第77話 未知の敵
影が地響きを立てて近づいてきた。
オーグルか、トロールか。どっちかは分からないが。四方から音が聞こえる。
「囲まれてる?」
「そんな馬鹿な!」
ノルベルトの警戒と俺の風の探査を、あのデカいオーグルとトロールがかいくぐるなんて考えられない。
が、今ようやく風に反応した。突然湧き出してきたかのように。
何故とか考えるより早く、一体が地響きを立てて突撃してきた。
オーグルだ。
ゴブリンをそのまま大型化したような青黒い肌に武骨な筋肉の巨大。岩を削り出したような恐ろし気な顔の口からは乱杭歯がのぞいていて、短めの角が生えている。
手には木の棍棒を握ってた。奇声をあげて木をなぎ倒しつつこっちに向かってくる。
「雑魚が!ひっこめや!」
ノルベルトが大きく踏み込んで迎え撃つ。
軌道上の木を叩き切って、
胸のあたりで着られたオーグルが前のめりに倒れた。
あの長物は森の中じゃ邪魔じゃないかと思ったが……凄い威力だな。
「囲まれたらやべぇぞ」
ノルベルトが周りを見ながら言う。少なくともオーグルが4体、トロールが2体、足音を立てて迫ってきているのがわかった。
なぜ囲まれたかはあと回しでいい。今は周りを片付ける。
「私が足止めします【此処は幽世10階層、森に茂るは黒茨。恐れを知らず分け入れば、待ち構えるは毒の棘】」
ラファエラが歌うように詠唱して杖で地面を突いた。
しゃりんと小さく鈴のような音が鳴る。
周りから迫ってきたオーグルやトロールの黒い茨の様なものが絡みついた。
耳障りな悲鳴を上げて、オーグルたちが足を止める。
「風司の19番【西の果ての地平に沈みゆく日に照らされし森に七葉よ舞い散れ。其の葉を彩るは血の如き赤】」
詠唱が終わると同時に、俺達の周りを囲むように風が渦を巻く。
渦から風の刃が次々と飛んでオーグルたちを切り裂いた。
オーグルがバタバタと倒れていく。
トロールまでは殺しきれなかったが、ノルベルトの
素早く飛び出したフルーレの剣が前に歪に突き出した首を切り落とす。
いつの間にこんな距離まで飛び込まれたのか……と言おうとしたところで。
空間に稲妻のようなものが走って黒い幕のようなものが現れる。その黒い幕の向こうからオーグルとトロールが現れた。
……
◆
「なるほど……こりゃあ気付かねぇわけだぜ」
ノルベルトがあきれたように言う。
魔獣は
ただ、魔獣と遭遇するのは珍しくないが
遠くの方から爆発の音と気が倒れるような鈍い音が聞こえてきた。
他も接敵したか。
「聞こえますか?」
『聞こえるぞ』
護符に呼びかけると、わずかな間があって団長の声が聞こえた。
「こっちはトロールとオーグルの群れに遭遇しました」
『こちらも交戦中だ。片付け次第合流する。終わったら連絡しろ、そっちが片付いて合流できそうなこっちに来い』
そう言って声が途切れた。
同時に森の向こうで白い岩山のようなものが不意に立ち上がる。
アグアリオ団長の氷か、あれは。
数は多いが……オーグルやトロールなら、この師団なら何とでもなるだろう。
前みたいにテレーザと二人なら兎も角、このメンバーならトロールもさほど苦にはならない
オーグルとトロールが壁のようににじり寄ってくる。
「とりあえず魔法使い組は魔力を温存しろや、何が起きるか分からねぇからな」
「我々が相手します」
フルーレが剣を構えてノルベルトに並ぶ。
戦う前までの頼りなげな感じは別人のように無くなっていた。
「俺もやるぜ」
「おいおい、練成術師が大丈夫なのかよ」
刀を抜いて前に出る。
ノルベルトが聞いてくるが。
「オーグルくらいならまあ何とかなるさ」
いざという時には前衛の真似事くらいはできる。勿論本職には全然及ばないが。
オーグルが地響きを立てて一歩踏み出してきた。ノルベルト達が武器を構える。
空気が張り詰めたその時。
「დამონების ჯაჭვი」
意味は分からないが、聞き覚えがある響きがオーグルたちの群れの奥から聞こえた。
◆
「なんだぁ、今のは」
ノルベルトが首を傾げるが。振り返るとテレーザの表情がこわばっていた。
今のはバフォメットやヴェパルが使った魔法の詠唱に響きが似ている。
「注意しろ……魔族がいるぞ」
少なくともトロールよりは格上、バフォメットやヴェパルのような、独自の魔法を使う魔族がいる。
そう言うとノルベルトとフルーレの顔が引き締まった。
ただ、何か起きた感じはしない。
バフォメットの炎やヴェパルの霧の様な動きは無い。
何が起きたかは分からない……が、使った奴が誰なのかはわかった。
トロールとオーグルの壁の向こうに、明らかに初めて見る奴が姿を現した。
背丈はオーグルたちより少し高い4メートル近い巨体。
青っぽい肌の筋肉が盛り上がった人型の体はオーグルっぽいが、頭に当たる部分に剣闘士の被るような黒い四角形の武骨な兜をつけている。
目に当たる部分に鉄格子の隙間のような縦の空間が開いてはいるが、その向こうは暗闇しか見えなかった。
巨大な四角いウォーハンマーが右手に握られている。左手には鎖の束のようなものを巻いていた。
……こいつが親玉ってことか。
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