16話  駄犬にカメラを与えると

「ユーフィア、かわいい。これも、いい。」


 クストさんにカメラを渡し、説明をしてからずっと、写真を撮り続けています。私の周りをぐるぐる回っても、同じ物しか撮れませんよ。

 クストさんにカメラを渡したのは失敗だったかもしれません。

 撮っては印刷し、撮っては印刷し・・・いつまで続けるのですか。


「ユーフィア。これいいな。写真機と印刷機だったか?これで、部屋中をユーフィアの「『全て燃えろ』」ギャー。ユーフィアの写真が!ユーフィアが燃えた!」


「私は燃えていません。写真を全部燃やしただけです。」


 クストさんは灰になった写真を集めグズグズ泣き始めました。



「団長。何があったか知りませんが、これにサインお願いします。」


 ルジオーネさんがクストさんを訪ねてきました。いつものサインが必要な書類を持って来たようです。


「ユーフィアが、ユーフィアが・・・。」


「ユーフィアさんなら、そこにいるじゃないですか」


「旦那様のことは放置して大丈夫です。」


 セーラが魔紙を持ってきました。クストさんが次々に私が使用する魔紙をカメラの写真印刷用に使ってしまったのです。


「ユーフィア様の写真を部屋中に貼るという気色の悪いことをおっしゃっていましたので、ユーフィア様に燃やされたのです。」


「シャシン?ですか?」


「ジャジャーン。」


 セーラは自分で効果音を出しながら、一番最初の試し録りでマリアとセーラを撮った写真をルジオーネさんに見せました。


「こ、これは何ですか!絵ですか?それにしては綺麗過ぎる。」


「これはユーフィア様が作った写真機で撮った物で見たままを写し取ってくれるのです。それを印刷機と言うもので魔紙に出すとこうなるのです。」


「成る程凄いですね。それでユーフィア様のこのような物を部屋中に貼ろうとしたのですか。変態ですね。」


「ぐすん。どこを見てもユーフィアだといいじゃないか。」


「駄犬、気色が悪い。」


「このような変態が一族から出るなんて」


「旦那様。ユーフィア様に近づかないでください。」


 いつの間にかお茶の用意をして、戻ってきたマリアの一言でクストさんは床に沈んでいきました。




 結婚式の準備は着々と進んでいます。ドレスは出来上がり、装飾品も用意できました。そして、装飾品の中でも注文をしていたものが届いたのです。

 それが、簪。炎国の職人さんに頼みまして、桜の図柄に合った白みの強い桜の簪を作ってもらったのです。それが、やっと今日届いたのです。薄い金属で形作られた5輪の花が連なり、揺れればシャラン、シャラン、と音を奏でます。とても美しい簪です。


 これに少し細工をします。元々用意して魔紙に描いていた術式を転移の要領で、簪の柄に焼き写します。そうすると簪の柄にみっちりと術式が刻みこまれ、魔道具となるのです。そして、花びらの金属に魔石の粉を振りかけ魔力を通し定着をさせます。

 すると、花びらが淡く煌めきながら光ではありませんか。

 私の金の髪に白い小さな花が集まった髪飾りだと、どうしてもボンヤリとなってしまいますので、光を反射し光る感じの細工をしてみました。

 そんなの宝石で作ればいいじゃないかと思うかも知れませんが、あの金属が奏でる鈴の音のような音色も欲しかったのです。私のわがままですね。


 出来上がった物をマリアに見せて、髪を結って試しに付けてもらいます。


「ユーフィア様とても美しいです。このように宝石ではなくても煌めくなんて、それにこの美しい音色は金属とは思えません。ユーフィア様が炎国で作って欲しいとおっしゃった意味がわかりました。」


「思っていたよりいい感じの仕上がりになっていて、とても嬉しかったです。」


 マリアに簪をはずして片付けてもらおうと声を掛けようとしたとき、部屋の扉がぶっ飛び窓の外へ突き破って行った。


「兄上の番ってヤツはどこのどいつだ!」


 の叫び声と共に、一人の少年が入ってきました。青い髪と目付きの悪さからクストさんの弟かと推測しますがどうでしょう。


「イース様。何度も扉は蹴り飛ばすものではなく、手で開けるものだと言っておりますよね。そのお馬鹿な頭には理解できないのですか?」


 マリアがイースと言った少年の行動を注意していますが、普通は蹴り飛ばしても窓の外には行かないと思いますが


「俺はお馬鹿じゃない。見かけないお前が兄上の番か。」


 クストさんの弟らしき少年に私は立って挨拶をしようと腰を浮かせたとき


「お前なんか出ていけ。」


 と少年が言葉を発したと思ったら、その場から姿が消え、ドンという衝撃音と共に壁にぶつかっていました。


「こんのクソ餓鬼。出でいくのはお前だ。」


 少年の代わりにいたのは、長いスカートを膝までたくし上げ、蹴った格好で静止しているマリアでした。

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