ヤンデレとトロール討伐 Ⅲ
翌朝、俺たちはいよいよそびえたつトロールの城に向かった。夜は交代で見張りをしたが、実力差を把握せずに襲ってきたはぐれウルフを数匹撃退した程度で大した魔物は出なかった。オルレアもシオンも強さは折り紙つきなので安心して眠ることが出来たので万全の状態だ。
「城を攻めるには何か策があるのか?」
「本来は誰かが偵察に行ってから何か効果的な方法を考えるのがいいのだろうが、今回は下手に小細工せずに正面からの戦いを挑んだ方がいいだろうな」
この二人はもちろんのこと、俺も隠密や偵察には自信はない。
「では昨日と同じように私が城に大魔法を撃ちこむところから始めればいいですか?」
「そうだな」
魔術師がいないパーティーだが、シオンが攻撃魔法も普通に使っているので全くその穴を感じさせない。俺たちは城がそびえたつ山の麓まで歩いていく。人間の城よりやや造りは荒いが、トロールの図体が大きいからかスケールは一回り大きかった。
高さ三メートルほどの城壁に囲まれ、中には三層の建物が立っている。しかも各階三メートルほどの高さがあり、三層しかないのにかなりの高さになっている。
「ではいきます……エターナル・ダーク・フォース!」
そう言ってシオンはこれまでよりも一際大きい魔力の塊を練り上げる。今まで攻撃魔法を使っていなかった時はまだ本気を出していなかったのか、と俺は彼女の底知れなさに恐れを抱く。
シオンが作り出した魔力の球は直径五メートルほどの大きさに膨れ上がる。不穏な気配を察したトロールがこちらを見て泡を吹いて防御魔法を張るがまるでドラゴンに竹槍で挑むような頼りなさがあった。
魔力の塊がシオンの手を離れると、トロールが張った防壁を軽々と撃ち抜き、そのまま城に命中する。
ドカン、という盛大な破壊音とともに城に大穴が空く。
堅固な城塞の一角がまるまるえぐり取られている様子はまるでスプーンで一口分えぐり取られたケーキのようであった。
すぐに中からドタドタという足音が聞こえてきたかと思うと、中から出てきたのは昨日とは比べ物にならない二メートル以上の巨体のトロールたちであった。しかもそれぞれ粗末ではあるが鉄でできた鎧をまとっており、数も十体近くいる。キングらしき奴はいないが、出来ればキングが出てくる前に全滅させておきた。
「よし、俺が先頭に立つからオルレアはシオンの方へ向かった奴らの処理を頼む。……〈概念憑依〉レーヴァテイン」
俺は剣に魔剣の力を憑依させると、トロールたちに斬り込んでいく。先頭のトロールは慌てて棍棒を振り降ろすが、その程度の動きでは俺には当たらない。俺はトロールの攻撃を潜り抜けて胴体を薙ぐ。
それを見てトロールはニヤリと笑って再び棍棒を振り上げる。俺の攻撃が鉄鎧、もしくは分厚い皮膚に阻まれて当たらず、返しの一撃で俺を仕留めようと思ったのだろう。
「残念だったな」
が、俺の剣はまるで紙でも切り裂くように強固な鉄鎧を切り裂き、さらにトロールの分厚い皮膚をも貫いて、体内に及ぶ。
「ぐあああああああああああああああああああああああっ!」
トロールは断末魔の悲鳴を上げて盛大に血を噴き出して倒れる。俺の体はトロールから噴き出した返り血で真っ赤に染まる。
すぐに俺は次のトロールに向かうが、そこへ両脇から二体のトロールの棍棒が飛んでくる。避けられないこともないが、俺は早期決着を優先してそのまま前方へ突っ込み、目の前のトロールの腹に剣を突きさす。右側から伸びてきた棍棒が肩のあたりにぶつかり、激痛が走る。
「ヒール」
その瞬間後ろからシオンの回復魔法が飛んできてたちどころにダメージを癒す。回復魔法をかけてくれる仲間がいるなら多少攻撃を受けてでも素早く敵を倒す方が優先だ。必殺の一撃がいきなり回復されて呆然としているトロールを返す刀で倒す。
こうして俺は城から飛び出してきた群れを瞬く間に倒していった。ちらっと後ろを見るとそちらでもオルレアが何でもなさそうな様子で二体のトロールを倒している。オルレアに二体は少なすぎたな。
そこへパチパチと手を叩きながら一際大きな王冠を被ったトロールが現れる。身長は三メートル近くもり、手に持った二メートル以上もある棍棒を軽々と手の中で振り回している。また、部下を三人ほど従えている。これが昨日のやつが言っていたキングだろうか、と俺は気を引き締める。
「我が部下たちを瞬殺するとは見事であった。全く、足止めにしかならぬとは不甲斐なき者共だ」
「お前がトロールキングか」
通常魔族は人間の言葉を理解しないが、一部の上位種は知能が人間に近く、言葉も通じる。
