第79話 突破口は
氷の中からオーグルとトロールが出てきた。
前に見た時は氷と一緒にトロールが粉々になったはずなんだが。
凍った皮膚が爛れたようになっているが、それもあっという間にもとに戻っていく。
……あの魔法を食らって全く効果なしなのか。
氷を欠片を撒き散らしながらトロールが踏み出してきた。
「オーグルが……あんな回復はありえません」
ラファエラが呟く。
たしかにあれじゃバフォメットの回復力よりも高いぞ。
「なんなんだテメェらはよ!」
踏み込んだ来たオーグルをノルベルトの
血しぶきを撒き散らして胴体を両断されたオーグルの上半身が、お構いなしとばかりに棍棒を振り下ろしてきた。
ノルベルトが慌てて飛び退く。
棍棒が地面にぶち当たって地響きが上がる。土塊が吹きあがった
真っ二つになった胴体を血がまたスライムのようにつなぐ。回復能力があるとかそんなレベルじゃないぞ。
「どうなってんだ、こいつは」
「みんな、下がれ!風司の41番【四方より吹く風は古の回廊のごとく高く硬し。進みたくば正しき道のみを辿れ】」
音を立てて風の壁が立ち上がる。
密度を増した風の壁だ。そう簡単には超えられない。
壁にぶつかったオーグルたちが一歩下がって苛立たし気に足を踏み鳴らした。
ノルベルトが小さく安堵の息をつく。
ただこれも気休めだ。
こういう防御はあくまで攻撃で倒せることが前提の時間稼ぎだ。倒せないんじゃ話にならない。
「კარი გააღე」
後ろにいる奴が叫ぶと、
数に任せて押し込まれると風じゃ止められない。
『そちらはどうなっている』
不意に護符から声が聞こえた
「オーグルの群れと交戦中です。切っても倒せない」
『こっちもだ。オーグル共と戦っているが、切っても魔法をかけても倒せん。どうなっている』
〈こちらもです!〉
アリオスの声も聞こえる。
この状況じゃ援護は期待できないな。俺達で何とかするしかない。
トロールとオーグルの壁の向こうでは、魔族が悠然と立っている。
あれを倒せば状況も変わりそうなんだが。
「奥のに直接魔法で攻撃できるか?」
「不可能ではないが……」
テレーザが呟いてラファエラの方を見た。
「ラファエラ……感じないか?」
テレーザの問いかけにラファエラが頷いた。
俺には分からんが魔法使い二人には何か感じるものがあるんだろうか。
「ええ、何らかの援護魔法がかかっていることは明らかのようですね……これほど強力なものは見たことが有りませんが」
二人が顔を見合わせる。
「あの奥の奴の援護魔法を我々で解除する。その隙になんとかしてくれ」
「余計なことはしなくていいです。あなたは攻撃の準備を。私一人で十分……」
ラファエラがとげとげしい口調で言うが。
今は手柄がどうだのと言っている余裕はない。
「確実にやってくれ。俺達もそうは持たない。やるなら早く頼む」
「【書架は北東・理性の五列・参拾弐頁八節。私は口述する】」
テレーザが詠唱を初めて、遅れてラファエラが続く。
「時間を稼ぐぞ」
「おうよ!」
「了解です」
風の壁を押しのけて突っ込んできたトロールの足を
地響きを立てて巨体がバランスを崩すが、切れた足がすぐにつながる。
ノルベルトが舌打ちした。
「食らえ!風司の53番【風は姿なき者と侮る勿れ、集えば破城槌のごとく、高き城壁も砕く】」
刀の切っ先に風の塊が生まれる。刀を振りぬいた。
踏み出してきたトロールのカバを思わせる顔に風の塊が直激する。
何かが砕ける嫌な音がしてトロールがよろめいて後ろに倒れ込む。
長い腕と巨体に巻き込まれるように後ろを巻き込んで何体かが転んだ。
トロールたちが立ち上がる。
立ち上がったトロールのひしゃげた顔がみるみる元に戻るが……時間稼ぎならこれで十分。
「【此処は幽世五階層、忌々しきは鎖枷。法の司の名において、勿き物とせよ縛めを】」
「【風が巻き波濤は港に打ち寄せる。
二人の詠唱がほぼ同時に終わる。
光が一瞬走って、何かが砕けるような音がした。
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