夫ですか?>
一通り話が済んだころ、大木にマサノリから念話が届いた。
<あいつらは大丈夫だ。ただちょっと気になるところがある>
<なんですか?>
<高ランクの魔物が増えた気がする>
<わかりました。一度スキャンしにいきますね。ハルとナツにも伝えて警戒させておきます。引き続き調査をお願いしますね>
<了解だ>
マサノリたちとともにこの星で戦った大木は、バーサーカーとして圧倒的な戦闘力を持っており、この惑星エヌでは最強と言ってもいい存在だ。
お気に入りの武器でもある斧は念じるだけで無限に発生し、凄まじい破壊力とスピードで相手をなぎ倒す。
今は日本から派遣された調査官村田とともに惑星エヌを回っているところで、すでに東イスタン大陸のイスタ王国、ウカ王国、ガース王国、イアン王国、ラゴン王国、ワロー王国、そして西ウエス大陸のイタ王国、グルス王国、ライ王国、クホ王国、リンズ王国、リックス王国を回り、最後の目的地である小さな島「黒き島」にて最後の調査を行っている。
4年に渡って行ってきたこの旅も終わりが近づいている。
しかしその旅の終わりは、新たな戦いの始まりを意味するものであった。
「邂逅」へつづく
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