始発

 家には帰らなかった。それでも携帯にはメールの一本来ないから気楽なものだ。

 漫画喫茶でシャワーを浴びて、寝ようとしたけど眠れなくて午前四時半にそこを出た。始発は四時五八分。取り敢えず、学校の最寄り駅まで行って、朝ご飯がてらマックにでも寄って時間を潰そう。

 早朝の電車内に知らない人の匂いが蔓延っている。暫く待って漸く出発した電車はがらんどうで、でも私はドア付近に立って流る景色を眺めた。車窓からは海と大きな崖が見える。綺麗だけど、危険な場所。

 その崖の上に莉音が見えた気がした。

 莉音の身体は淡々と崖から落ちていき、あっと思った瞬間、その姿は透けて消えた。

 頭の奥で、莉音の血がフラッシュバックされた。次の瞬間、酷い吐き気に襲われて、目的地から二駅手前である次の駅で降りる事にした。

 なんとか自力で駅のトイレまで行き、洋式トイレで嘔吐した。やっと落ち着いた頃、メールが来ている事に気付いた。莉音からだった。

《ごめんね》

 たったそれだけだった。



一人

《ごめんね》

 帆乃への最期のメール。

 こんな素っ気なくていいのか、とも思ったけれど、最期だからこそ、素っ気なくていい気もした。

 制服に着替えてポケットに手を入れ、昨日の手紙を取り出す。

 その手紙を綺麗に畳み直し、オーバーテーブルに置いた。

――どうか一番最初に気付くのが、帆乃でありますように。

 そう呟いて、私は病室を後にした。


 もうじき、夜が終わる。 

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