第46話・その鋼は不屈の意思で出来ていた。

 メリッサは扉を閉めて目の前で人が殺されたことによる動揺で呼吸を荒げた。


(ヤバイ! どうしよう・・・・・・扉の向こうに敵多数! しかもこっちは袋のネズミ!)


現状から危機的状況を理解したメリッサは打開策を考えるが、何も思いつかない。


「さて、あの子たちもそろそろ出荷ね。このクズより上質なテクトムに取れるかもしれないって言うのにそれが出来ないのが残念だけれど・・・・・・」


 そんな女性の声が聞こえたメリッサは、ランタンの後ろでこちらを見ながら怯える3人の子供たちを見た。


(え? 出荷? まさかここの人たち人身売買にも手をかけてるの? じゃあこの子達は攫われたりでもしたの?)


 扉越しに何かが近づいてくる気配を感じたメリッサは焦るが、そんな自分を見る子供たちの視線に気づく。


 3人の内、ひとりは女の子だ。心配そうな目でメリッサを見つめている。


・メリッサは語る。


 この時、彼らの視線に覚えがあった・・・・・・そこで僕は、思い切った行動に出た。

蛮勇とも言えるその行動は自分でも愚かなものだと解っていたけど、それでこの子達を救えるのなら・・・・・・僕は何にだってなる!


 外にいる何者かが扉を引きはがし、メリッサと子供たちがいる洞穴を覗く。鷲の形を模した鎧に身を包んだそれは中間世界でしか見ることが出来ないはずの下級天使だった。


 中間世界で凪たちが見たモノと違う点は、首に黒い錠のようなものがついているというだけで、頭ふたつ背が低いメリッサを見るなり左手を伸ばす。


 次の瞬間、メリッサの「フィフスメアリー!」と叫ぶ声と同時に天使は、重い金属音とベキベキベキベキと何かが砕ける音を鳴らし、首が時計回りに何週も回りながら吹き飛んだ。


 右手にロボットの手のようなグローブを嵌めたメリッサが洞穴から飛び出し、左手でトレーサーを構える。


 目の前にいるのは先程のような下級天使6体と四角縁眼鏡をかけたスーツ姿の30代の女性でメリッサを見るなり「侵入者よ。始末して!」と下級天使たちに命じると同時にメリッサはトレーサーを起動した。


きりたんボイス「スチール! シャキィン!」


(イメージしろ! 僕らしさを・・・・・・鈴羅家の魔祓い師であるメリッサ・鈴羅を!)


メリッサは心の中でそう叫び、口を開いた。


「モード・・・・・・フルメタルジャケット!」


 鋭い声でそう呟いたメリッサの左手に持つトレーサーから青色の光が放たれ、メリッサを包み込んで洞窟内にズドンという衝撃が走った。


 砂煙が立ち込める中に一体の下級天使が翼を広げて砂煙に向かって滑空する。

その時、ガウン! という重く鋭い金属音がその場に鳴り響き、下級天使の胸部のど真ん中に直径10cmの風穴が空いて吹き飛んだ。


 下級天使は無数のテクトムをその場に残して塵となり、砂煙が晴れて下級天使を倒したものの正体が露わになる。


 それは、右腕に白銀色のパイルバンカーを装着し、左腕に黒光りするガントレットを装着したメリッサだった。


 残り5体の内、2体の下級天使が同時に槍をメリッサに向かって投擲するとメリッサは左手を脇に構えた。


 すると、掌の空間が歪んでそれを投擲された槍に向かって突き出すと2本の内、1本が突き出した左手の前で止まり、もう1本はメリッサの左を通り過ぎて壁に突き刺さる。


 メリッサはそのまま左腕を大きく振って、槍を投げてきた下級天使に向かって突き出すと、空中に止まっていた槍が勢いよく飛んで行き、縦に並んでいた2体に突き刺さった。


「こっちへ・・・・・・来い!」


 メリッサはそう叫びながら左腕を何かを引っ張るように動かすと先程串刺しにされた下級天使がメリッサの方へ引き寄せられ、メリッサは右腕のパイルバンカーを構えた。


 一方その頃・・・・・・

物置みたいな場所にいたサムと文に無事合流することが出来た凪たちは洞窟内が少し揺れるのを感じる。


「え? 何? 地震?」


 驚く文を他所に何かを感じ取った凪は「違うな」と否定し、こう言った。


「メリーだ・・・・・・間違いない」


凪はそう言って近くの壁へと歩み寄り、右手をペタッと当てる。


「近道するぞ! 何かあってからじゃ遅い」


 そんなことを言う凪に、咲は「でもそっちってただの壁・・・・・・」と言いかけたところで察した玲奈は「ああ、そう言うことか・・・・・・」と言って、数歩後ろに下がった。


 凪は自身のシャドウであるフルメタルアルケミストを出して「道がなければ作ればいい!」と叫んで壁に向かって拳を振り上げる。


 場所は戻り、下級天使を何体か倒したメリッサは肩で息をしていた。


(息が苦しい! 目がチカチカして気持ち悪い! 兄さんたちはこんな過負荷の状態で戦ってたの!?)


