第27話 進化したものとは?
埼玉スーパーアリーナ
「「ぷっぷはっはははは」」
俺が弱気なのが珍しいのだろうか。よく分からないが本当にゲラゲラと笑うジュニア生。
「そんなに面白いですか....」
はぁ、まぁ.....そこまで笑ってくれるなら普段から少しおちゃらけるくらいがいいのかもな。
高嶺の花みたいな、孤高のリーダーではなく人間味あるリーダーを目指すべきだろろう。
完璧過ぎる人間がチームにいると頼り過ぎてしまうし、個人的にもっとみんなと仲良くなりたい。
時々距離を感じてしまうのは俺が女々しいからだろうか。なんか俺に対して上級生すら一歩引いた対応なんだよな。
正直寂しい。分け隔てなく接してくれるのはジュンだけだ。マイベストフレンドでいいよね?
アホな考えを止めるとチームメイトの緊張感が緩和されたのを感じた。
「ひぃはっははははは」
おい、笑い過ぎだお主。どんだけ笑うんだよ。
実際、下部組織に属するが故の圧を跳ね除けるのは並大抵の精神力では不可能だ。
本当に小学生なのに凄いよこいつらは。
まだ少し緊張しているみたいだが先ほどより幾分か良くなっている表情をみて感心する。
純粋にサッカーを楽しんでいるのかもな。
俺とは違い【スキル】の補正がないにも関わらずここまでのメンタリティ。こういう所を見習いたいな。
こうした周りの影響からか【努力★】に依存した、能力ぶら下がりを止めたくて最近は座禅に力を入れている。
今まで累計時間にカウントされないどころか、【努力★】にさえ全く表示されずにいた。
半ば諦めかけていたがやっと座禅がステータスに表示されたのだ。
モチベーションも右肩上がりで最近は毎日30分ほど座禅を組んで精神統一をしている。本来は40分から一時間ほどらしいが。
累計時間千時間に達するのにはまだまだ時間がかかってしまう。
毎日30分やったとしても一年でたったの182.5時間だ。
【スキル】を得られるのが6年後でも、毎日行うことで変な力みは取れるだろう。
精神統一する方法を持っているのは良い。日ごとに人間の心情は変化し苛立つ日もあれば悲しい日もある。
プロを目指しているものとしてはプレイ中は余計な感情を削ぎ落とすべきだ。
また座禅のやり方は仏教を信仰しているお父さんから教わった。大切にしていきたい。
ピッという笛の声で思考の海からすくいあげられた気持ちになる。
音の発生元に視線を向けると目下では四つのクラブがすでに試合を始めていた。
大人用ピッチと比べて半分くらいのサイズであるため、区切って複数の試合を同時に行なっている。
また近くのピッチを貸し切っているため、試合の消費速度は中々のものだ。
他会場での試合を割り振られたクラブは開会式終了後移動しなくてはならないが...。
俺らは運良く埼玉アリーナなので移動しなくていい。
しかしその代わり、かなり待機しなくてはならない。
なぜならば浦和ジュニアはシード権を得ている。二回戦まで全ての試合が免除されるのだ。
今日は過酷な日程ではない。
勝ち上がってきたチームと1試合すればいいだけ。歴代の先輩達に感謝しなくてはいけないな。
因みにシード権というのは競技大会などで有力なチームに予選会の免除や大会序盤の試合免除をする権利だ。
取得条件は競技によって違う。それでもとても魅力的な権利だ。高校サッカーでは県大会準決勝まで免除されたこともある。
しかし少年サッカーの場合シード権取得条件は厳しく、免除されたとしても予選試合の序盤数試合が御の字だ。
ん?監督が電話を終えてこちらに戻ってきた。
「今から対戦相手の試合を観に行く。あまり騒がない様にしてくれよ」
「「はい」」
監督に連れられ対戦する候補者達を見やすいところまで移動。かなりの接戦で試合状況は拮抗しているみたいだ。
しかし、二つのクラブが繰り広げている試合を観て自然と緊張が取れていく。残りの19名も力みが取れ始めた。
過度な緊張が取れ、会話もちらほら聞こえてくる。
いい傾向だ。試合前から先程みたいな緊張をしていたら本番バテてしまう。
性格が悪いわけでも、傲慢なわけでもない。相手の力量を測れるくらいには練習を積んできた。
また同じ成長期を過ごすゆえに、短い期間であっても戦術や戦略を学ぶだけでこの時期の子供は圧倒的なスピードで成長する。
もちろん誰一人として油断はない。しかしどちらが勝ち上がろうと余程の事がないかぎり負けないだろう。
ジュンと雑談しながら次の対戦相手であろうチームを観察する。大体の癖や相手選手のレベルを把握した現在、試合は後半10分2−0で鴻巣田SCが勝っている。
前半はかなりの接戦だったものの、鴻巣田SCが小柄な選手を交代で入れた瞬間雰囲気がガラリと代わり、立て続けに点を取った。
後半は守りを固め、ペナルティーエリアに全く近付けさせない。
この試合は決まったであろう。終わったらすぐに俺らとの試合が待っている。
知らない人も多いが、少年サッカーの公式試合は前半と後半15分ずつの試合で勝敗が決まる。
