166話 vs純血種?

頭の中で何者かの声が木霊する。

重たい瞼を開くと、青白い光が空間を照らしていた。


中央には巨大なクリスタルが明滅を繰り返している。


…ここは。


既視感がある空間を訝しげに見つめていると、背後に気配が生じた。

だが、浮遊感に襲われている体は自由が効かない。


——ソウナノカ


頭の中に響き渡る何者かの声。


そして、


「お兄ちゃん?」


景色が霞むと同時に浮遊感から解放された。

目の前にはシスが立っており、不思議そうに私を見やっている。


周囲を見渡してみる。

先程の光景は霧散し、旧文明の廃墟と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。


「…ここは?」

「なに、ぼーとしてるのよ」


見晴らしの良い広場のようで、冒険者ギルドの大部屋と同じような魔法陣が地面に描かれ、中央には小さなクリスタルが青白く光っていた。


「旧都でしょ?お宝はどこかなー?」


シスは無邪気な笑みを浮かべて辺りを見渡した。


トンッ


その時だった。

一筋の黒い光が彼女の胸を貫いたのだ。


「え?」


戸惑いの声と共にシスが崩れる。

体が前に傾き、支えを失い地面に這いつくばるように倒れてしまった。


その光景を呆然と見つめていたが、すぐに我に返ると斜線を切るように体を捻った。

そこに先程と同じ光が凄まじい速度で襲ってくるが、横にローリングで回避する。


直後、轟音と暴風が吹き荒れた。

地面を滑るように転がるのを止め、状況を確認しようとするのだが、


ドゴォォン!!


息もつかせぬ間に、男が吹き飛ばされてくる。


「いいねぇ、いいねぇ」


瓦礫に埋もれた身体をゆっくりと起こし、男は口元を歪めて笑った。

それは先程すれ違った冒険者の一人だ。


半身に紋様を宿し、額からは角が突き出ている。

そして、そんな男の前に全身を赤黒い紋様に侵食された少年が舞い降りた。


「ご先祖様の力をもっと見せてくれよ!」


男は叫びながら、紋様を宿した右手を振りかぶるのだが、少年から漆黒の光線が次々と放たれる。

それは大地を焦がし、砂煙を上げながら放射され続けた。


「…こいつが純血種か」


何発か直撃を受けた男は、口から血の塊を吐き出し不敵に笑う。

そして、最小限の動きで漆黒の光線を回避すると少年の頭を掴んだ。


「今度は逃がさねーよ!」


男は右手に魔力を込めるのだが、


ドゴォォン!!


全方位に放射された漆黒の光線と爆発が空間を支配した。


…消し飛びましたか。


そこには言葉も発せず、表情一つ変えない少年が平然と立っていた。


「…なんなんですかね」


倒れたシスに視線を向ければ、周囲の濃い魔素を喰らい尽くすように空間を侵食している。


「…まあ、楽しそうですね!」


右手に魔素を込めると、少年に向かって薙ぎ払った。

見えない刃が少年の身体を切断する瞬間、彼はそれが見えているかのように身を捻りかわす。

そして、間髪入れず漆黒の光で応戦してきた。


…試してみるか。


私は右手でそれを弾くように受ける。


「ッ!」


少しの痛みに顔をしかめた。

だが、この程度の威力なら…。


先程の男のように最小限の被弾で距離を詰める。

少年の表情は変わらない。


そして、懐に潜り込むと右手に魔力を収束させ、全力で叩き込んだ。


グチャ!!


皮膚を突き破り内蔵が潰れる音が鳴り響く。

だが、血が滴る事はなかった。

そして、貫いた右腕を引き抜くと同時に左手から魔力を放出した。


バアァァァンッ!!


少年の体が後方の瓦礫に吹き飛ばされる。

しかし、その表情は何一つ変化しない。

欠損した身体が、糸の切れた人形のように倒れているだけだ。


ズサッ


念の為、首を落としてみても変化はない。


「弱いな…ん?」


虚しく呟いた私の視界に二人の男が映る。


「おいおい…マジかよ」


服は破け片足を引きづりながら、男達は驚愕の表情でこちらを見つめている。


「…ガーディアンの仲間割れか?」

「やれるか?」

「はは、やるに決まってんだろ」


そして、満身創痍にも関わらず不敵な笑みを浮かべて魔力を込め始めた。


「…勘違いなら言っておきますが、冒険者ですよ?」


魔族というのは馬鹿なんですかね。

戦闘狂とも思えるその好戦的な姿勢に苦笑いを浮かべ、両手を空に向ける。


「…おい、ガーディアンは喋れないはずだよな?」

「ああ…さっき広間にいたやつじゃないか?」


男達は怪訝そうな表情を浮かべ、何やら話し込んでいる。


「…ガーディアンとは、これですか?」


そんな男達を他所に、私は糸の切れた少年を指差したのだった。


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