第23話・巨人

 翌日の昼休みの学校の屋上にて……

凪と玲奈と幽麻と亜由美の4人は輪になって作戦会議を開いていた。


「さあて……幽麻のバイト先の先輩が見たという男がウチのAKを攫ったワケだが……亜由美、相手の今後を動きをお前ならどう見る?」


 凪はそう言って亜由美に振ると亜由美は自身の頭の中で浮かんだ予測できる相手の動向を口に出す。


「玲奈がやられた公園で山にある刑場跡地の土と魔石の欠片が見つかっているんやろ? 魔石を使って怨念に実態を与えて使役してるっちゅうことは黒魔術師やな。黒魔術の狂気に飲まれてる奴の行動なんて街かこの世界を破壊するぐらいなもんやろ?」


 亜由美がそう言うと凪はAKに使った技術からそれが可能であることが解った。


「もし、AKのコアに使っている魔石で更にデカい怨念を使役しようとしているのだとしたら……」


 凪はそんな推理を口に出すが、幽麻がそれに対して「そんな場所がこの街にいくつもあるのか?」と疑問を口に出すと、凪は心当たりがあった。


「この街は小さな村がいくつも集まって出来た街だっていう昔話を聞いたことがある。村によっては流血の惨事や強い怨みを持って死んだ魂が残っている霊地があっても不思議じゃない」


 そして凪は方針を3人に話した。


「とりあえず学校が終わったら手分けして霊地を回っていくとしよう。もしアイツを見つけたらすぐに連絡して足止め、もし不利だと感じたらすぐにその場から逃げろ」


方針も決まったこともあり、凪たちは学校が終わるのを待った。


 放課後になって凪たちは校門の前に別れてAKを攫った男が行きそうな場所へと向かう。当然のことながら玲奈は凪についていくことになった。協力するとはいえ、監視役の仕事を怠るわけにはいかない。


 2人は住宅街の一軒家の前に来ていた。玲奈は周りには普通の家が立ち並ぶこんな場所に現れるのか? 疑問に思った玲奈は「この場所で何があったんだ?」と尋ねると凪はこの場所で起こったことを玲奈に話す。


「30年前に一家惨殺が起こった場所だ。なんでも被害者の体の一部が未だに見つかっていないらしい。そのせいで危険な怨霊が住み着いているんだ」


 凪は門に張られたトラロープの間を抜けて敷地内に入った。


「中に入るのは無理だが、裏口に回って人の出入りがないかは確認できる。幽麻には街の中心から離れてる場所を見てもらってるからな。この分だと亜由美が当たりを引いてそうだ」


