46

 和からキスのプレゼントがもらえたら、もう死んでもいい。


 俺は唇を近づけて瞼を閉じた。


 ジッと……和のキスを待つ。

 ひたすらジッ……として……動かない。


 ていうか、もうかなり待ってるんだけど。


 しばらく待っても、唇に柔らかな感触はない。俺は待ち切れなくて、瞼を開ける。


 和は机に座って、カリカリとシャーペンを走らせていた。


 俺は一人でバカみたいに突っ立っている。


「はっ……な……に?」


「塾の宿題もあるし、勉強しないと。受験生にはクリスマスイブもお正月もないのよ」


「……わかったよ。和、俺もう帰るから。プレゼントは帰ってから開けて」


 目の前でプレゼントを開けられたら、ちょっと照れ臭いし、どちらかと言えば和には全く興味がない品物。「いらない」と言われたらショックだから。


「うん。おやすみなさい」


 一心不乱に勉強している和に背後から近付き、和の頬にチュッとキスをする。


 シャーペンを持つ手が止まり、ポッと頬を赤らめた和。まるで静止画みたいに、固まっている。


 すごく……可愛い。


 この可愛いリアクションが見れただけで十分だ。それ以上望んではいけない。


 なぜなら、俺達はまだ『友達』だから。


「なあ、和。明日のクリスマスに逢えないかな? 少しでいいんだ」


「……あ、あ、明日は……」


 頬にキスをしたせいか、和はしどろもどろだ。


「わかってる。明日も学校の模擬テストと塾だよな」


「……ごめんなさい」


「和、そろそろお友達も帰らないと、ご両親が心配されるだろ」


 階下から、和の父親の声がした。

 若干、声のトーンは低い。


 ヤ、ヤバい。

 信用を失ってしまっては、二度と遊びに来れなくなる。


「……い、今帰ります。今日はご馳走様でした。お邪魔しました」


 和の家族に玄関まで見送ってもらい、俺は退散する。


 確かにこの厳格な家庭で、和と甘いクリスマスイブを過ごそうと思った俺がバカだった。


 リベンジ出来るわけがない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る