正確には15分から20分で年齢や試合の数によって時間が変わる。今回は新人戦ということもあり、15分だ。
ハーフタイム、休憩時間はの10分以内。計40分で試合が終わる。
そのため、すぐに次の試合が行われるのだ。
おっ勝ち上がったのはやはりあの小柄な31番がいる鴻巣田SCか。秘密兵器なのだろう。
才能はある、だが正直我が浦和ならベンチ入りもできないレベルだ。全く脅威ではない。
舐め腐っているわけではない。
浦和はどの世代もかなり強い。6年生が出場しないにもかかわらず全国ベスト8に進むくらい優秀な選手がたくさん在籍している。
その為、どのスタイルの選手を試合で見ても上位互換がチームメイトにいるのだ。今のところだが。
『浦和ジュニア対鴻巣田SCの試合を30分後に行います』
アナウンスが流れ、次の試合の予定が伝えられる。先ほどのおちゃらけた雰囲気が消え去り、皆アップを始める。
まずは念入りにストレッチを行う。【可動域】で外力による損傷率は半減するが筋肉をしっかり伸ばすことは大切だ。
試合前にステータスのチェックでもするか。
「....ステータス」
ーーーーーーーーーーーーー
名前:二宮ケイ
年齢:9歳と2ヶ月
スキル:
【努力★】
-身体操作 25299時間
・【精密操作】(1/5)
・【ゾーン】 (1/5)
-サッカー 17768時間
・【空間把握】(3/5)
-勉学 1954時間
・【理解】UP (2/5)
-水泳 1264時間
・【可動域】 (2/5)
-テコンドー 632時間
-合気道 636時間
-座禅 NEW 10時間
【最先端サッカー学】(2/5)
【超器用】NEW(1/5)
ーーーーーーーーーーーーー
1ヶ月前よりだいぶ表記の仕方が変わった。【理解】が成長したことによって熟練度がステータスに表記されたからだ。
今まで見えていなかった熟練度もはっきり数字として可視化している。3歳から鍛えている【精密操作】はまだ熟練度が1/5なのがかなりショックだ。
本当になんでだよと言いたい。おい【理解】しっかり熟練度表示しているのかよ。
はぁ、考えられる理由は体が成長しきっていない為の制限がまだ続いているからだろう。
現在の解放率は83.194%だ。人間の脳は10歳でほぼ成長を終えるからあともう少しでフルの【スキル】を使えるだろう。
【精密操作】は残念だが、他にもう一つ楽しみがある。【超器用】を実戦で使うことだ。想像するだけで体が熱を帯びる。
発現後のミニゲームで成功した技を試してみたい!早く始まらないだろうか。
気持ちの高ぶりを感じたのでどっかのテレビで観た自己暗示を行う。
「ふぅ.....落ち着け...俺ならできる」
効果なくないか?
余談だが【スキル】の進化前と進化後の効果だ。
【器用】器用値に補正。また使用者の身体や扱う物に対してや技術習得に1.1倍の補正。
⇩⇩⇩⇩
【超器用】器用値に補正(大)。また使用者の身体や物に対してや技術習得に1.2倍の補正。ただし一つの項目に限り1.3倍の補正。随時項目変更可能。
《項目設定は【サッカー】です。変更しますか? Yes/No》
おっと、もうあと数分で試合が始まるみたいだ。ここまで長かった。空気を吸い込み、吐き出す。ルーティンである指ニギニギをして緊張をほぐす。
監督が手でこちらに来いと指示してきたので近付くと俺に耳打ちを始めた。
「あまり気にしないで好きなようにサッカーを楽しんで来なさい。それとキャプテン、円陣忘れないこと」
あっそうだ。俺はキャプテンなんだ。初試合に浮かれ過ぎていたみたいだな。
「....わかりました」
あまりの自覚なさに俺の羞恥心は限界突破だ。
「あと二宮は点差が付いたら引っ込める。初戦は出来るだけ多くの者に経験させたいからな」
む。まぁ...しょうがないか。頷いて監督の指示に答える。
「.....みんな。集まって肩を組んでくれ。円陣だ」
「「おう」」
「皆やる気が溢れていることは分かっている。だが一つ聞かせてくれ。俺らは誰だ!」
「「浦和ジュニアだ!!!」」
「もっと声を出せ!俺らは誰だー!!!」
「「浦和ジュニアだー!!!!!」」
「絶対勝つぞー!!」
「「おう!!」」
無事鼓舞できたといいが。いや上出来だと思うことにしよう。
なんせ大なり小なり俺らは浦和の名前にプライドを持ち、エリート意識が蔓延している。
それを誇示するのは醜いが勝ち続けている限り大きな力となるだろう。
名前を背負っている以上負けられないという彼らのプライドを刺激したのだ。
加入1ヶ月でここまでの大和魂ならぬ浦和魂を宿している。
ふと視線を感じたので前を向くと、少し離れた所に生意気そうな31番が自信満々に胸を張っている。
先ほどの試合で2ゴール決めたからだろうか。
「お前ら浦和を倒して日本全国に俺の名前を広めてやる。覚悟しろ。そこのチビ聞いてるか?」
こいつ.....自分でも額に青筋が立ったのを感じた。
井の中の蛙という言葉を教えてやろう。徹底的に。
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