第37話 お嬢様がずっと待っていた海

「ライムー!行きますわよ!」


「はい!お嬢様!」


ライムは、浮き輪やクーラーボックスを持ってレズリ―の元へ走った。


「おい」


後から使用人たちに屋敷のことをみっちり指導していたエイズラが大股で歩いてきてライムに並んだ。


「あぁ、エイにぃ。指導は終わったのか」


ライムが隣で走りながら問いかけると、エイズラは、ライムに手を差し出した。


「それ、寄越せ」


「え、いや・・・エイにぃ沢山荷物持ってるだろ」


エイズラは組み立て式のパラソルや日傘や水着の入ったビニールバックなどを持っていたがライムの持っていたクーラーボックスの肩ひもを掴んで強引に自分の肩にかけた。


「あっ」


「行くぞ」


エイズラはいつも通りクールにそういって沢山の荷物を抱えたままライムの隣を歩いていく。ライムは、そんなエイズラの横顔を見上げた後、ふいっと顔をそらした。

そういうところが、好きなんだよな。ライムは心の中で呟いた。


海に馬車で向かう途中、レズリ―はおおはしゃぎだった。


「現地でジゼルと合流するんですのよ!水着だって購入済みで、凄く可愛いんですの」


レズリ―は、ポニーテールにした縦ロールをふりふりしながらずっと喋っている。相当楽しみだったのだろう。エイズラは、そんなレズリ―の話をニコニコしながら聞いていた。

ライムは、そんなエイズラの横顔ばかり見ていて、レズリ―の話なんて全く聞いていなかった。


「ライム!聞いていますの?」

「え?あ、はい」


突然呼びかけられてライムはハッとして答えた。

レズリ―とお揃いのポニーテールがふわりと揺れた。


「ライムったら、もしかして・・・」


びくっとしたライムに、レズリ―はニヤリとした。

ライムは緊張で心臓がばくんばくんうるさいのを無意識に隠す為か、胸に手を当てた。

今日はなんで無駄に勘がいいんだよ、ライムがはらはらしながらレズリ―を見つめると、


「海が楽しみで寝られなかったんですのね?いいんですのよ、寝て行っても!海までまだ時間がありますもの!」


「へ?」


レズリ―は相変わらずの鈍感お嬢様だった。ライムはホッと安心した様子で胸をなでおろした。


「違いますの?」

「いえ、その通りです」


笑顔で答えるライムに、レズリ―は満足げに微笑んだ。


「ですわよね!」

「ですです」


窓の外の景色は流れるように変わっていく。

青空が眩しくて、ライムはそっと目を閉じた。


***


「おい、起きろライム」


エイズラの声でライムが目を覚ますと、窓からはレズリ―の別荘が見えていた。


「・・・ん?」


「ライム!行きますわよ!」

レズリ―はライムの手をとって走り出した。

双子のような彼女たちだが、影武者をするためライムは成長を止める薬を飲んでいるので実年齢は24歳。見た目はレズリ―と同様16歳といわれても差支えがないくらい可愛らしい女の子だった。

別荘に停めてある馬車を見てレズリ―ぱあっと微笑んだ。


「ジゼルたちはもう到着しているようですわね!」


丘の上のレズリ―の別荘。周りは山林に囲まれていて、丘の下には海がある。山も海も楽しめる別荘であった。

レズリ―は夏はこうして別荘を訪れている。だが、友達であるジゼルを誘って海に来るという事は初めてであった。


「ジゼルー!」


馬車から降りてきたジゼルを見てレズリ―は手を振りながら駆けだした。


「レズリ―!」


ジゼル誘拐に怒ったレズリ―がエヴァ―ルイス家の権限を使いLFの隠れた残党全てを消してしまったほどに、レズリ―はジゼルへの好きが爆発していた。

馬車から降りてきたシスカとマチルダと、そしてエイズラも、そんな2人を微笑ましく見ていた。

ただ1人、ライムを除いて。


別荘からは、男が3人がでてきた。


「お荷物お預かりいたします」


レズリ―は先にジゼルと海に向かっていった。エイズラが荷物をにこにこしている使用人たちに渡した。


「ご苦労様」


ライムは、エイズラの隣でそう言った。

毎年避暑のために数日しか来ないこの別荘を掃除してくれている掃除係の使用人。

前にいた人と変わったのか。エイズラは、じっと男たちを見つめた。


「ありがたきお言葉でございます」


男たちはニコニコして荷物を受け取った。


「私たちも行こう」


エイズラにそういったライムは前を歩いた。エイズラは相変わらずいぶかし気な眼で男たちを見つめて、その後ライムを追いかけた。

2人の背中を見送りながら男たちはニヤリと笑った。

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