【20】地味子を奪い返します

聖也side

82

 友達と教室で騒いでいたら、正和が肘でツンツンと脇腹を突く。視線を上げると、和だった。


 和はいつもと変わらず、凛としている。

 黙って自分の机に向かうと、着席して鞄から問題集を取り出した。


 第二次試験も終わったのに、まだ勉強するのか?


 先日俺にデートを目撃されたのに、平然と勉強できるなんて、俺に何かいうことはないのか。


 クラスメイトは誰も和が登校したことに気付かない。それでも一人でカリカリとシャーペンを走らせている和。


 あともう少しで卒業なのに、友達もいないなんて、それでいいのかよ。


 俺はスクッと席を立つ。

 和のところに行きたいのに、俺は『林さん、さようなら』って、自分から別れを告げた。


「聖也、林から『誰も近寄るな』ってオーラが出てるだろ。これ以上付きまとうとストーカー扱いされるぞ」


「ストーカー?」


「そうだよ。林には超イケメンの彼氏がいるんだから」


「……っ」


 躊躇していると、教室の入口で俺を呼ぶ声がした。


「光月君、おはよう」


 振り返ると、そこにいたのは北条だった。


「ヒュウヒュウ、高嶺の花の登場だ。聖也も隅におけねーな。美波ちゃん、おはよう」


 正和は教室を出て、川口と手を繋いだ。


「ていうか、朝から学校でイチャイチャするなんて、よくやるよ。あっ日香里ちゃん、おはよ」


 恭介、お前もか。

 猫みたいに、じゃれついてんじゃねーよ。


 和は俺達を無視して、勉強をしている。

 全然興味はなさそうだ。


 和を困らせたくない。

 俺は学園の王子だ、ストーカーにはならない。和が嫌がるなら近付かない。


「北条、おはよう」


 俺は和に背を向けて、北条に歩み寄る。


「この間は楽しかったね。ねぇ、今日午前中で学校終わるし、家に遊びに来ない? 美波や日香里も来るのよ。元木君や平本君も一緒にどうぞ」


「正和や恭介も? あいつら、上品にはできないから、やめたほうがいいよ。北条家を出禁になるから」


「クスッ、そうかも。賑やかで楽しいけど、両親は驚くかも」


 俺はチラッと和に視線を向けた。

 和は黙々と勉強をしている。


 そんなに、俺に興味がないのか。

 わかったよ、和。和がその気なら俺は潔く諦める。


「遊びに行くよ」


「本当? 嬉しい」


 これで……本当に俺達は終わりだ。

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