第75話 結団式での出会い・下

「よう、お前がライエルか?」


 ルーヴェン副団長に入れ替わって声を掛けてきたのは一際体が大きい男だった。

 日焼けした顔に人懐っこい笑みを浮かべて手を差し出してくる。


「ノルベルドだ。ノルベルド・ルシオル」

「ライエルだ。よろしく頼む」

「俺は冒険者だ。お互い仲良くやろうぜ」

 

 低くて迫力があるが、気さくな口調だ。

 冒険者か。なんとなくそれは分かった。

 隊服は揃いだが、やはりそれぞれに身にまとっている雰囲気が違う。まあ俺も同じように思われてるんだろうが。


 年は俺より少し上っぽい。

 日焼けをした顔、がっちりした顎には白髪交じりの無精ひげが映えていて、黒髪も雑に後ろで束ねただけだ。

 目つきは鋭いが全体的な雰囲気は柔らかい、というか良いベテラン剣士って感じだな。

 

 分厚い体は一見太っているようにも見えるが、そうじゃない。筋肉の塊で、まさに前衛って感じの鍛えあげた感じの男だ

 そして、同年代の冒険者がいるのは正直言ってありがたいな


「俺のランクはA1、見ての通り前衛職だ。ライエル、あんたは?」

「俺もだ」


「このご時世に練成術師でA1まで来れるのは大したもんだな。ところで、あんた二人で中位魔族と戦ったらしいじゃないか、どうだった?」

「できれば二度とやりたくないね」


 正直言うとこれが本音だ。

 同じように対峙してまた勝てるかはかなり怪しいと思う。ほんのわずかな判断ミスで殺されていた可能性は十分にある。


「まあ安心しろや。次は俺達がいるからよぉ。俺は突撃役なんでな、ガードはしっかり頼むぜ」


 ノルベルトが不敵な感じで笑う。

 確かに、今度が二人きりで戦う必要はない。そこについては少し気楽だな。


「ところで、アンタも騎士なのか?」

「いや、違うぜ。堅苦しいのは嫌だからな」


 ノルベルドから意外な返事が返ってきた。


「……宮廷魔導士団になるために俺は騎士にさせられたんだが」

「そうなのか?俺は団長殿の直属扱いだが、騎士とかそんな話は聞いてないぜ」


 テレーザを見ると、テレーザが素知らぬ風にさっと顔をそらした。

 これがアリなら、俺のあの苦労はいったい何だったんだ


「なにか話が違わないか?」

「まあなんだ………落ち着いて考えてみろ、ライエル。騎士になったからこそあの屋敷が与えられオードリーとメイが一緒に暮らせるようになったのだろう。悪い事ばかりではない」

 

 テレーザがしれっとした口調で答える。

 

「まあ……いいが」


 まあ終わったことではあるんだが。

 ノルベルドがニヤニヤ笑いで俺達を見ているのが微妙だ。


「そういえば、あんたはなんでこの師団に?」

「ああ、俺の目的は金だ。まああのおっかない団長殿に借りがあるってもあるんだが」

「……正直言ってあいつと金目当てで戦いたくはないぞ」


 冒険者は金のために戦う。それは間違いない。

 が、程度というものもある。A1まで来ていれば、魔族の恐ろしさがわかってないってことも無いと思うんだが。

 ノルベルドが少し考え込んだ。

 

「うまく言えねぇんだが……正確に言えば金自体じゃねーんだよな。積みあがった金貨は俺への評価だろ?より高く積み上げるのがロマンってもんよ」


 金を稼ぎたいっていうより、金が示す評価それ自体に拘る感じなんだろう。

 確かに気持ちは分からなくもない。


「まあよろしく頼むぜ、ライエル。それにテレーザお嬢さん」

「私の事は魔術導師ウォーロックと呼んでもらいたい」


 テレーザが返してノルベルドが厳つい顔に楽し気な笑みを浮かべた。


「失礼、魔術導師ウォーロック殿。ライエルもいいんだが、俺も少しは頼りにしてくれよ」


 そう言ってノルベルドが歩き去っていった。



 一通り食事も終わった。

 何人かとは話もできたが、当たり障りのない話しかできなかった。今日は本当に顔合わせだけだな。

 

「帰るか?」

「そうだな。もういいだろう」


 テレーザがデザートのレモンケーキを食べながら言う。

 順次解散ってことでいいらしく、いつの間にか人数が減っている。

 アグアリオ団長やジョシュア宰相の姿も見えない。


 外で辻馬車でも拾うか、路面汽車トラムで帰ればいいか。

 そんなことを思いつつワインを一口飲んだところで。

 

「お待ちください。少しお話いいですか」


 後ろから声が掛かる。

 振り向いたところに立っていたのは女の子だった。


 水で濡れたように光る黒髪に同じような黒髪が白い肌とコントラストを描いている。

 この辺ではあまり見かけないく黒髪に鼻筋と切れ長の目に少し面長の細い顎。なんとなく顔立ちが異国風だ。

 髪飾りも独特で見たことがないデザインだな。


 あまりアルフェリズでは見ない顔立ちで年齢が分かりにくいが……なんとなくテレーザよりは年上のように見える。

 華奢な体を見る限り、この子も魔法使い系だろう。 

 

「ラファエラ・ポルターレ・テディアです。お見知りおきください」


 そう言って礼儀正しい感じで頭を下げてくる。


「それで、なんだい?」

「中位魔族、ヴェパルとの戦いについてお聞かせ願いたい」


 生真面目だが壁を感じる硬い口調だ。

 なんとなく会ったころのテレーザに似たものを感じさせる。


 とりあえず戦いのことを説明したが……細かい所まで根掘り葉掘り聞かれた。

 俺の交戦記録は団長に伝えてあるし、その内容は全員に伝わっているはずなんだが。 

 かなり細かい性格らしいな。


「ありがとうございます」


 話が終わったころには部屋には殆ど人が残っていなかった。

 

「私は火力では劣りますが、支援魔術ならこの師団で最も優れていると自負しています」

 

 そう言って値踏みをするようにラファエラが俺を見る。


「私はこの師団では身分は低い方ですが、私のこともしっかり守っていただきたい。貴方の仕事は師団を守る事であって個人を守る事ではない」


 そう言ってラファエラがテレーザの方を一瞥した。


「さっきの団長殿の話を聞いてただろ。そんなことはしないさ」

「なら結構です。では宜しく」


 そう言ってラファエラがさっさと歩き去っていった。

 なかなかに気が強そうな感じだな。

 

「知ってるか?」

「先代が功績をあげた支援魔導士ソーサリーの家系の貴族だが……家格は高くないはずだ。アレクト―ル学園の二つほど前で優秀な成績を修めていたと思う」

 

 テレーザが答えてくれる。

 期待を背負う二代目って感じか。彼女にとってはのし上がるチャンスってことなんだろう。

 しかしいろんなメンバーがいるな。

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