第39話 ライムは熱くて厚い袋の中
成る程・・・私は捕まったのか。ライムは、理解した。あの別荘の管理人たち。どうやら、レズリ―お嬢様を誘拐する目的で勤めていたらしい。
ライムは毎年の海には行かず、屋敷でレズリ―として過ごしている。
だから今年の管理人がいつもと違うことを見抜けなかったのである。
今年も屋敷にいようと思ったのに、プライベートビーチだから安心だと腕を引っ張られ来てみればこれか。ったくどれだけツイていないんだ私は。
そもそも今年は何故私は海に来させられたんだ。
最初から来たくなかったんだこんなところ。ふざけやがってあの我儘ピンク脳お嬢様が。
ライムはエイズラがレズリ―の写真をぱしゃぱしゃ撮っているのを見て複雑な気持ちになったのを思い出した。
エイにぃとの仲を見せつける為に私を連れてきたに決まってる!
ライムは、イライラして脳が沸騰してきた。
そして、思い出したくもないライムがレズリ―と初めて会った日のことを思い出した。
「初めまして。レズリ―お嬢様の影武者として雇われたライムと申します。普段はメイドとしてもこのお屋敷で働かせていだきます。よろしくお願いいたします」
そう笑顔で挨拶したライムに対し、レズリ―は近くにいたエイズラを見た。
「エイズラ・・・」
弱弱しい女の子の声でエイズラを呼んだレズリ―。エイズラは、ソファで座っているレズリ―の元で歩いてきた。
「はい」
レズリ―はエイズラに耳打ちした。
「かげむしゃって、なに?」
「・・・影武者とは、ですね」
こそこそ何を話しているの。エイにぃの執事服のすそを掴みながら、まるで彼はわたしのものだといわんばかりの態度だと感じたライムは、心の中でレズリ―を睨みつけた。
嫌いだ。私は、この女の子が。憎たらしい。恨めしい。この女の子さえいなければよかったのに。そんなことまで考えた。
嫉妬の炎は絶えず火力を変えず、いや火力は増すばかりでライムの心を焦がし続けている。
それよりこの袋の中・・・。
暑い!この袋の中にいたら死んでしまうぞ。とんでもなく暑いぞ。本当に冗談抜きで死んでしまう。
「んーーー!んーーー!」
暴れてもびくともしない。クソっ、この麻袋しかも分厚いぞ。誘拐するなら誘拐する人間のことを考えて誘拐しろ!
何回か誘拐されるのを経験しているライム。縛られていた縄をすぐに解くと、ポニーテールにしている髪留めの下に忍ばせている鋭利なピンを引き抜いた。
このピンは特別製で、袋くらいなら余裕で切り裂くことができるし、縄も切れる。
完全に男どもは油断しているようだ。
完璧じゃなかったのは、私を誘拐したことだ愚かな男どもめ。
1人で脱出することは可能だ。
「なあ、兄ちゃん」
「どうした弟よ」
「お嬢様、やけに静かになったんだけどもしかして袋の中で暑くて死んじゃったりしてないよね」
「そんな馬鹿な話あるわけないだろ」
「でも、分厚いよこの袋」
勘のいいバカだ。
レズリ―はニヤリと笑った。このまま袋が開いたのを見計らって油断した男の首にピンを突き立ててやる。
「やめとけ」
だがもう1人の男が声をかけた。
「開けたのを見計らって飛び出して来たらどうするんだ。暑くても死にゃしないだろう、そのままにしておけ」
おい、ふざけるな。
暑くて死んだらどうするんだ、季節を考えろ。ライムは心の中で叫んだがその冷静な男が厄介だ。この麻袋を開けて出たいが、バカのせいで袋に注目がいってしまっている。
しかも、さっきの男、暑くても死なないといった冷徹な男が私の一番近くにいるようだ。
開けて出ようものならすぐに捕まってしまうだろう。コイツらを倒すことなら通常は簡単なのだが――。
この馬車に連れ込まれたとき、この男は銃を突き付けてきた。
危険だ、はあはあ息をしながらライムは頭をまわした。
だが暑すぎて上手く頭が回らない。
本当に死んでしまうぞこれは・・・ライムは、どんどん意識が薄くなっていくのを感じた。
レズリ―の顔が浮かぶ。へらへら笑っている。
なんでコイツの顔が浮かぶんだ。浮かぶならエイにぃの顔を出せ・・・ライムは心配そうにこっちを向いているエイズラの顔を思い出した。
エイにぃ・・・あの時の顔と一緒だ。
ライムは、心の中で呟いて走馬灯のように過去の記憶を思い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます