第42話 デートのために、すること
「映画を観ましょー♪」
「え? まぁ……週末はそうする約束だよな?」
家でシアの作った夕飯――やっぱり『普通』だった――を食べた後に、シアがそんなことを言い出した。
「そうじゃなくて、今から映画を観るの!」
「なんでまた?」
「お互い好みを知るためよ。せっかく映画を観るなら私たちが一番ワクワクするの、見たいじゃない」
「たしかに……」
シアの提案も頷けるところはある。映画館でお金を払ってみるのだからやっぱり楽しめるものを見たい。
「でも、映画どう観るんだ? ソフトあるならゲーム機で再生できるけど」
「ふっふっふ~、任せなさい!」
シアが自分の鞄をごそごそとあさり始める。
大きさの割に色々入っている鞄だ。
「じゃーん! この通りタブレットあるから、モニターに接続しましょ。動画見放題、契約してるから、そこから選べばいいし」
「へぇ……」
驚いているうちに、テキパキと準備をしてくれる。
「手慣れてるな」
「ふふん、この家にお世話になる前は、けっこうよく見てたの」
自慢気に胸を張る。大人っぽい仕草を見せることが多いシアだが、こうすると同年代らしいあどけなさが出る。
「あ、それなら映画、自由に見てくれてよかったのに」
家でのシアは俺と雑談するか一緒に宿題をするか、さっさと寝てしまうことが多かった。映画鑑賞が趣味なら、我慢させていたことになる。
「え? ああ、別に遠慮して見なかったわけじゃないよ」
「でも、遠慮してたんじゃないのか?」
「うぅん、映画を観るの好きだけど、ヒツジくんと過ごす時間の方が楽しいから」
「まぁ……うん、それならいいけど」
頬が熱くなるのをごまかすために咳払い。
そうだった。シアはこういう『恋人』だ。
「へへへ……顔が赤いよ~。照れてるんだー♪」
「いいだろ別に、ほら、映画映画」
そして目ざとく俺の反応を見つけるのもシアらしい。
「どんなジャンルが良い?」
「いつも見るのは、アクション系とか、アニメが多いかなぁ……」
「へえ……じゃ、こういうのとか?」
手慣れた操作で、出してくれたのは誰でも知ってる有名アクション大作。
「ああ、これは見たよ、すっげー面白くて、このシリーズ、だいたい見たかな」
「なるほど、こっちのアニメは?」
「そっちも! 面白かったなぁ……映像綺麗だったし」
「ふむふむ、明るい話が好きなのかしら?」
「言われてみれば……見ててワクワクしたり、気持ちよく終わってくれる作品が好きかもな」
「それは私もわかるなぁ。すっきり終わって欲しいよね」
「シアも、似たような系統が好きなんだ?」
「私は色々ね。ミステリーとかホラーとか、最後がモヤモヤするのも面白いし。その時に人気のとか、限定公開されてるやつとかもよく観るかな」
「乱読家ってやつか」
「本じゃないけど、そういうことね。どれにしよっかなぁ……」
シアがウインクして、タブレットの画面をフリックしながら映画を探す。
だとすると以前は暇さえあれば映画を見てたんだろうか?
ここに来る前のシアが、どんな生活をしていたのかまったく想像できない。
でも、シアのことを知りたくてデートに誘ったわけだから――。
「シアが一番良く見る作品ってあるのか?」
「一番?」
「そう。何度も見てるやつ。シアのお気に入りを知りたいし」
「私のお気に入り……うーん。色々あるけど一番見てるの……あ、これかな」
「え、それ?」
シアが表示したのは、白黒の映画だった。
意外なような気もするし、すごくしっくり合っているようにも思う。
「古そうな映画だな」
「うん、白黒の映画、けっこう好きなんだー。パブリックドメインになってるやつだと見やすいし」
「パブリック……なにそれ?」
「簡単に言えば著作権切れたやつよ。だからいつでも見られることが多いの」
「なるほどなぁ。じゃあ、それ見よう」
「え? 昔の作品だから、けっこう内容、渋いって思うかも。すごいアクションがあるわけでもないし……」
「いいよ、シアの好きなの見てみたい」
「ん……ふふ、そっか。それじゃ今回はそうしましょ」
シアがはにかむと俺の隣に座り、再生ボタンを押した。
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