第86話 獣人とくーちゃん
騎士団から逃げた森の中。
簡易的に造った見慣れた土壁に、差し込む光。
その眩しさで、私は目覚めた。
藁の寝袋に少しの寒さを覚え、ルルとフィーナの寝袋の方を見る。
剣で引かれた境界線の先に、銀髪のハーフエルフは不思議そうな顔で、こちらを見ていた。
ルルの姿はない。
「お、おはようございます、ご主人様」
二人の少女の体温で温められた寝袋の中から、銀髪の美少女が飛び出すと、こちらへ駆け寄り両膝をつけ、頭を下げる。
フィーナの方か。
「ああ、おはよう」
ご主人様とはなんだ?と聞こうとした時、
「…朝から、始めるわけではないですよね?」
土壁の入り口から、ルルが顔を出す。
「何をです?」
「名無しさんは、個室が好きらしいではないですか」
軽蔑の目を向けられ、何か大きな誤解をされてるとだけ理解する。
違うならいいですとルルは言い、目覚めたフィーナに向かい合った。
「名無しさんの仲間のルルです。これから、仲良くするのです」
「よ、よろしくお願いします」
初日とは違い、ルルの差し伸べた手を握る。
「随分、素直になりましたね」
「くーちゃんが、もうだいじょぶって言ってるの…ます」
「普通に話していいですよ」
変な敬語に、思わず笑みがこぼれる。
このハーフエルフは、見た目より随分中身が幼いらしい。
俺達の会話を聞いていたルルは、微妙な顔をしている。
「クロードに代われるか?」
その問いかけに、彼女は瞳を閉じ、
「フフフ…ハーハッハ!儂の名はクロード・アークリッチ…」
「知ってるから」
六芒星に輝く瞳に、思わずツッコミを入れる。
いちいち名乗りをあげないと、気が済まない性格なのだろうか?
「この子?が、クロードですよ」
困惑した表情のルルに、紹介をする。
「おぉ、獣人の娘よ。お主の横暴な振る舞いに怒りを覚えた時もあったが、よいものを見させてもらったぞ。お主には、感謝しておる」
クロードから差し出された手を再び握り、ルルはまた困惑した表情になっていた。
「さて、フィーナとクロードの関係というか、あなたの正体を教えてもらえますか?」
私は六芒星に問いかけた。
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