114話 受付嬢と情報屋
傭兵の街
苔に覆われた城壁と、ひび割れた石畳の道。
城門近辺のメインストリートだというのに、人通りはまばらであり、歩いているのも帯剣した傭兵達。
そんな異質な街の入り口には、一軒の食事処兼酒場が建っていた。
その店先には、先程の傭兵達とは更に異質な受付嬢の制服を着た少女が、葡萄酒を片手に真昼間から、空に向かって乾杯をあげている。
長い黒髪に黒目。
誰もが振り向くような端正な顔立ちと、可愛らしさを残す背丈。
ただ、その瞳は他者を寄せ付けず、右手と首筋に刻まれた刺青のような紋様は、この街に相応しい異質さを放っていた。
「やはり天気の良い日は、外で飲むのが気持ちいいですね」
私の横でエールを楽しむ、情報屋のアンナに語りかける。
「アリスはいいよねー、食いっぱぐれしない仕事でさ」
アンナは、半分ほどに減ったジョッキを見て、呆れたように答えた。
「それなら、何か面白い話を、聞かせて下さいよ」
「一昨日も、同じ事言ってたわよ。そんなに新しい情報が入る程、この街は広くないのよねぇ」
彼女が言うように娯楽が少ないのが、この街の欠点であった。
特に私の場合は、公衆浴場も娼館も、この外見では通えないから尚更だ。
「私も傭兵に転職して、他の街にでも行きますかね」
「アリスが剣を振る姿なんて、想像もつかないわ。それに他の街に行っても、今より給料の良い職場なんてないわよ」
私の腰の剣に目をやりながら、何贅沢な悩みを言ってるのと、アンナが頬をつついてくる。
そして、何かに気づいたアンナは、ツンツンしていた指先を手のひらに変え、私の頬を撫でてきた。
「なんですか?」
「アリスはこの街に来て、どれくらい経ったんだっけ?」
「1年と少しですね。先日、18歳になりましたよ」
その言葉を聞いて、アンナの顔が歪む。
「えぇ!?18で、このプニプニの肌なの!?」
先程より、頬を撫でる手に力がこもる。
「背だって顔立ちだって、会った時と変わってないし…」
「うるさいですね。背は、気にしてるんですよ」
ここが、私の成長限界だとは思いたくない。
そんな風に、いつものような休暇を楽しんでいる時だった。
城門近辺にいる傭兵達が、騒がしくなっているのに気づく。
「なんですかね?」
城門の先に目を凝らすと、灰色のローブを被った人影と、そのかなり奥には、甲冑を着込んだ騎馬兵が砂埃をあげて、傭兵の街へと迫っていた。
「飯の種かな?」
アンナの呑気な一言に、この街らしいなと思うのであった。
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