第14話 鬼の棲む場所その3

しかし愛実が、


「……私、ちょっとしおんの様子を見てきます!!」


そう言ってしおんを走って追いかけようとしたので、その右手を掴んでそれを止めた松前が、


「……しおんちゃんも気になるけど、こういう時は余り一人で行動するのは避けた方がいい。……とにかく今はトンネルの中を調べよう?」と、再度提案する。


「…………………………………。」


不満げではあるものの、愛実はとりあえず、

松前の提案に従った。


…………それから、3人は広いトンネルの中を湯川を探しておっかなびっくり隅々まで歩き回った。


………しかし、湯川の姿が見えなくなった所の、壁に飛び散った血液以外は特に変わったところはなく、ひとまずトンネルから出て入口にいるであろうしおんと合流しようということになった。


「……お~~~い!しおん~~~!!」


トンネルの入り口まで戻ってきてから、愛実が辺りにいるであろうしおんに向かって呼び掛ける。


「お~~~~い!!しお~~~ん!!出てこいよ~~~!!」


小手川も一緒になって呼び掛けるけれど、一向に返事は返ってこない。


……ふと、愛実が地面に落ちているケータイに気づき、拾い上げる。


「……あー!!これ、しおんのだ!!さては慌てて逃げてく時に落としたな!どうしよう……。これじゃあ、連絡取れないじゃん!」


「……ひょっとしたら、怖がる余り車の所まで一人で戻っちゃったのかもしれないな……。」


「…あーーっ……。確かにそれありそう!」


松前の言葉に愛実も思わず同意する。


「……じゃあ、どうします?湯川のヤローも一応ここで待っとく奴がいた方が良くないっすか?」


「……んーー。そうだねー……。

……じゃあ、ここで僕が湯川君を待っておくから二人は車の所まで戻っていいよ。」


松前がそう言ったので、小手川と愛実の二人は来た道を引き返していった………。



    ◆  ◆  ◆  ◆ 



……二人と別れてからどれくらい経っただろう?

……ケータイを取り出して見ると、まだ30分くらいしか経っていない。


……どうも一人きりでは時間の流れが遅い気がする。

そんな事を旧トンネルの入口前で松前が考えていると、


「………副部長ーーーーー…………。」

と、どこか囁くような低い湯川の声がトンネルの奥から響いてきた。


「……湯川君!?トンネルの中にいるのかい!?」


そう松前がトンネルの中に向かって呼び掛けると、


「………副部長ーーーー…………。」


、という声が再びしてそれっきり湯川の声は聞こえなくなった。


「……ゴクン…。」

松前は思わず唾を飲み込んで、トンネルの奥の闇に目を凝らした。


……ややあって、覚悟を決めた松前は一人で暗いトンネルの奥へと懐中電灯片手に歩き出した……。



    ◆  ◆  ◆  ◆


一方トンネルに向かったときと同様に、おおよそ一時間かけて小手川と愛実の二人は車の停めてあるポイントまで戻ってきていた。


………しかし、車内にもその周りにもどこにもしおんの姿はない。


「……もう、どこ行っちゃったのよ!しおんったら!!」


「……ひょっとして、アイツ、道間違って迷子になってんじゃねぇの?」


「…………………………。」


小手川の言葉に愛実の顔がサーッと青ざめる。


「どうしよう………。私が無理に誘っちゃったからこんなことに………。」


「取り敢えず、副部長に連絡入れようぜ!」


そう言って小手川が自分のケータイを取り出して松前に電話を掛ける。


……トゥルルルル。……トゥルルルル。


……お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません………


その後何回かかけ直してみるも、全く繋がらない。


「……おっかしーなーー??来たときは普通に電波来てたはずだよなーー?何で繋がんねーのよ!?」


言いながら首を捻る小手川。


すると、ブーブーブーブー、と愛実のトートバッグの中からケータイのバイブ音が聞こえて来た。


愛実が電話を受けると、


「……にげ、て……。…この、トンネルには……何か……いる………。」


そう松前の、まるで喘ぐような声がしてブツッと電話が切れた。プー、プー、プー、プー。


「……えっ!?」


「副部長、何だって?」


「……旧トンネルに何かいるから逃げろって、一言だけ…………。」


「……はあ!?なにソレ!?」


「私だってよく分かんないよ!!しおんも湯川君も消えちゃって、その上副部長まで…。」


パニックになった愛実は涙ぐんで、今にも激しく泣き出しそうだ。


「……ちょっ、落ち着けって!深呼吸、深呼吸!!」


その小手川の言葉に従って愛実はゆっくりと深呼吸を繰り返す。

スーハー。スーハー。スーハー……。


「……落ち着いたか?」


「……うん。ゴメン……。」


「いいって。いいって。とりあえずこれからどうするべ?普通に考えたらケーサツとかに連絡して、一帯を捜索とかしてもらう場面だと思うけど……。」


「……そうだよね。……う~~~ん…。

……なら、110番に電話してみる?」


そう言って愛実が自分のケータイで110番通報しようとしたその時、


……ブーブーブーブー。

愛実のケータイが再び着信を告げた 。

画面には湯川君、という表示が出ている。

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