少女
星終
第一章
衝動
『言わなきゃいけない事、何一つ言葉に出来なくてごめんね。』
最後に話すのが手紙なんてね――そんな事を思いながら鼻で笑ってみせた。
誰もいない、ボロアパートの一室で、私は昨晩書いた手紙に目を通した。
未婚のシングルマザーである母は、私を育てる為に一日中働いている。二四時間、三六五日――その一分一秒も無駄にはしまいと。
正直、そこまでされて得たお小遣いは嬉しくないし、何よりも使いにくい。最近はもう欲しい物もないし。だから月三〇〇〇円のお小遣いは財布の中に貯まりに貯まった。
その財布をテーブルの上に置いた。
『今までありがとう』
――と、書き置きも添えて。
古びたドアの鍵を閉め、その鍵を玄関ポストに入れた。
まだ外は少し暗い。それもそうだ、まだ六時前だし。
わざわざいつもより早めの時間に家を出たのは、誰も来ないうちに学校へ行って、用が済んだらすぐに学校を出るつもりだったから。
学校に近付く程足取りが重くなるのは、疲れの所為ではない事くらいわかっている。
カラカラと音を立てて教室の窓を開けた。窓の桟に落ちていた小さな羽虫を拾って、投げた。風に乗って飛んでいく緑の葉が、何処か楽しそうだった。
制服のポケットに手を入れると、さっきの手紙に触れた。昨晩書き上げた、彼女宛ての手紙に。
心の中で、何かが弾けた。
窓の枠に手を、桟に足を掛けた。
頭では何も考えていない。寧ろ自分の行動に驚いている。それでも身体は止まらない。
桟に立つと、壁がミシッと嫌な音を立てた。
二年A組の教室は三階にある。下手をすれば、死ねる高さだ。
私は覚悟を決めた。
心の何処かでは生きる事を望んでいるようで、それでも窓から手を離して、全身を前に倒していく。はらはらと、花が散るようにゆっくりと。
まるで何かのスローモーションを身体で感じているようだった。
そのまま落ちていき、全身から力が抜けていく。と同時に、大きな衝撃が走る。
鉄のような匂いがした。
その正体に気付く程、私の意識は残っていなかった。
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