第67話 断罪 *カナリア視点

「――――罪人カナリア。此度の騒動についてどう責任を取るつもりか?」


 あれから一週間くらいかしら。

 今、私を罪を裁くための神聖裁判が行われている。

 サンドリオン宮殿の前。多くの国民の前で進行している最中。

 私が起こした騒動は国全てを巻き込んだ。当然国民にも参加資格はある。


「責任とは一体?」


「惚けるな! 貴様の行いによって我が国から聖女は失われた! その責任をどうとるつもりだ!」


「私にできることであなたたちの気が晴れるのは、処刑されることくらいじゃない。責任も何もないわ」


「罪人の分際で何たる不遜。陛下! 今すぐこやつの首を――」


「やめよ。殺したところで何も変わらん。我が国から聖女は失われたままだ」


「しかし!」


「くどい」


 国民たちからも同じ声が聞こえてくる。

 聖女を返せだとか、早く処刑しろだとか。

 自分たちでしたことを忘れたのかしら。

 それも私が仕組んだことなのだけれど。


「姉は戻りませんよ。二度と聖女なんかやるか、って言ってたわ」


「ふざけるな! 彼女はただの聖女ではないのだぞ! 精霊に愛された光の巫女でなのだ! 我が国の宝だぞ!」


「ええ、そうね。あなたたちからすれば姉は代えがたい宝物でしょう。じゃあその宝物を傷つけたのは私だけかしら?」


「なに?」


「確かに私は姉から聖女の力を奪った。そして聖女として振舞った。その聖女の地位が欲しかったから。……今思えばなんてくだらないことをしたのか。でも、私はそれだけよ。偽聖女なんて言って石を投げたのは誰? 嘘つきだと言って水を被せたのは誰? 姉にとってはあなたたちも加害者よ。自覚はあって?」


 私がそう言うと国民のほとんどはバツの悪そうな顔をして俯く。

 身に覚えのある人ほどその胸に罪悪感を感じている。

 よく見ると神に祈り始める人も出てきた。


「そんなものは単なる詭弁だ。それにそうなった原因も全て貴様ではないか」


「そうよ。でもあなたたちは何もしなかった。調べればわかることだったのに、調べることなく私の話を鵜呑みにして、姉を傷つけた。見て見ぬふりをした。無関係だと笑った。それで被害者面してるって笑えないわ」


「そ、それは……」


「だからもう諦めなさい。この国に聖女は二度と戻ってこないわ。そしてこの国に二度と聖女は生まれないでしょう。姉は聖女という地位を捨て、自由を手にした。その自由をあなたたちが奪う権利はない」


 これで全部かしら。

 言いたいことは言ったし、もう思い残すことはないわ。

 処刑でもなんでもしてくれていいのだけど。

 さっきから王様や神官長が静かなのが気になる。


「確かに。私たちが招いてしまった事態というのもまた事実。だが、彼女は我らにとって必要な存在。神の許しなく務めを放棄することは許されません」


「は? 何言って――」


『はいは~い。ちょ~っとお邪魔するわね~』


 突然私の前に羽の生えた美女が現れた。

 もしかして精霊? いや、どうして?


「何ものです。神聖なる裁判に乱入する不届き物」


『あーはいはい。そういうのいいから。アリアのことで話があってきただけなのよ』


「聖女のこととな。一体何用か、精霊の王よ」


 王がそういうとにわかに騒めき立つ。

 精霊王を見る日が来るとは誰も夢にも思わなかった。


『もし、アリアに何かするつもりなら……精霊、神獣、全てを連れてこの国を亡ぼすわ。あまり滅多な事はしないようにね。あたしもそんな面倒な事したくないから』


 姉のためにそこまでするなんて。

 精霊に愛されているってこういうことなのね。

 なんだか羨ましいわ……。


『これはあたしの友人からの忠告だから。じゃあ、あたしの用事を済ませるわ。この子、もらっていくから』


 へ? 

 精霊王に腕を取られ、私は動揺した。

 一体何が起きたのだろうか。





 ――気が付くと私は森の中にいた。






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