白花城の伝説?
「ふふ、さっきこれの前の巻、返却してたから。これも、さっき返ってきたで、今ちょうど棚に戻そうとしてたんだ。そしたら、白羽さんがこっちに来たから、これを借りたいのかなと思って。余計なお世話だったかな?」
ちょっと照れくさそうに言うのがまたかっこいいんですけど……!ドキドキしちゃう~。
っていうか、先輩ってば「王子さまはネコでした」の、王子さまの
「いえ、探そうとしてました。 ありがとうございます」
「よかった。じゃあ、これ貸し出しカード書こうね」
そう言うと、先輩は「返却図書」の箱が置いてある机まで歩いていった。わたしもトコトコと後をおいかける。
「はい、これ」
先輩が机に置いてある鉛筆と、本の後ろにはさまれてる貸出カードを取り出して手渡してくれた。
「ありがとうございます、
「あはは、
「えっ! は、はい。じゃあ、紫苑先輩、先輩も、ミントで大丈夫です!」
「そう? じゃあ、ミントちゃん」
「えへへ、何だか照れます」
ドキドキしながらカードに名前と、今日の日付を書いてはさむ。紫苑先輩は、貸出の記録を書くノートを取り出してわたしの記録をメモしている。
「はい、これでOK。どうぞ」
「ありがとうございます」
先輩から本を受け取って、頭を下げると、机の上に、何だか古くて難しそうな本が積んであるのが見えた。
タイトルが「白花城の歴史」「白花の里・民間伝承」「白花町史」……どれもこれも……
「すごく難しそうな本……」
「え? ああ、あはは。好きなんだ、こういうの。父さんの影響でね」
「えっ! 紫苑先輩が読んだんですか?」
「うん、まあね」
照れくさそうにしながら、紫苑先輩は「白花の里・民間伝承」という本を手にとった。
「これね、この辺の地域に伝わってる
パラパラと先輩の細長い指がページをめくる。
ぱっと開いてわたしに見せてくれたページには、挿絵が載っていた。
白い巫女さんっていうのかな? お正月に神社に行くといるお姉さんみたいな着物姿の女の人と、その人のとなりに白いキツネが描かれたイラストだった。
「これ……?」
白いキツネって、何だかヨジロウを思い出すんですけど……。
「昔、裏山に
「へえ~! 神さまの使いですか!」
じゃあちがうや! うん。ヨジロウ、神さまの使いっぽくないもの。あ、でも、家神さまのお社にいたんだよなあ。うーん……。
「そう言えば、今朝、校門のところで白いキツネが神社に入ってくのを見たんだよ」
ドッキーーーー!
「ミントちゃんも見た?」
「あ、えっと、ええ、まあ……チラっとだけ……」
「そっか。僕すごく興奮しちゃったよ。もしかしてこの伝承の白キツネなんじゃないかって思って」
「そ、ソウデスネ~」
うっ! ごまかすのが下手すぎて変な口調になっちゃった。
「あ、ごめん、興味ないよね、こんな話」
先輩が
「あ、いえ、そんなことないです! わたしの友達も、不思議なお話とか大好きだし!」
「いいよいいよ、無理しなくて。じゃあ、僕あっちの本棚に行くから、ゆっくりしていってね」
「あ、あの! ほんとに、無理してないですから!」
「ありがとう。それじゃあね」
紫苑先輩はそう言うと、そっとくちびるに人差し指をあてて「しずかにね」ってジェスチャーで伝えると、そっと微笑んで向こうの本棚に行ってしまった。
あああ……わたしのばかあ……きっと傷つけちゃったなあ。
わたしは自分を責めながら、トボトボと図書室を出た。
図書室のドアを出てすぐのところ、廊下にも本棚があって、そこには今月の図書委員のオススメ本コーナーがある。
何気なく見てみると「日本の神話や伝説を読んでみよう」というポップがついたコーナーがある。これってきっと、紫苑先輩のオススメなんだろうな……。
あ~あ……ほんっとにバカだなわたし……言葉がうまくでなかったからって、人を傷つけちゃうなんて……。
「はあ~」
「何のため息だ?」
「わあ!」
突然、背中から声がした。
声の主を探すと、足元にまっ白なキツネがちょこんと座っていた。
「ヨジロウ!」
はっ! いけない大声出しちゃった!
紫苑先輩が気付いてヨジロウを見たら、大騒ぎになっちゃいそうじゃん!
いや、むしろ神さまの使い感ゼロの
慌てて口を抑えると、本棚の向こう側、皆がほとんど通らない廊下の奥の方にヨジロウを抱えて小走りで移動した。
本棚に隠れるようにして、しゃがみこんで小声で話す。
「ヨジロウったらどこ行ってたの? 学校の中歩きまわってたら捕まっちゃうよ」
「城に行ってたんだ。いっときはねぐらだったからな」
「へ?」
「それより捕まるとはなんだ。入り口にいたやつは、おれにおにぎりをくれたぞ」
入り口って、もしかして警備員のおじいさん? ああ……確かネコが好きで、迷い込んだノラネコにこっそりお弁当あげてたことあったっけ。
「もう、ヨジロウ、どこから見てもネコかなんかにしか見えないんだから。校内に動物がいたら、その警備員さんが怒られちゃうよ」
「む。動物がいたらいけないのか」
「そうだよ。学校だもん」
「寺子屋だろ」
「いや、それいつの時代?」
「む。違うのか? まあとにかく、動物でなければいんだな?」
ヨジロウはそう言うと、またぼんやりと光りだして、すぐに光の玉になった。
よしよし、スマホに戻ってくれるのね。と、スマホを取り出して差し出したわたしの手を、色白の手がにぎり返してきた。
「ん?」
「これなら問題ないだろう」
「は?」
手は、目の前にいつの間にか立っていた男の子のものだった。
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