「そうだ、こんなところに攻めてくるとは愚かな人間共め。思い知らせてくれる」
「これはなかなかの強敵ですね……セイクリッド・ブレス」
シオンから発された聖なる魔力が俺とオルレアの体を包み、体が軽くなる。攻撃魔法も支援回復魔法も全部使えるとは規格外の強さだ。
するとトロールキングの部下のうちの一人も何かの呪文を唱え、トロールたちの体は黒い魔力で包まれる。あれは魔族用の支援魔法だろうか。トロールはあまり魔法を使う種族ではないので、キングにふさわしく上位種の個体を従えているのだろう。
「面倒だな……オルレア、あの部下の奴らを頼めるか」
「分かった。任せてくれ。だがその前に……“魔斬波”」
オルレアが剣を振ると剣から魔力の奔流があふれ出し、トロールたちに迫る。トロールキングはそれを棍棒で吹き飛ばすが、先ほどかかった支援魔法の黒い光は消滅する。
オルレアはオルレアで出たらめな力をたくさん持っている。改めて俺たち三人であればトロールキングが相手であろうと負けない、ということを確信する。
「おのれ小癪な……」
トロールキングは長い棍棒をこちらに振り降ろす。俺はそれを剣で受け止めるが、ずしりと重い衝撃が両腕を走っていく。見ると剣にはひびが入っていた。
トロールキングの棍棒も魔力を込めて鍛えられた業物なのか、レーヴァテインの力を使っている間に剣にひびを入れるとはなかなかのものだ。
「我が一撃を受け止めたのは見事であるが、その剣も次の一撃で終わりだな」
「仕方ない。ならば、デュランダル!」
俺は次に不滅の刃と呼ばれる魔剣の力を剣に憑依させる。
「これで終わりだ!」
トロールキングは次の一撃を振り降ろし、俺はそれを再び受け止める。
相変わらずすごい力だ。
が、今度はデュランダルのおかげか、先ほどのような衝撃は受けなかった。
「何だと?」
自慢の一撃が受け止められたという感触があったからか、トロールキングの表情が変わる。
「おいおい、その程度でキングを名乗っているのか?」
「おのれ……」
俺の安い挑発にキングの表情が変わる。そして必殺の一撃を放とうとしているのか棍棒に黒い魔力が集まっていく。デュランダルの防御力を打ち破る一撃を放とうとしているのだろう。
しかし残念ながらその威力勝負に乗ってやる義理はない。俺は威力勝負をすると見せかけてキングへの距離を瞬時に縮める。
「卑怯な!」
慌ててキングは棍棒を振り降ろすが、それを跳躍してかわす。
地面にぶつかった棍棒は鈍い音とともに大地に大穴を空ける。あんなのが当たっていたらさすがに無事では済まなかっただろう。だが、威力が強すぎた棍棒はそのまま地面にめり込んでしまっている。
その隙に俺はキングに斬りかかる。とっさにキングはめり込んだ棍棒を放して剣を抜くと俺の攻撃を受ける。こちらも人間が使う剣の倍ほどはある大剣だ。
「〈概念憑依〉レーヴァテイン」
一度の戦闘で何度も概念憑依を切り替えると魔力もけた違いになくなっていくが、今ならキングに俺の攻撃を当てることが出来る。再びレーヴァテインを振り降ろすと、キングはそれを大剣で受ける。しかし例の棍棒ほどの強度はなかったのだろう。レーヴァテインの一撃を受けるとぽきりと折れる。
「これで終わりだ!」
俺は止めの一撃を繰り出す。
「何のこれしき!」
キングは右手を突き出すと何と俺の剣を脇から掴もうとする。キングの右手は俺の剣を確かに捉えた。その勇気と狙いは尊敬するが、レーヴァテインはトロールの右手をあっさり切り裂いてそのままの勢いでトロールキングの巨体に迫っていく。
「ぐはっ!」
次の瞬間、そのままの勢いで俺の剣はトロールの胴体を貫く。
「くっ……我が人間ごときに負けるとは……」
そう言ってキングの巨体はゆらりとその場に倒れた。
「セイクリッド・バリア」
一方、隣を見るとオルレアへの攻撃にシオンが防御魔法を使っていた。部下のうち一体の攻撃は魔法の盾にぶつかる。すでに一体は倒れており、残りは二体になっていた。
その隙にオルレアは魔術師風のトロールに斬りかかる。彼は防御魔法を使うが、オルレアの剣は防御魔法ごと魔術師風トロールを切り裂く。
「あと一体か……魔力斬」
オルレアが剣身に魔力を乗せた必殺の一撃を放つと、もう一体のトロールの鎧と皮膚をあっさりと貫いて倒してしまった。
こうして俺たちはキングとその部下を全滅させたのである。
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