2話:『ゴブリンの子育て』
助けた少年は、感情の乏しい子供だった。
というよりも、むしろ感情が抜けさったという方が正しいだろうか?完全に生気を失っている状態だった。
コミュニケーションを取る為に3人のゴブリン達は話を掛けた。
アン:「名前は?」
トロワ:「元気?」
ドゥー:「これ食べる?」
あれこれ話し掛けたものの返事はなかった。
少年は部屋の隅で、体育座りをしている。ボーっと宙を見つめていた。
アン:「これは駄目だな。頭がオシャカになってやがる」
トロワ:「さっき殺されそうになっていたんだ。仕方ないよ」
ドゥー:「ああ」
3人は話し合った。結果、少年を暫く放っておくことにした。
いずれ元気が戻るかもしれない。
とにかく今は、無理に構わない方が良いだろうと。
それに、人間から見たら俺たちは怖いのではないか?
そんなことも話していた。
少年は人間でいうところの、7~10歳程度に見えた。
髪は金髪。顔立ちは整っている。
体格は多少小柄。背は特段に高いわけでも低いわけでもない。
3人はゴブリンの村の外れで一緒に暮らしていた。
不思議と昔から気が合うのであった。
中ぐらいの身長で、変な正義感を持つアン。
大柄で肥満体型。口数の少ないドゥー。
ひょろ長くて、臆病者のトロワ。
他の村人達からは、昔から変な3人組と思われていたようで、あまり良くは思われていなかった。
その為、成長するに連れて、村に居づらさを3人は感じるようになっていった。
ならば、変人は変人同士、村の外れで一緒に暮らそうということになった。そんな経緯をもっている。
少年が飼われることになってから幾日が過ぎた。不意にアンが言う。
アン:「俺、この子に足りないのはお笑いだと思うんだよね」
ドゥー:「ああ」
トロワ:「ちょっとちょっと何言ってんの?急に」
アン:「俺には分かるんだ。この子はお笑いのない世界で生きてきたんだ。だから、こう、なんていうか物静かなんだ」
トロワ:「話し合ったじゃないか!あんなことされたら誰でもこうなるって!!刺激を与えない方が良いよ」
アン:「俺には分かるんだ」
こうして3人は各自で一発芸をすることにした。
1人目:不発
2人目:不発
3人目:不発
最終手段である、3人のコントも披露した。年に一度開かれる祭りの演目で、爆笑をかっさらったものだ。
少年は物静かであった。
トロワ:「やっぱりだめじゃないか!」
ドゥー:「ああ」
アン:「おかしいな、、、」
トロワ:「こんなの逆効果なだけだよ!!」
アンとトロワは喧嘩を始めた。仲裁に入ったドゥーも巻き込まれた。
醜い喧嘩だ。見ていて滑稽である。
少年:「ハハハハハッ」
突然笑い出した。
少年:「変なの。ゴブリンなのに!」
3人はビックリした。そして、我に返った。
何で喧嘩していたんだっけ?そんなことよりも少年が喋った!!
不思議と良い気分を3人は感じた。それと同時に恐れもあった。
相手は子供だといえ人間だからだ。何をするか分からない。
こちらも壁際まで下がり様子を伺った。
少年の顔が笑顔になっている以外何も起きなかった。
恐る恐るアンが話し掛けた。
アン:「よう坊主、調子はどうだい?」
少年は笑いのツボが入ったようで、話し声にすら咳き込むほど笑っていた。
少年:「坊主じゃないよ。僕の名前は『スー』。ハハハハハッ」
スーはこれをきっかけに良く笑うようになった。どうやら素も物静かみたいではあったけれど、前と比べると天と地の開きがあった。
3人は大事に育てた。特に自分のことはスーが話すまで聞かないように気を付けた。
日中は、アン、ドゥー、トロワの誰かに付きまとうようになった。まるでヒヨコみたいだった。
<暫くの時間が過ぎ去る>
意外なことにトロワが一番溺愛していた。付きまとう日になると決まって夕食に自慢話を始める。
今日はこういうことをスーとしたとか。僕がこのことを教えたんだなんて。
トロワの溺愛方が激しいだけで、2人似たり寄ったりだった。
もう飼うなんて意識ではなく、自分たちの子供だと思って接した。
ある日3人は話し合った。
もっと違う人と接した方がこの子の為になるのではないかと。
トロワ:「でも村のゴブリンと接するにしても、人間だとばれるのはまずいよね」
ドゥー:「ああ」
アン:「俺に良い考えがある。まかしとけ」
アンは、スーに黒いマントをプレゼントをした。
アン:「その貧弱な身体だと、人間だとばれてしまうからな」
スーは嬉しそうだ。
トロワ:「顔はどうするの?」
アン:「フフッ。この包帯さ」
小汚い包帯を取り出し、スーの顔に巻き付けた。
アン:「顔に酷い火傷を負っているっていうのさ。名案だろ?」
ドゥーとトロワは仕方ないかみたいな表情をした。スーの顔は微妙であった。
<8年後>
3人のゴブリン達は、スーに自分たちの全てを教えた。
炊事、洗濯、戦い方、食べられる植物と食べられない植物について。
釣り、狩り、火の起こし方等々。
とにかく自分たちが知っていること全てを。
もし、自分達がいなくなることが起きても、1人で生活できるように願ってのことだった。
そうはいっても、この生活を自ら手放す気はさらさらなかった。
3人はスーのいる生活がとても気に入っていた。
いつも生活の中心はスー。
本当の親ではないけれど、スーは我々の子供なんだ。
スーもそんな風に思っていてくれたら良いなと3人は思っていた。
当のスーも生活には満足していた。
僕には3人の父親がいると思っていた。恥ずかしくて言ったことはまだないけど、、、。
ゴブリンの村にも慣れた。
見た目を除けば、人間の村とあまり違わないと感じていた。
ある夜、3人のゴブリン達は神妙な面持ちでスーに話し始めた。
アン:「ゴブリンの世界では、15歳で立派なゴブリンと認められる。スー。おまえは今日で15だ。おまえはもう立派なゴブリンなんだ。なので、、、」
トロワ:「パーティーを始めるよ!」
ドゥー:「ああ」
神妙な面持ちとはなんであったのか。ささやかなパーティーが始まった。
食事もいつもより豪華だ。
食事が終わった後
トロワ:「僕たちから、お祝いのプレゼントがあるんだ!」
ドゥー:「ああ」
アン:「おまえは立派なゴブリンになったが、まだまだ弱い。相手の倍武器をもっておけ」
スーは2本のダガーを貰った。
相手の倍武器を持ったところで、強くなるとは限らないんじゃ、、、。と思ったが、言わなかった。
スー:「ありがとう。とっても嬉しいよ、アン、ドゥー、トロワ。僕も立派なゴブリンか、、、。少し照れるな」
スーは心の底から幸福を感じていた。
こんな生活が、いつまでも続いてほしいなぁ。
そう思い、余韻に浸っていた。
アンが最初に違和感を感じた。
ドゥーとトロワも続けて感じる。
微かに変な焦げ臭い匂いを感じたのであった。嫌な予感がする。
3人は家から出て、周囲を見渡した。
アン:「おかしい。村の方が明るいぞ!」
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