第36話 狼の谷ダンジョン
地球から惑星エヌにやってきた5つのチーム、その5番目であるサトル・エリ・ワカナ・マッキーの4人。
リーダーであるサトルは、ソーマジック・サーガのプレイヤーの中でもっとも優秀な魔法剣士であり、マサノリの評価も群を抜いていた。
彼は20番目にゲームをクリアして最後に惑星エヌに来たわけだが、このクリア順はバランスを取るために操作されたものであり、本来は文句なしのトップ通過だったのである。
今彼らは「鳥の森」に次ぐ目的地である「狼の谷ダンジョン」を攻略中で、すでに24階層で戦闘を重ねている。
実際はこのダンジョンで4階層目だが、ボン達によれば、ダンジョンの階層を鳥の森から引き継いで計算しているため、24階層と呼んでいる。
このダンジョンの特徴は、とにかく無数の狼が群れで襲い掛かってくること。
しかも階層を重ねるごとに相手の強さと数が上がっていき、先ほども20頭の狼を相手にしていた。
「ねぇミーナ。このダンジョンはずっとこんな感じなの?」
魔法使いのエリはうんざりした表情で、自身のサポートを任された召喚獣のミーナに話しかける。本来召喚獣は各プレイヤーの魔力内に潜んでいるが、このダンジョンでは4体とも最初から戦闘に参加している。
“このダンジョンは全部で10階層と最初のダンジョンの半分しかありませんが、とにかく群れへの対処が重要で、それを学ぶところでもありますワ。
そして、最後の階層では同時に1000体ほどの狼を相手にすることになりますワ”
このダンジョンに入って22階層目を通過した時点で、サトルはダンジョンの制作者の意図を感じ取っている。
「相手は一頭一頭はそれほど強くない。個々を倒す強さを身に付けるよりも、多くの敵と同時に戦うこと、そしてそれへの対処を身に付けさせようとしているんだろう」
サトルの冷静な分析に他の3人も納得する。
「ボン、この24階層に、何か隠しアイテムの目印になるようなものがあるかわかるか?」
サトルはこの階層に入った当初から何かを探している。
「さっきからキョロキョロしているが、何か探し物か?」
「確証はないんだが、あるとしたらこの階層なんだよな」
「何を探しているんですか?」
普段口数の少ないワカナも気になっているようだ。
「ソーマジック・サーガで、レベルが23になった時に発生する隠しアイテムを覚えているか?」
「ダンジョンに入る前にサトルさんが話していた件ですよね。でも23階層をクリアした時に出てきませんでした」
「あぁ、最初は23階層をクリアしてレベルが23になった時に、すぐに出てくるかとも思ったが、何もイベントがなかった。もしあるとすれば、この24階層だろうと思う」
「どんなアイテムなんだろうな。武器もいいけど、超絶にうまい酒とかの方が嬉しいかもな」
「何かヒントになるものでもないかしら」
4人がこのダンジョンに入ってまだ2日目だが、サトルはあと3日ほどで30階層をクリアできると計算している。
それはマサノリ達の分析を大きく上回るスピードであり、他のチームを圧倒する攻略速度だ。
それを成し遂げたのはリーダーであるサトルの知識と経験。
それだけに、サトルが探す隠しアイテムがどこかにあることも、誰も疑っていない。
(ゲームのアイテムは獅子の衣だった。同じではないにしろ、獅子に関連しているかもしれないな…)
そうサトルがぼんやり考えていると、前方に立ちはだかる大きな岩の根元に小さな石像を発見した。
「これだな。この獅子の像が隠しアイテムだな」
「何それ。ただの石像じゃない?何に使えるの?」
「なんだ食い物じゃないのかよ…」
エリとマッキーは不満の様子だ。
「何が出るかは、これからだ。石像はあくまでも見た目であり、隠しアイテムはあれに触れると出てくるはず」
「大丈夫?トラップとかありませんか?」
「う~ん。まぁ大丈夫だろう。俺が触ってみるから、念のため離れてくれ」
そう伝えると、サトルは石像に向かって歩き出す。そして意を決してその石像に触れてみた。
するとその石像が輝きだし、音もなく消えていく。
石像があった場所に残されていたのは、炊飯器だった。
「なんだこれ、まさか、炊飯器か?」
「「「えっ!」」」
「炊飯器?そんなものがあるの?」
「マジか、でもコメはあるのか?」
「王城やレストランで米はありましたが、町で米自体は売っていませんでした」
「ちょっと待った。ボタンがあるけど、魔力も感じる。もしかしたら、これは無限に米が炊けるんじゃないか?」
「えっどういうこと?」
「まぁ、ものは試しだ。ちょっと押してみるよ」
サトルは半信半疑ながら炊飯器の中央にあるボタンを押してみた。
すると驚いたことに
「おいおい、残り30分と表示されたぞ!」
と炊飯器に米が炊きあがるまでの時間が表示されたのである。
「マジか!」
「本当?」
「…!」
3人は三者三様の反応を見せた。
(これはとんでもないアイテムだぞ…)
そして30分後、チーンという音とともに米が炊きあがった。
炊飯器をあけると、日本ではお馴染みのあの匂いが4人を包み込んでいく。
その匂いにつられた4人の目は、まるで獲物を見つけた獣のようであった。
「「「「いただきます!」」」」
その日の夕食は、4人にとって忘れられないものとなったのである。
「最強の戦士ケン」へつづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます