決戦!シキガミさま!

 ナツメさんがもえちゃんの腕をつかんで、もえちゃんがわたしの腕をつかんで、三人で走った。川から離れなくちゃ。

 階段を上がって、公園の入口まで避難ひなんしたところで、ものすごい音がして、地面がゆれた。

 よろめきながら振り向くと、ヨジロウがさっきまで立っていた場所に、カワグマのカマが生えていた右腕が突き刺さっている。

「う、うそ……ヨジロウ? ヨジロウは?」

 思わず一歩、川の方へ踏み出そうとしたわたしの肩を、ナツメさんがひきとめた。

「待って。落ち着いて。無事だ」

「え?」

 わたしがマヌケな声を出したとほぼ同時に、カワグマが両腕をぶんぶんと振り回しだした。まるで、小さな虫が周りを飛んでて、追い払うみたいに。

 そしてその腕を、ヨジロウがひょいひょいとすごい速さでよけてる。走ったり、すごい高さまでジャンプしたり、とにかく速い。目で追いかけきれずに、時々見失っちゃう。

 突然カワグマの頭の横に、ヨジロウの姿が見えたと思った瞬間、ヨジロウがカワグマの頭を蹴り飛ばした。

 カワグマは思いっきり吹っ飛んで、川に倒れ込む。

 ものすごい音と水しぶきに、思わず一瞬目を閉じてちゃった。

 もう一度開けたときには、ヨジロウは川岸に立っていた。

「つっっよ……」

「すっごーーーーい!」

 ドン引きしたようなナツメさんの声と、もえちゃんの黄色い声が聞こえた。

 わたしはというと、あんなに思い切りられたのに、すぐに立ち上がってヨジロウに向かって腕を振り回すカワグマから、こわくて目が離せなくなってる。

 カワグマの腕を、ひょいっと飛んでかわしたヨジロウは、またすごい速さで攻撃こうげきをよけはじめた。もしかして、わたしをトラックから助けてくれたときも、こんな感じで、すごい速さで移動してたのかな?

 またヨジロウが見えたと思ったら、今度はカワグマのお腹に思い切り飛びりをくらわした。カワグマはさっきよりも更に飛んで、倒れ込んだまま動かなくなった。


「カワグマよ。俺たちがお前に手こずったあのとき、お前は全身にかたなじゅうを生やして、たまは飛んでくるわ、斬撃ざんげきは雨あられと降りそそぐは、本当に厄介やっかいだったが、今はその貧相ひんそうなカマ一つ。目覚めたてで動きもにぶい。こうなりゃ俺の圧勝あっしょうだなあ。大人しくあきらめろ」

 はーははははは! って腰に手を当てて笑うヨジロウ……やっぱり悪役みたい。

 と、そのとき、カワグマが突然、すごい勢いで飛び起きて、両腕を川底に叩きつけた。

『オオオオオ!』

 カワグマの大きな声が、空気をビリビリと揺らす。

 カワグマの腕が突き刺さった川底から、こわれた噴水ふんすいみたいに、すごい勢いで水が吹き出してきた。

 ドドドドドドド……

 先月の大雨の増水のときみたいに、すごい音をたてて水しぶきが河川公園じゅうに降り注ぐ。

 わたしたちの方にも届くくらい。

「ね、ねえ、アイツまさか」

 もえちゃんがわたしの肩にしがみついて言った。

「川を溢れさせる気じゃないだろうな!」

 ナツメさんがさけんだ。

 え? まさか……!

 ヨジロウは舌打したうちして、カワグマに向かって駆け出したけど、吹き出す水が、まるで意思を持っているみたいに、ヨジロウの行く先をふさいで邪魔じゃまをする。

 ヨジロウがってもっても、水だからすぐにもとに戻っちゃう。

 ヨジロウが右に行こうとすれば、右の足元から、左に行こうとすれば左の足元からに、バシャンバシャンと音を立てて水が吹き出してくる。

 そうこうしているうちにも、みるみるヨジロウが立っている場所が水に浸かっていく。気付けば、ヨジロウは膝まで水に浸かっていた。

 さっきまでコンクリートの階段が見えていたのに、階段はすっかり水に沈んで見えなくなってる。

「ねえ、ここにいたら危ないんじゃない?」

 もえちゃんが言った。

「ミント、避難ひなんしよう」

「う、うん」


 わたしがもえちゃんに言われて、もえちゃんの顔を見ようとしたときだった。

「キミたち! 何してるんだい!」

 もえちゃんの後ろに、警察官さんが立っていた。

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