 トレーサーによってかかる負荷と戦いながら、どうにか戦意を保っていたメリッサだったが、ここで敵は動きを変えた。


 追加で来た下級天使6体は、メリッサに向かって一斉に槍を投擲し始め、メリッサは左腕を盾にするように構えると、左腕のガントレットが自身覆うような直径2mの円盤の盾に変形し、雨のように降り注ぐ槍を防ぐ。


 重い金属音と砲弾のような衝撃が、ビリビリと盾越しに自身の体に襲いかかり、メリッサは反撃できなかった。


(ヤバイ! これだけ一斉に撃ち込まれたら反撃が出来ない! このままじゃ・・・・・・)


 勝機を失いつつあるメリッサだったが、グッと歯を食いしばり、両足で踏ん張る。


(大丈夫! 僕には兄さんが昔言っていた鋼の意思がある! 僕の心が屈指ない限り・・・・・・この鋼は決して砕けない!)


 構える盾にズガガガガガガガガと轟音を鳴らしながら、降り注ぐ槍の弾幕をメリッサは全力で堪えた。


 相手の数の暴力に盾に亀裂が入るも、メリッサの表情は変わらない。まだ耐えきれる! まだ負けていない! そんな強い闘志がその青い瞳に宿っている。


 その時、メリッサから見て右側にある壁にピシリと亀裂が入ると「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃ! だりゃあ!」とフルメタルアルケミストを出した凪が壁を突き破ってその場に現れた。


 突然の闖入者に下級天使たちの攻撃が止まり、メリッサは揺れる視界の中でその場に現れた凪たちの姿を見て安堵する。


 トレーサーにより自身の限界を超えたメリッサと、メリッサに対して寄ってたかって攻撃していた下級天使たちを見た凪たちの表情が険しいものに変わった。


「これはこれは・・・・・・ウチの弟を随分とまあ、可愛がってくれたようだな・・・・・・お返ししねえとな?」


 そう言う凪に対して、下級天使の一体が槍を投擲すると、凪は素早い動きで右手でそれをガッと掴んで受け止めると、その場の空気が震える。


「ほー・・・・・・やろうってのか?」


 険しい顔に怒りが露わになった凪は「上等だ!」と叫んで、タングステンやタンタルなんかよりも強度が高いとされている霊的レアメタルであるテクトムで出来ている槍を、両手でバキンとへし折り、叫んだ。


「お前ら! 遠慮はいらねぇ! 鈴羅ファミリーに手ぇ出すとどうなるかぁ! 魂にまで刻み込んでやれ!」


 凪はそう叫んでトレーサーを右手で構えると、幽麻と亜由美もトレーサーを構え、起動する。


あかりちゃんボイス「イオン! ピッカリーン!」


アイちゃんボイス「スマッシャー! 皆をポカポカ! デストロイ♪」


茜ちゃんボイス「ビースト!」葵ちゃんボイス「ナイト!」


茜ちゃんボイス「ガルルルル!」葵ちゃんボイス「シャキーン!」


 玲奈は抜刀し、咲もクロックスティックのナイフ両手に一振りずつ持って、サムはガコンとインディペンデンス・カタパルトを出し、文は付箋が大量についた手帳を広げてページをビッと一枚破り取る。


幽麻「モード・ライディングタキオン!」


亜由美「モード・ブルータルスラッガー!」


凪「モード・ウルフ&セイント!」


 そこから先に起こったことは、戦いと言うよりは……凪たちによる一方的な鏖殺だった。


 6体もいた下級天使達は、幽麻の光を超える超光速移動で体勢を崩され、サムの発進した戦闘機の機銃で蜂の巣に、咲の時間停止からの大量のナイフ投擲でメッタ刺しに、文の火炎魔法で消し炭に、玲奈の剣戟で袈裟切りに、亜由美のフルスイングで真っ二つになど、どれも惨い最後を迎えた。


 両膝を地面についてその様子をただ茫然と眺めていたメリッサに、凪は切り落とした下級天使の生首を左手に右手に黒の十字剣を持ってこう言った。


「俺たちが来るまで耐えきれたのは、まごうことなきお前自身の力だ。「己の力を疑わずに驕らずに信じ、不屈の意思で己の道を進め!」それが鈴羅家の魔祓い師だ」


 そこまで聞いたところで、メリッサはトレーサーによる変身が解けて、パタリと前のめりに倒れて気を失った。

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