第31話 黒き聖女と聖なる光 1
「はい、お疲れさまでした。クエスト完了ですね」
俺とリリアはクエストクリアの報告をするため、ギルドに来ていた。
俺たち以外にも何人か冒険者がいるが、その全員の視線が俺に向いている。
「あいつらが……」
「なんだ、まだガキじゃねーか……」
「俺たちが受ける予定だったのによ……」
「どうせ、運だろ運」
ヒソヒソと何か言われているが気にしない。
早いところ次のクエストを受けて、ギルドから出ていきたいのが本音だ。
「では、報酬の件でお話がありますのでこちらに」
いつもはカウンターでやり取りするが、今日は別室に通された。
初めてくるギルドの奥の部屋。少しだけ胸が高鳴る。
「アクト様、なんかドキドキしますね」
リリアも俺と同じように緊張しているのだろう。
家に残してきたセーラの事も気になるので、早めに帰りたいのものだ。
「失礼します」
フィーネさんが先に部屋へ入っていき、俺たちはそのあとに続く。
中にはギルドマスターのモンドルさんが座っており、テーブルには一枚の紙が乗っている。
「おう、よく来たな。まぁ、座ってくれ」
しばらく雑談をして、ギルドの事やダンジョンの事で盛り上がる。
主にモンドルさんの冒険話だ。
「さて、そろそろ本題に入るか。フィーネ、例の物を」
ギルドマスターに言われ、フィーネさんが席を立ち、棚から何か箱を持ってきた。
「さて、クエストの報酬だが依頼表の通りあの家と土地はアクトの物になる」
おぉ、本当にもらえるんだ。
「まぁもともと俺の住んでいたボロ家だがな。できれば、きれいにしてやって、長く住んでくれると俺も嬉しい」
「わかりました。まだ住める状態ではないですが、頑張ります!」
「この紙が契約書だ。ここにサインを」
俺は内容をしっかりと確認し、言われるままサインをする。
サインを書き終え、リリアの方に視線を向けると、自然と笑みがあふれた。
「俺たちの……」
「家です! やりましたね! 毎日騒いでも、怒られませんよ!」
いえ、毎日は騒ぎませんけどね?
「では、互いに契約書を一部ずつ。これで契約は終わりですね」
一枚の紙をもらい、バッグに入れる。
今日から俺も家持ちだ。素直にうれしい。
まだ住めないけど。
「これは俺からだ。個人的なものだから、受けっとってほしい」
フィーネさんが持ってきた箱。
それをテーブルの上で開けてみる。
が、中身は空っぽ。
しかし、どんな仕組みなのかわからないが音楽が鳴り始めた。
「これは?」
「俺の母親が好きだった小箱だ。指輪とかネックレスとか入れていたな」
ようは、アクセサリーボックスなんだな。
でも、不思議とこの音楽は心に響いてくる。
「いい音楽ですね……。なんだか、心がゆったりとした気分になります……」
リリアも気に入ってくれたようだ。
「でも、なんでこれを?」
「特に意味はない。あの包丁と一緒のところにおいてほしいって思っただけだ」
「包丁とですか?」
「あの包丁もこの小箱も俺の母親が好きだった。できれば一緒の場所に置いてほしい。無理にとは言わないが、頼めるか?」
「大丈夫です。大切にお預かりしますね」
ふたを閉めると勝手に音楽が消える。
どんな仕組みになっているんだろうか?
「ふたを開けても音楽が鳴らなくなったら底にあるネジを回してくれ。また音楽が鳴り始める」
そんな不思議な、マスターの思い出の詰まった大切な箱を預かってしまった。
それから大きな問題もなく、普通にクエストを受ける。
今回の功績で俺とリリアは三階層まで行けるようになった。
受けられるクエストも少しだけ幅が広がる。
「よし、今日は二人で二階層に行ってみるか」
「はい! では一度装備を整えて、さっそく行きましょう!」
帰りにセーラのところによって、様子を見る。
掃除は進んでいるが、壊れたところは資材を買ってこなければならない。
セーラにお買い物リストをもらい、宿に戻る。
「さて、装備の確認よーし、アイテム補充よーし。買い物リストよーし」
準備が整う。
「アクト様、今日も頑張りましょうね!」
「あぁ、稼いで資材を買って、家を直すぞ!」
「「おー!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます