恐怖夜語り

たじ

第1話 親切な、ひと

私は幼い頃に事故でほとんど光を失ってしまった。今は全盲の認定を受け白い盲人用の杖を使って外出している。


ある日、地下街を歩いていると、サラリーマンだろうか。とても急いでいる男性が私に後ろからぶつかってきて私は前につんのめって転んでしまった。


すると、後ろから様子を見ていただろう人が「大丈夫ですか?ひどいわ、あの人…。」と気遣わしげに私を支え起きるのを手伝ってくれた。

その親切な若い女性が私が家に帰る途中だと言うと、「私が家まで付き添いましょうか?」と申し出てくれたため、せっかくの行為を無駄にしてはいけないと思い、家まで送っていってもらう事になった。


しかし、二階建てのアパートの一階右端にある私の部屋の鍵を開け、二人で中に入ると、私の首に冷たい何かが押し当てられて、「騒ぐんじゃないよ。金出して。命までは取らないからさ……。」と先程までとは別人のように冷たい声で彼女が私を脅してきた。


…私の首に当てられたのはさしずめ刃物の類いか。私が、「…お金はあげますから、一旦離してくれませんか。私は目が見えないから拘束しなくても大丈夫でしょう?」と訴えると、「…まぁ、いいさ。騒いだら刺すからね。」と答えて、彼女は私の拘束を解いた。

それから、私が「お金を取って来るからちょっと待っててください。」と言って、居間の押し入れをガサゴソ漁っていると、突然、「ギャッッ!!」という叫び声が聞こえた。


振り返ると、私の頬に生暖かい何かの液体が振りかかる。…これは、鉄錆のような……?まさか、血の匂いだろうか…?一体、何が?と思って動揺して動けずにいる私に、「先程は大丈夫でしたか?…ちょっと気になってあなたの後をつけさせてもらいました。この女、ワルいことで有名なモンで、心配してついて来てみたらコレだ。全く世の中どうなってんですかね?」と若い男性の声が語りかけてきた。

私が恐る恐る「…か、彼女は……?」と尋ねると、フフッという笑い声がした後、バタンと玄関が閉まる音がした……。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る