第57話 スカイブルーの少女 改稿

奴隷市場


「お久しぶりです。よくわかりましたね?」

「クロくん、身長は少し伸びたのかな?でも、顔は変わってないもん」

「…身長はだいぶ伸びたはずです」


最後に分かれた時は同じくらいの背丈だったはずだ。

だが、今は俺より少し高い位置に目線があった。


…彼女が高身長というわけではない。

俺が可愛らしい少女の背丈という現実があるだけなのだ…。


「…っていうか、何その口調と服装。女の子みたいで気持ち悪いよ」

「…うるさいですね」


二年近くもアリスちゃんとして過ごしたんだから、仕方ないだろう。

マリオンはそんな俺達を少し離れた場所で眺めていた。


時は少し遡る。


「…クロくん?」

「…あぁ」


懐かしい呼び名に、思わず反応する。


「やっぱり、クロくんなんだね!」


俺の反応に確信を得た彼女は、こちらに駆け寄る。


「何かしら?」


そして、反応したのはマリオンも同様であった。

怪訝な表情を浮かべる。


こちらへ不用意に駆け寄る少女に対して、女騎士が主人の前に出た。

不穏な空気が一瞬流れ、


「失礼」

「うわぁ!?」


青髪の少女の肩をつかんで、制止させたのは赤髪の女であった。

縮地を使ったのかと思う程、一瞬で少女の後ろに立って右手をかけている。

それだけで少女は、硬直したように動けなくなっていた。


「知り合いなの?」

「…ええ」


マリオンの言葉に短く返す。


「…そう」


彼女は小さく頷くと俺から視線を外した。


「ガレオン子爵とお見受け致します。うちの弟子が、失礼を致しました」


そう言うと、マリオンに向かって頭を下げた。


「あら?あなたは…」


マリオンは、その顔に見覚えがあったようで、


「…紅蓮のフレイラでは?」

「…はい」

「ここにいるという事は…参戦、感謝致しますわ」


名の知れた傭兵のようで、護衛の騎士達はあれが紅蓮なのかと囁いている。


不穏な空気が消えると、俺達が同じ奴隷商人の屋敷にいたという事がわかり、二人で昔話でもしてきていいわよと、マリオンの許可が降りたのだった。


そして、今…。


「クロくんは、貴族様に仕えているんだね。その格好は護衛の変装なのかな?」


スカイブルーの少女はニコニコとしている。

久しぶりに会えた事が嬉しいらしい。


だが、俺の口調と服装を好意的に解釈したのか、勘違いをしているようだ。


「でも貴族様の護衛剣士かぁ。さすが、ボクより強かっただけはあるよね」

「いや…」

「ボクもお師匠様から、かなり凄いって言われてるんだよ?」


昔より言葉遣いが荒く、少年のような口調。

…相変わらず人の話を聞かない所は変わっていないようだが。


「護衛でもないし剣士でもない」

「えぇー?」


信じられないという声が響いたところで、マリオンに手招きされた。

あちらはあちらで、女傭兵との談笑が終わったようだ。


「マリオン様から呼ばれた。戻らないと…」


そう彼女に告げると、


「…クロくん、またボクの名前呼ばなかった」


スカイブルーの少女は、悲しげに呟く。


俺は彼女に手を振り、


「またな、アイリス」

「…うん!」


スカイブルーの少女は、満面の笑みで手を振り返した。

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