70

 ◇


 帰宅した俺は、制服のポケットから携帯電話を取り出す。


 和にメールしたい。

 和の誤解を解きたい。


 でもまだ和の受験は終わっていない。


「あーー!!」


 頭からベッドにダイブして、枕に顔を埋めた。和への想いに心は波のように荒れ狂い、枕で溺死しそうだ。


 和が北条に送ったメールは、本心なのか。


 和がいながら、北条の家に行き両親に気にいられてしまうなんて、俺は何やってんだよ。


 待てよ、この時期に和から率先して北条にメールを送るはずはない。あのメールは北条のメールに対する返信だ。


 だとしたら、北条は和にどんな内容のメールを送ったんだろう。


 ま、ま、まさか……。


 俺が北条の家に、のこのこついて行ったことをバラしたのか?


 北条のお父さんに『彼なら、麻夕を任せられる。ただし、結婚となるとそれなりの経済力をつけてからの話しだけどな』って言われたことを送ったのか?


 ああ、万事休すだ。


 『彼氏』から『友達』に格下げされてもしかたがないな。いや、すでに『圏外』かも。


 言い訳や屁理屈を並べても、和には通用しないよ。


 これは素直に謝って、また『友達』からリベンジするしかないかも。


 俺は携帯電話を握り締め、和へのメールを打つ。


【和ごめん。俺、言い訳しない。また友達からやり直すよ。】


 男なら潔さで勝負だ。

 すごろくのコマが、振り出しに戻っただけ。何度でも、やり直せばいい。


 送信ボタンに親指をのせるが、押すことができない。


「押せないよ……。友達に戻りたくなーーい!」


 携帯電話を持ったまま、ベッドに大の字になった弾みに、ピッと送信ボタンを押してしまった……。


「ああーー? ああーー!!」


 な、な、なんでこうなるんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る