第25話 王国の現状
アルフレッド様ってこんなに残念な方でしたのね。
今になって気づくとは、私もまだまだということでしょう。
「貴様ら! 全部聞こえているぞ! 私をバカにしているのか!」
あら。ミシェルとの会話が聞こえていたそうです。
あんなにお顔を真っ赤にして怒っていらっしゃいます。
ミシェルは『聞こえるように言ってるんですよ。バカ王太子~』と、こらこら、煽らないの。
「気に障ったのなら謝罪いたします。ですが、私は王国に戻るつもりはありません。ですので、早急にお帰り願いたいと思っております」
「ふん。貴様の意思など聞いていない。王国ではすでに罪人となっている。逃げ出した罪人を連れ戻すのに理由などいるか」
「罪人ですか……。冤罪にもほどがありますね。私が何をしたというのでしょうか」
「しらばっくれるな! 貴様が仕事を放りだしたせいで王宮は混乱状態となっている。さらに王都を出た記録もない。極めつけは我が国の神獣を勝手に連れていったことだ! 言い逃れはできんぞ」
……やっぱりバカな人なのですね。
呆れて言葉も出ません。
まあ記録についてはミシェルが……いや、ちゃんと書いてもらったそうですね。おそらくもみ消したのでしょう。
そんなことをする暇があるなら、もっとお国のためにできることを考えたほうがいいと思うのですが。
「一応言っておきますが、私がしていた仕事は王妃教育の一環です。婚約破棄されたことで私の仕事ではなくなりました。その仕事はアルフレッド様の新しい婚約者である……………………え~と、お名前なんでしたっけ? 忘れてしまいましたが、その方のお仕事ですので、私に文句を言うのはお門違いというものです。
それと、神獣の件ですが、私が連れてきたわけではありません。私についてきたのです。つまり神獣の意思です。私は何もしていないことをご理解ください」
「何をたわけたことを。そのようなことが信じられるとでも思っているのか」
「信じる信じない以前にこれが事実です。神獣が国を離れた理由は、あなた方貴族のせいでもあるのです。いい加減現実を見てください」
「バカにするのも大概にしろ! そんなわけあるか!」
話が通じないというのはこんなにもイライラするのですね。
どうしたら理解していただけるのでしょうか。
頭を悩ませているとミシェルが空を見上げました。
同じように見上げると虎のようなシルエットが見えました。
……戻ってきたみたいですね。これでアルフレッド様以外の方は納得してくれることでしょう。
「お、おい。上からないか降ってくるぞ!」
「なんだあれは! 警戒態勢!」
「ん? なんだ騒がしい」
皆さん気づいたみたいです。
騎士や冒険者の方々が警戒する中、カイが私の横に降りてきました。
「ま、まさか、神獣様……」
魔導士姿の方が呟いた声が伝播していきました。
私とミシェル以外顔を青くしています。神獣が出て来るとは思っていなかったのでしょうか。
いえ、アルフレッド様だけは険しい顔をしていました。
おそらく、やっぱりお前じゃないかとか、これで神獣が戻ってくるとか、そんなことを考えているに違いありません。
「おかえりなさい、カイ。どうでしたか?」
『主の言っていた通りだったな。長くは持つまい」
「そうですか。ありがとうございます」
カイのふわふわの毛を撫でます。
冒険者の方たちはとてもびっくりした顔で私を見ていました。
どうしたのですかね。
「やはり貴様の側にいたか。神獣よ、我が国に戻ってくるのだ。そのような小娘の側など其方のいるべき場所ではないはずだ」
『………………なんだこの愚か者は? 主よ、この小僧は知り合いか?』
「クィンサス王国の王太子様ですよ。こんなですけど」
『こんな奴がか? これならやはり主についてきて正解だったな』
神獣にまで哀れまれてますよ、アルフレッド様。
なんだかかわいそうな人に思えてきました。不憫な方。
「なっ!? 私は王太子だぞ! いくら神獣だからと言って不敬であるぞ!」
「何を言ってんですか、このバカは。不敬なのはどっちだって話ですよ」
「ミシェル、はっきり言いすぎよ」
『いや、ミシェルの言う通りだ。不敬なのは貴様だ小僧。我は神獣。どっちが格上か言わずともわかるであろう』
カイが唸り声を出すと、周囲にいた人たちは腰を抜かしました。
膝をついて祈り出す人もいます。なんだかんだ言っても神獣ですからね。
さすがの王太子様も顔を青くしています。ようやく理解してくれたのではないでしょうか。
『この場で咬み殺しても良いのだが、それよりも面白い話をしてやろう。貴様の国の話だ』
「……い、一体、何だ?」
『クィンサス王国では現在反乱が起きている』
「……………………は?」
『平民が貴族たちに対して暴動を起こしている。理由は神獣である我が国を離れたこと。そして――ユミエラを不当に婚約破棄し追放した上、罪人として指名手配していること』
「あら? 私も理由の一つなのですか?」
「当然です。以前お話ししましたでしょう」
そうですね。ミシェルからなんとなく話は聞きました。
国民の方たちからアイドルのように思われているとか。お恥ずかしいです。
「な、なぜそんなことで!?」
『国民にとっては重要なことなのだろう。この話には隣国の帝国と共和国も関与しているそうだ。よかったじゃないか、王太子とやら。一足先に逃げ出せて。まあ、帰る場所はなくなっているがな』
おそらく戻ったところで捕まるでしょう。
私を追放する原因となった人ですもの。
……しかし一つ言っておきますが私、別に追放されたわけではないのですが。勘当です。か・ん・ど・う。そこを勘違いしないでいただきたいですね。ぷんぷん。
「お嬢様、どちらも変わらないかと。ですが、そのお顔はとてもいいです! 最高です! こちらに目線をください!!」
ミシェルは相変わらずです。
いつの間にか「カメラ」というものを持って私を撮影しています。
あれもミシェルの記憶にあったものです。景色や人の一瞬を切り取って残しておくことができるとか。
すごい技術ですね。私も時々使わせていただいています。
「……そんな……どうして私が……王太子の……私が……」
あのアルフレッド様が絶望したような顔をなさっています。
これでおしまいですね。これ以上は話ができないかと。
それでは最後の仕上げと行きましょうか――。
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