13話  お掃除は苦手です

 ルジオーネさんにクストさんをお願いしたおかげで、作業が捗ります。

 ルジオーネさんに最初に頼まれた個人用の時計は出来上がった早々にお渡ししました。その3日後、9個のご注文をいただきました。

 何でも、各師団の副師団長の集まりがあったそうで、その時に、ルジオーネさんが使っているのを見て、皆さんから購入の希望が出たそうです。各団長を支える方々は色々ご苦労をされているのでしょう。


 邪魔が入らないので、作業工程がスムーズに進みます。しかし、あまり要望が多いと作りきれなくなりますので、コルバート領のように生産ラインを作ってもらわなければならないですね。一度マリアに相談しましょう。


「魔道具を作る工場でございますか?」


 お茶を入れてくれているマリアに聞いてみたのです。


「そう、コルバート領で大量生産されているものは別の魔導師に頼んで全てを簡略化した工程を組んで作ってもらっているのです。」


「他の魔導師が一から作ると言うことでしょうか?」


「うーん?少し違います。他の魔導師に頼んでも同じ物は出来上がりません。私の使っている文字が特殊なため、どうしても再現ができないのです。」


 そうなのです。幼い私はこの世界の文字を書き慣れておらず、一定の魔力を出力しながら描くという行為が出来なかったため、書き慣れていた日本語で術式を描いていたのです。

 基準となる術式の様式に日本語が書かれている。見たてきには異様な雰囲気を醸しています。例えでいいますと、アニメとかで使われてる六芒星の魔方陣に日本語が書かれている。そんな異様さです。

 しかし、日本語の表現の多さで細かい設定ができるので、この世界の文字で作るより性能が良くなります。

 この、術式を他の魔導師に描いてもらうと、どうしても再現出来ないのです。きっと文字ではなく記号と捉えているのでしょう。

 ですから、石板や金属板に専用のドリル付きの魔道具で術式を描いていくのです。そうすると、凹んだ術式ができあがるのでそれを型とし、粘土状の何か(元はスライムと聞いた気がします)を押し込み魔力を流し固め、型から外し特殊インクに付け、加工した魔石または魔紙に魔力でインクを定着させれば、基盤の出来上がりです。あとは、素材を魔力でコネコネして外装を作ればできあがりです。


「同じ物が出来るように、簡略化した工程を魔導師の方にしてもらうのです。」


「少し時間がかかるかもしれませんね。シーラン王国は獣人の国ですから魔導師が殆んどがいません。どこからか、来てもらわないと。あの、ユーフィア様先程から気になっているのですが作業台の上で動いている物は何ですか?」


 たしかに作業台の上で動いている物があります。作業をしている過程で魔石の加工中に、魔石のクズが出てきます。普通なら捨てる物ですが、私は素材に混ぜ込んだり、インクに混ぜ込んだりするのに使うため、お掃除ロボットならぬ魔道掃除機と言うものを作って見たのです。これは魔石にだけを回収するようにした特別性です。ただ単に、自分でクズ魔石を集めるのが面倒だっただけですが。


「あれは、掃除用の魔道具です。今動いているのは、クズ魔石専用で魔石のみ回収するものです。」


「掃除用と言われましたが、他にもあるのですか?」


 私は亜空間収納のバッグからコードレスタイプの形を模した掃除機を取り出し


「これは手持ち式のタイプでここの持ち手の出っ張りを押し込むと下の吸い込み口からゴミを吸い込むタイプです。」


 そう言ってマリアに手渡すと恐る恐る手を出し、持ち上げたり、回してみたり、匂いをかいだりして一通り観察が終わったのか。


「使ってみてもよろしいでしょうか。」


「どうぞ」


 マリアは持ち手のスイッチを押した瞬間、『キュィーン』と言う音にビックリしたのか、スイッチを離し、後退りして耳と尻尾が下がってしまいました。吸引の音が獣人には大きかったようです。改善が必要だとわかりました。

 マリアは気を持ち直し、再び挑戦するようです。スイッチを押し、佇むマリア・・・。


「マリア、先の吸い込み口を前後に動かしながら、廊下に出て絨毯の所をしてもらえると一番分かりやすいと思いますよ。」


「わかりました。」


 そう言ってマリアは廊下へ出ていきました。お茶が美味しいです。なかなか帰って来ませんがどこまで行ってしまったのでしょう。

 作業台のクズ魔石も片付いたようですし、外装を作りましょうか。


 二つ目の外装が出来上がった頃、廊下を駆けて来る音が聞こえます。ノックをされたので、返事をすると、焦った感じのマリアが部屋に入って来ました。


「ユーフィア様どうしましょ。動かなくなりました。私、壊してしまいました。」


 マリアが涙目で訴えかけてきました。掃除機を確認してみると、ゴミを溜める容器が満タンサインの赤い魔石が光っていました。帰って来ないと思っていたらずっと掃除機を使っていたようです。


「壊れたのではなくて、ゴミがいっぱいになって止まったようです。」


「そうなのですか。てっきり、私が壊してしまったのかと思いました。」


「使って見てどうでした。」


 マリアは私の手を取り


「素晴らしかったです。いつも箒で掃いていたのですが、絨毯を掃除するのが一番苦手だったのです。小石なんてあると、掃いている方向と違うところに行ってしまって、何本箒を折ったことか」


 普通に掃いていて折れることはないと思うのですが


「でも、この魔道具だと絨毯の中のゴミが取れるのです。ぜひ、私の分を作ってください。」


 マリアは目を輝かせ、尻尾が勢いよく振られています。お掃除苦手だったのですね。


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