第13話

 両腕と腰にしがみつかれ、胸に体重を預けられる。一歩離れたところで腕を組み、雁字搦めにされる僕を愉しげに眺めているのは彼女達のリーダーなのだろうか。他のJCと比べると髪色が明るく、どことなく大人びた印象を受ける。

 まあ、何でも構わない。

 僕は囮だ。杉石君が逃げられれば、それでいい。

 幸いにも、彼女達は杉石君に興味を示していない。塀に張り付く彼に視線で合図を送り、脱出を促す。

「……すぐ戻る」

 杉石君は苦しそうな顔で言うと、ショッピングモールに向かう道へ走り去った。

 よかった。今度は役目を果たせた。

 あとは、彼女達の攻撃をやり過ごすだけだ。

「ふ」

 リーダー格の茶髪のJCが短く息を吐き、指先で指示を出した。両脇のJCは心得たとばかりに力強く頷き、僕から雨合羽を剥ぎ取る。

「オッ♡」

 夏の熱気に蒸らされた汗の臭いが仄かに香る。男の体臭なぞ不快でしかないはずだが、JCは違うようだ。彼女等は僕の肌に鼻を押し当て、音を立てて息を吸い始める。初対面の犬猫に纏わりつかれるようなむず痒い感覚に身を捩ると、茶髪のJCが正面の子を横に退けて、ぐいと身を乗り出してきた。

「んぶ」

 顎に指をかけられ、無理やりキスされる。触れ合うだけの軽いものではなく、唇を覆う熱烈な接吻だ。

 数日前の僕なら、とっくに落ちていただろう。

 だが、今の僕には、杉石君を無事に逃すという使命がある。固い決意が辛うじて理性を繋ぎ、押し寄せる多幸感を寸でのところで堰き止める。

 舌を入れられそうになるが、歯を食いしばって防御する。侵入を許せば、耐えられる自信がない。じっと覗き込んでくる濡れた瞳も危険だ。惑わされないよう目蓋を固く瞑り、ひたすらに感情を押し殺す。

 舌先が歯列をなぞる。上唇の裏をねっとりと舐め上げられ、一度離れたかと思えば、再び柔らかな感触に包まれる。視覚を封じたためか触覚は鋭敏に働いているが、刺激的な肌色からは逃れられた。グミに口付けしているだけと思い込めば、邪な滾りは抑えられる。

 大丈夫。彼女達が飽きるまで、我慢すればいいだけだ。

 そんな僕の甘い考えは、すぐに改めさせられることとなった。

「えっ?!」

 未知の快感が胸元を走る。反射的に目を下に向けると、先ほど退けられたJCが僕の胸に吸い付いていた。

 乳首を舐められている。シャツの上からではあるが、狙いは恐ろしいほど正確だ。

 獲物の様子を伺うような上目遣い。吸い付く口の中は、吐息と唾液に満ちていて、こそばゆさと生っぽいぬるみが広がる。

 蠱惑的というよりは野生的な光景に釘付けになっていると、茶髪のJCに頬を挟まれ強引に視線を合わせられる。

「ひっ──」

 混乱の隙を狙われた。再びのキスに歯の防御柵は間に合わず、舌の侵入を許してしまう。距離を取ろうにも、腕と腰にしがみつくJC達に阻まれる。

「ふふ♡」

 僕の陥落を確信した茶髪のJCは、喉を震わせて笑った。艶を帯びた眼差しを妖しく細め、舌を奥へ奥へと進ませてくる。

 先っぽが舌の付け根に触れる。普段は意識すらしない場所。彼女の舌が、僕の舌を根本から持ち上げ、口内を舐り尽くすように大きく弧を描く。

「くすくす♡」

 両脇のJCが囀るような声を上げ、シャツのボタンに指をかけた。上から順に一つ、一つと外され、肩まではだけさせられる。抵抗するための両手は、彼女達のお尻にぴたりと押し当てられ、まったく自由が効かない。

「おー♡」

 インナーを捲られ、最後の隔たりがなくなった。胸元のJCは一層熱を上げ、猛烈な勢いで乳首を啄む。こそばゆさは甘い痺れに変わり、快楽に喘げば、茶髪のJCがより深く舌を絡めてくる。汗ばむ体は少女達のきめ細やかな肌に吸い付き、甘美な熱に脳が蕩けていく。

「お゛っ゛?!」

 失いかけていた自我が、唐突な刺激に覚醒させられる。

 尻に顔を突っ込まれた。

 鼻先がふすふすと動き、穴の周りを突いてくる。その度に尿道を押されるような奇妙な圧迫感が走り、膝の力が抜けてしまう。

「ま、待って。やめ」

 尻穴への突撃を止めようと振り返るが、制止の声は口付けで黙らされた。両手は太ももに挟み込まれ、力ではどうにもできないところまで引き込まれている。乳首はJCの唇に隠れて状態は見えないが、腫れぼったい重みがあり、じんじんとした痺れが脳の先まで響く。

「ふふふふふふふふふふふふ♡」

 耳、口、目、尻の穴。ありとあらゆる穴に甘えた笑い声が吹き込まれ、骨の奥まで揺さぶられる。視界の奥がかちかちと明滅し、研ぎ澄まされた感覚が少女の柔肌を全身で分からせてくる。

 駄目だ。このままでは、壊される。

 一つ呼吸をおくたび体に刻み込まれる、拷問じみた悦び。半端に意識を取り戻したせいで、根本から崩壊していく自分をはっきりと理解させられる。

 快楽と恐怖の坩堝に飲み込まれ、溢れた涙を舐め取られた、その時だった。

 ぶおん。

 バイクの排気音が聞こえる。次第に大きく、ぐんぐんと近づいてくる。

「瑪瑙くん!!」

 現れたのは陽光を反射するぴかぴかの黒い車体。

 曲がり角から、中型二輪を駆る杉石君が飛び出した。後輪を滑らせて直角に曲がり、僕等目掛けて一直線に走り出す。

「どけ、化け物!!」

 小路を走る速度ではない。跳ね飛ばすことも厭わない急加速に恐れをなして、JC達が散開する。

「手を!」

 後輪が持ち上がるほどの急制動で僕の隣に停まり、杉石君が手を差し伸べる。考えるよりも先に手を掴むと、そのまま引き上げられ、シートの後ろに座らされる。

「しっかり掴まってろよ!」

 エンジンが唸り声を上げ、フルスロットルで発進する。JC達は追いかけてくるが、力強い加速にはまるで敵わない。あっという間に引き離し、姿は遠景に溶けていった。

 肉欲に屈しかけていた僕はまたしても、杉石君によって助け出された。

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