第17話 予知する人形その1 

ある日、学校から帰るとマンションの宅配ボックスに見知らぬ相手からの荷物が届いていた。


「……カイチ、さん?一体誰だ?」


詐欺の可能性もあるな、とは思ったけれど開封してみて怪しければそのまま放置して相手の出方を見ればいい。


……そう考えて僕はその、小さめの段ボールを開けてみた。


中には緩衝材のビニールパックと一緒に、一体のピエロの格好をした子供の人形が入っており、一通の手紙がその人形の服の間に挟まっていた。


「なになに?この人形は未来を予知して教えてくれます……?

"あなたの身に何かしらの不幸が降りかかる、その前に危険を察知して回避する方法を教えてくれるのです。

どうか、ご活用ください。ちなみにこれは詐欺ではありませんのでお金を要求したりはしません。ご安心下さい…。"、か……。」


僕は右手にもった人形をためつすがめつ眺める。


「ふぅ~~ん。こいつがねぇ……。」


すると、突然手の中の人形が甲高い声で喋りだした。


「コノアト、ゴゼン1ジニアナタノアルバイトサキニ、ゴウトウガヤッテキマス。

ゴフコウヲカイヒスルニハ、コレカラワタシガイウコトバヲソックリソノママ、ゴウトウニイッテクダサイ。」


「"アナタハワルクナイ。コノシャカイガワルインダ。"、イジョウガヨチトアドバイスニナリマス。ドウカゴカツヨウノホドヲ。」


プツッという音がしてそれっきり人形は喋らなくなった。


「……僕の働いているコンビニに強盗だって?そんなバカな……。」


そう言いつつも具体的すぎるアドバイスが妙に気になる。 


……まあ、バイトに行ってみれば分かることさ。


そして、僕は部屋でダラダラと1時間程ネットの動画を見た後、アルバイト先である、Mマートへと向かった。


「……お疲れ様でーす!」


「お疲れちゃん!」


バックヤードの脇の休憩室では、額の禿げ上がった中年男ーうちの店長だーが、パソコンモニター前のパイプ椅子に座ってタバコを吹かしていた。


「ごめんけどさ、突然今日藤田君が来れなくなっちゃってさー。飯田君ワンオペになっちゃうんだわ。」


「……えっ?藤田さんが?本当ですか?」


「うん。何か昨日から熱が下がんないんだって。んで、俺も今日はちょっとヤボ用があって一緒に仕事出来ないんだわー。

今日子ちゃんにも電話したんだけど、今日デートだからダメだってさ。だから、悪いけどよろしくね。」

 

タバコの火を灰皿に押し付けて消すと、ポンッと僕の肩を軽く叩いて制服を脱いだ店長が帰ってゆく。


「マジかよ………。」



    ◆  ◆  ◆  ◆



それから、いつも通りやって来るお客さん達を捌いて、ようやく一息ついたその時時計を見ると、もう少しで時計の針が丁度午前1時を指す所だった。


僕は思わず人形の喋った言葉を思い出す。


コノアト、ゴゼン1ジニアナタノアルバイトサキニ、ゴウトウガヤッテキマス。

ゴフコウヲカイヒスルニハ、コレカラワタシガイウコトバヲソックリソノママ、ゴウトウニイッテクダサイ。


"アナタハワルクナイ。コノシャカイガワルインダ。"、イジョウガヨチトアドバイスニナリマス。ドウカゴカツヨウノホドヲ。


「……あなたは悪くない。この社会が悪いんだ、ねぇ……。」


呟いたその瞬間乱暴にドアが開かれて、

黒いヘルメット姿の男が包丁片手にレジにいる僕のところまで走ってきた。


「金あるだけ全部出せ!とっととしろ!!」


僕に包丁を突きつけて強盗が言った。


……ほ、本当に来た……。

僕は生唾をゴクンと飲み込むと、人形のアドバイス通り、


「あなたは悪くない。この社会が悪いんだ。」


と、強盗の目を正面から見据えながら静かに言った。


「……………………。」


すると、一瞬黙った男は包丁を下げて走って店の入り口から出ていった。


「………フーーッッ!!」


……なんという事だろう。全部あの人形の言う通りになってしまった。


強盗と相対した緊張の余り、その後は魂が抜けたように機械的に僕は接客を行った。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る