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校庭の桜はまだ蕾だ。
「聖也、本当に家に来る?」
「行くよ。学ちゃんが合格発表後にしろってアドバイスしてくれたけど。俺、中途半端なことしたくないから。和のご両親にちゃんとご挨拶をして、交際をスタートさせたいんだ」
「お父さんが聖也に酷いことを言うかもしれない」
「大丈夫、クリスマスイブについた嘘もちゃんと謝る。和と交際できるなら、叱られてもいい」
「ありがとう……」
「和、卒業証書の裏にメッセージ書き合わない?」
「いいよ」
俺達は桜の木の下でメッセージを書き合った。同時に卒業証書を返して、そのメッセージを読む。
思わず顔を見合わせて、笑みが漏れた。
二人とも同じメッセージを書いていたからだ。
――【ずっと一緒にいたい。聖也】
――【ずっと一緒にいたい。和】
俺達は再び手を繋いで、正門を出る。
俺達は『友達』を卒業して、今日から交際をスタートする。
◇
―田園調布・和の自宅―
「やばい、ドキドキしてきた。全速力で走ったあとみたいだ」
「大丈夫? 今日はやめとく?」
「いや、ご両親にちゃんとご挨拶するよ。ご両親が家にいるなんて、こんなチャンスはないからね」
気合いを入れるものの、腰は完全に引けている。
「あっ、お兄さん」
……っ、でた。
豆親父、学一だ。
こいつがいると、余計話がややこしくなる。
「学ちゃん、もう学校から帰ったのか。お帰り」
「お母さんが今日はお姉ちゃんの卒業祝いするって言ったから、走って帰ってきたんだ」
「そ、そうか。学ちゃんも走れるんだ。ロボットみたいに歩くだけだと思ってた」
「お兄さん、僕のことバカにしてますか? 僕は文武両道、お姉ちゃんと違って徒競走も一番です。何事も一番より下では意味がないですからね」
「なるほど、でも一番より下の人がいるから、一番が成り立つんだよ。みんなが一番だとつまらないだろう」
俺は小学生相手に何を力説している。
力説する相手は、学一ではない。
和のご両親だ。
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