【15】地味子の集中力を高めるために暫く距離をあけます

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「北条さん、新年あけましておめでとうございます。素敵な振袖ですね」


「林さん、ありがとう。新年あけましておめでとうございます。じゃあ、私、母がカフェで待ってるから。光月君、今日は楽しかったわ。さようなら」


 北条はヒラヒラと手を振りながら、カフェに戻って行った。和は北条を見送ると、そのままクルリと背を向けて再び改札口に向かった。


「和、待てよ。どうしてここへ……」


「塾が終わって帰る準備をしていたら、学ちゃんからメールがきて、『渋谷駅のカフェにお兄さんがいたから、行ってみれば』って教えてくれたんだ」


 学一め、余計なことを。

 俺への嫌がらせか?それともシスコンか?

 俺と和との仲をそんなに引き裂きたいのか?


 もしかして……両親の差し金!?


「わ、わ、わっ、和。これは誤解なんだ。うさぴょんで正和達と新年会をしたんだ。そしたら、あいつら彼女を呼んでて、偶然、ほんとに偶然、北条と逢ったんだよ。そしたら、草履の鼻緒がプチッと切れて、北条のお母さんが来るまでカフェで時間潰してたら、和のご両親と学ちゃんがそこに……」


「お父さんとお母さんにも逢ったの?」


 和がやっと振り向いてくれた。


「逢ったけど、北条のことを誤解されたみたいなんだ」


「誤解?」


 その時、ふと父親の言葉が頭を過ぎった。


 ――『彼女がいながらよくもうちの娘を……。和をこれ以上惑わせないで欲しい。和は今が一番大事な時なんだよ。心を乱さないで欲しい』


 和は今が一番大事な時なんだ。

 俺、まだこんなことばっかりやってる。


 いい加減、大人の男になれよ。


「……いや、別になんでもない。新年のご挨拶をしただけだよ。和、共通試験もうすぐだね。俺、二次試験が終わるまで和とは学校以外で逢わない。だから、俺のことは忘れて受験に集中して欲しい」


「聖也を忘れる?」


「うん、受験の間だけ忘れていいから。俺はその間、ちょっと寂しいけど我慢する」


「わかった。聖也がそう言ってくれるなら。受験に集中する」


「おう」


 余裕を見せ笑顔で応えた。

 でも心の中は、自分で言ったくせに『受験に集中する』と言われて項垂れている。

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