183話 終末の気配

王都エルム 中心区 会議室


気持ちを落ち着かせたクリスは、会議室へと向かった。

筆頭宮中伯から、召集があった為だ。


敗走の知らせが駆け回ったのか、王宮内の人々は慌ただしく行き交っている。


クリスも第四城壁で、いつものように兵士を鼓舞していた時に、敗走した兵士達から話を聞いたらしい。

その情報が今、王宮内を駆け回っているのだ。


そして、会議室には、王女殿下とその後ろにカカシの仕事に復帰した私。

それと対面に座る、筆頭宮中伯のみであった。


「こんな事態に、皆遅いではないか」


クリスが溜息を漏らす。


「我らのみでございます。他の者は来ません」

「どういう事だ?」


筆頭宮中伯の言葉に、王女殿下の声色が変わる。

その言葉をかけられた男は、特に顔色を変える事もなく、


「第二王子殿下が、継承権を放棄致しました。それを聞いた宮中伯達は、まあ、思い思いの行動に出たのでありましょうな」


ある宮中伯は貴金属を身につけて、王都を脱出しようとしている。


ある宮中伯は、亡き王に想いを馳せ、有志を募って自分達で王都を守ろうとしている。


そんな事をいつもどおり、淡々と筆頭宮中伯は述べた。


「私には、ついて来れぬか」


継承権1位に繰り上がった第二王子が、それを放棄するというのは、クリスが次の王になる事を意味する。


第二王子の奇行に、クリスは少し驚きながらも、宮中伯達の選択に理解を示した。


「それで、そなたはなぜここにいるのだ?」


クリスは冷静な声色で、筆頭宮中伯に問いかける。


「私は、王家に忠誠を誓った者です故」


また当たり前の事を言うように、淡々と彼は答えた。


「そうであるか」


少し嬉しそうに呟く。


「現在、敗走した兵士達からの情報をまとめております。斥候は放ちましたので、敵の情報は暫くすれば入ってくるでしょう」


いつものように語る筆頭宮中伯。


「差し迫った問題は、敗走の情報が、王宮内から市民街までに漏れている点でしょうか」


痛々しい姿の兵士達の姿は、隠せるものではないのだ。

そして、その情報は国民や市民へ瞬く間に広がる。


「その対処は、お兄様…」


反射的にそう言いかけて、第二王子は継承権を破棄した事を思い出した。


そして、椅子から立ち上がると、


「そなたは、そなたの仕事をするがよい」


筆頭宮中伯に声をかけながら、扉の外へと向かう。

私もその後に続く。


「殿下はどちらに?」

「お兄様に会ってくる」


彼女はそう言い残し、部屋を出た。

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