そんなことを言いながら凪は調査を開始した。

 そして日が暮れはじめた頃、隣町との境目になっている河川敷にて……

AKを攫った例の男は河川敷の川辺にいた。


「刑場跡地の土……流血を味わった河底の砂……そして、高度な術式が彫られた魔石……」


 男はそう言いながら自身の右隣にいるAKに手を伸ばしたその時、男の頭上に幽麻と亜由美が現れた。


 幽麻は右足を振り上げて踵落としを狙い、亜由美は右拳を構えていた。

だが、男は右手でAKを突き飛ばし、後ろに飛んで2人の攻撃をかわす。


「バカめ! もう既に儀式は完了している!」


 男は2人に向かってそう言うと、地面の砂利と水がAKに纏わりつき始めた。


「出でよ! この地に縛られし怨嗟の魂たちよ!」


 男がそう叫ぶとともに、AKに纏わりつく大量の砂利と水が人の形となり、体長20m程の巨人へと形を変えた。


幽麻・亜由美「「デカァ!」」


 2人は目を丸くして驚きの余り大声を挙げると、巨人は左手で男を左肩に乗せて右手を広げて2人に向かって突き出す。


 突き出された右手は壁のように迫り、2人がいる場所を吹き飛ばした。

土砂が飛び散る中、幽麻の光速移動によって2人は巨人の右腕の上に乗っていた。


「何とかせえへんと街に被害が出るで!」


 幽麻の隣で亜由美はそう言うと幽麻はこう言った。


「凪と玲奈が来るまで持ちこたえるぞ! 術者は任せた!」


 そう言って幽麻はティアドロップのサングラスをかけてシャドウを出し、光と同じ速度で巨人の頭部まで腕を伝って疾走した。


 そして「ウラァ!」という掛け声とともに勢いよく右足で飛び蹴りを巨人の右側頭部に叩き込む。


 亜由美から見ると、巨人の頭部がいきなり右から左へ折れ曲がった瞬間しか見えていない。


 そして、亜由美は両手に白い塗料で文字のような物が描かれた黒の布製手袋を嵌めてAKをこのような化け物に変えた術者の男に肉薄する。


「走れ! エネルギーのビート! ハードビート式オーバードライブ!」


 そう叫びながら亜由美は電流を帯びた右手を術者の腹部に叩き込んだ。自身が召喚した巨人の操作に集中していたからか? 棒立ち状態の男はモロに亜由美の技を受けた。


 男はそのまま大きく吹き飛んで巨体から投げ出されるが、巨人は止まる様子も無く。空中にいる幽麻に向かって左手を伸ばす。


「クッ! 既に術者の制御から外れてるのか!」


 幽麻は驚きの声を上げながらも光と同じ速度の世界で迫ってくる巨人の左手の手の甲に乗り、再び腕を伝って頭部へ近づいた。


(コアとなっているAKがコイツのどこかにいるはずだ! 今狙える有効そうな場所は……頭部!)


 狙いが決まった幽麻は巨人の頭部へ向かって跳躍し、飛び蹴りを叩き込んだ。そして、滞空している状態で「ウラララララララララ!」という掛け声とともに右足を鞭のように振り回して連続キックを叩き込む。


 とどめに「ウラァ!」という掛け声を挙げながら右足で突き蹴りを放つと能力が解除され、光と同じ速度で撃ち込まれて蓄積した蹴りのダメージが突如巨人の頭部に襲い掛かり、巨人の頭は吹き飛んだ。


 だが、破片の中にAKの姿は無く。幽麻の攻撃は不発に終わり、巨人は自身の目の前を飛ぶ蚊を叩き潰すように両手を幽麻に向かって伸ばす。


 空中で左右から迫る巨人の手に対して幽麻は「ヤバイ! 能力のリキャストが……」と死の危険を感じると同時に巨人の両手がバンと幽麻を挟んだように見えた。


亜由美「爆ぜろ! エネルギーのビート!」


 突如、巨人の両手が爆発してバラバラになり、破片の中から無傷の幽麻と亜由美が姿を現す。


「すまない。助かった!」


幽麻は礼を言うが亜由美は礼よりも打開策が欲しかった。


「そないことよりもコイツどうすんねん。このままやと街に行きかねへんぞ!」


 亜由美はそう言うと、巨人の砕けた頭と両手が植物の目が生えるようにボコボコと再形成されて2人に襲い掛かる。


凪「ラグラス!」


 突如2人の後ろから響いたその声と共に津波のように押し寄せる氷が走り、巨人の下半身を氷漬けにした。


「遅くなった! 大丈夫か?」


 凪はそう言いながら2人のもとに駆け寄ると巨人の下半身を覆っていた氷にピシッとヒビが入り、音をたてながら巨人は自身を覆っている氷を砕きながら拘束を解いた。


「怪獣映画か何かか? 中間世界じゃなくて人間界でこんな怨霊を具現化させるなんて……」


状況は劣勢に思われてるが、凪はそう言って特に焦る様子は無い。


「粉々に破壊できなくはないが、AKもろともやりかねない。コアの場所は解るか?」


 凪の質問に幽麻は「頭部にはいなかったから多分首から下のどこかだ」と答えると、玲奈が前に出た。


「私がやる。みんなは下がってくれ」


 玲奈はそう言ってグレイプニルを発動すると青白い光を放つ鎖が玲奈の右腕に巻き付き、巨人は玲奈に向かって両手を広げて襲い掛かった。


「グレイプニル・アンチカーズゾーン!」


 玲奈はそう叫んで右腕を上に突き出すと、突然右腕に巻き付いていた鎖が竜巻のような螺旋を描くように空に向かって伸び、玲奈を中心とした半径10mの地面が鎖と同じ光を放った。


 襲い掛かってきた巨人の動きは止まり、体全体がボロボロと崩れて砂の山となる。

玲奈はガクッと崩れるように片膝をついて「ゼエッ! ハァッ!」と息を荒げた。


「おい! 大丈夫か!?」


 驚いた凪はそう言いながら玲奈の下に駆け寄ると、玲奈は息を整えようと「すー……はー……」と一度深呼吸をしてから答える。


「急に力を強く使ったから堪えただけだ。それよりも術者はどこに行った?」


 玲奈の問いに術者を殴り飛ばした亜由美は「それならそこに……」と後ろを向いて河川敷の土手の方を指差すと左脚を引きずるように街の方へ逃げる術者の姿が見えた。


「幽麻! 逃がすな!」


 凪はそう言うと幽麻はグラサンをかけたまま「スピードスターバンブルビー!」と叫び、閃光を迸らせて、術者の後を追った。

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