第10話
「おい、聞いているか? この墓に二人組が向かって来ているぞ」
「ああ。チッ、よりによって、こんな時に来るとは……夜は俺たち二人しかいないってのによぉ」
英雄の墓場――ここは、偉大な功績を残した英雄たちの眠る場所であり、多くの人間たちが敬意を表す場所である。
そんな墓場を守る墓守たちは、慌てて防衛の態勢を整えていた。
信じられないことに、この地へ向かってくる怪しい影が、二人分発見されたのだ。
偶然ではないと分かっていることから、英雄を踏みにじろうとする愚か者なのは確定している。
「恐らく、貴重な品を横取りしようとしている盗賊だろうな。罰当たりな奴もいるもんだよ」
「楽して儲けようとする魂胆も許せねぇが、英雄の持ち物に手をつけるってのはもっと許せねえ。とっ捕まえて処刑するべきだ」
墓守たちは、怒りを動力源にして武器を持つ。
これまでに何人かの墓荒らしを打ちのめしてきたが、その大半が盗賊紛いの輩であった。
悪魔に魂を売った人間を、正義感の強い二人が許すことはできない。
今回も同じように、捕まえて手を切り落とすだけだ。
墓守の武器を握る手が更に強く握られる。
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「――来るぞ。先手必勝だ」
「――おう」
墓守は、待ち構える形で門の影に潜伏していた。
入ってきた瞬間に、手に持った斧で体を両断する。
一番手っ取り早い方法であり、一番自信のある戦い方だ。
これまでに、この方法で盗賊を何人も葬ってきた。熟練のコンビネーションがあるからこそ、なせる技である。
「――今だ!!」
「――オラァ!!」
二人は同時に斧を薙ぎ払う。
そこにいたのは、どこかで見たことがある男と、娘ほどの年齢である少女だった。
男の方は、見事な反射神経で斧を躱す。盗賊では有り得ないほどの身のこなしだ。
冒険者として名を馳せていてもおかしくない――直感的にそう感じさせられた。
「――フェイリス!」
しかし、少女の方には完璧に攻撃がヒットする。
フェイリスと呼ばれた少女の肉体は、力を失ったように崩れ落ちた。
ほんの少しだけ――墓守の中に罪悪感が生まれるが、命の奪い合いでそのようなことを考えている余裕はない。
慌てて、墓守はその邪念を振り払う。
「……フフ」
腹の中からはみ出てくる臓器を確認しながら。
その少女は死んだ。
残りは男一人。
目をそちらに向けたところで、片方の墓守は体に起こる異変に気付く。
「うおおぉぉぉ!?」
「――ど、どうした!?」
叫んだのは、少女を攻撃した方の墓守だ。
腹を押えてうずくまり、目を見開いて苦しみ悶えている。
男の方が何かをしたような様子はない。
しかし、少女の方も既に死んでしまっており、こちらも何かをした様子はなかった。
「い、痛てぇ……いてぇ――」
そして、フッと魂が消えるかのように墓守は倒れる。
「お、おい!?」
近寄って確認すると――墓守は、腹部から臓器がはみ出るようにして死んでいた。
先程の少女と全く同じ死に方だ。
「お前……一体何をしやがった」
「……なるほど。アリアが言っていたのは、こういうことだったのか……」
「わ、訳の分からねぇことを言ってないで答えろ!」
「《死者蘇生》」
墓守の質問に答えず。
男の方は、何やらおかしな単語を呟いた。
「……ふぅ。ありがとうなの、リヒトさん」
「そういう能力なら先に言って欲しいな……びっくりしたから」
「――な!?」
墓守は驚きを隠せない。
確実に殺したはずの少女が、何事も無かったかのように起き上がったのだ。
腹部を見ても、臓器どころか怪我一つさえ見当たらず、時間が巻き戻ったかのようである。
「く、来るな!」
腰が抜けてしまった墓守は、何とか手の力で二人との距離を離す。
それでも。
せっかく離した距離は、たった数歩で追いつかれてしまった。
「や、やめろ……」
「――アハハ。アハハハハ」
少女はおぞましい笑顔を浮かべながら。
墓守から奪ったナイフを、自らの首に突き立てる。
殺すべき相手が死のうとしているが、墓守はそれを喜ぶことはなかった。
自分に返ってくることを知っていたからだ。
止めようとしても腰が抜け、恐怖で呼吸もおかしくなる。
結局、その自殺を見ていることしかできない。
そして。
二人の視線が集まる中――少女は簡単に命を落とした。
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