10 思い出しました
「……?」
扉から覗く顔は、
ルウェリン公爵夫人レナエルの祖国デュヴァリエ帝国もなかなか東方の国であるのだが、黒髪黒目は滅多に見られないだろう。更に東方の国の娘だと思われるが、遥か南西のスラーヴァにいるということは……奴隷として売られて来た可能性がある。
可哀想なのだが、ここで満足に食べられているからか頬は痩せこけていないのだ。相当ここの待遇は良いということなのだろう。
「ねぇ、あなた……どこの国の人?」
「えぇと……わたくしは、ヴィクトリアと申しますわ。北の国の出身です。どうぞ、およろしくね」
「ふーん。北っていうと、シンクレア?」
「えぇ、そうですわ。貴女は東方の国の方でしょうか?」
「……んーと、よく分かんないの。みんなそう言うけど、小さい頃のことはあんまり覚えてないんだ。お優しい
何の感慨もなく言ってのけたこの子に、同情を感じる余裕が無いほど動揺してしまった。きっと、自分が奴隷か娼婦として売られることが分かっていたからだろう。ほんの少し話しただけで、その聡明さに惹き付けられそうだ。
「あっ、言い忘れてた! 私は
「でしたら、わたくしのこともヴィーラと呼んでくださいましね。フィーナ」
「うん! よろしく、ヴィ――」
「――フィーナっ!! どこにいるの!?」
「ひゃっ、クラーヴディヤさん!?」
おどろおどろしい声が聞こえて、フィーナが飛び跳ねた。クラーヴディヤというのが誰か分からないが、敬称をつけるほど修道院の中でも偉い人物なのだろう。名前からして、女性。その中で偉いということは――。
「ごめんなさいね、ヴィクトリアさん。名乗り忘れていたけれど、私がクラーヴディヤ・イヴァノヴナ・バルスコフ、カタルシス教会の修道女長です」
「改めまして、ヴィクトリアと申します。本日よりお世話になりますわ。よろしくお願いいたします」
彼女こそ、教会内ではほぼトップの修道女長だ。神父もいるのだろうが、何故だか彼女の方が敬われているのだと予想できる。
それにしても改めて畏まった挨拶をすると、令嬢として厳しく躾られていたことも思い出した。失敗すれば折檻を受け、相手の望むままに令嬢として
そして、極稀に市井に追い出されるようなこともあった。父母の怒りを買い、殿下のご機嫌を損ねたと勘違いされたとき。そう。さっき思い出しかけて、何かがすっぽり欠落していたのは。
――私が市井に追い出されたとき、傍にいたのは、メレディスだ。
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