第21話 ユミエラ捜索 *王太子視点

「ここが、冒険者の街ガッフか……」


 二か月という長い時間をかけて、王国からここまでやってきた。

 こんな期間王国から離れたのは初めてだ。

 しかし、本当にこんなところにいるのか。

 徒労に終わるなんてことはあってはならないからな。


「殿下、早速捜索を始めますか?」


「いや、まずは拠点が必要だ。見つかるまでここにいることになるだろうからな。どこか私が滞在するにふさわしい屋敷を購入しろ」


「はっ」


 捜索に時間を掛けたくはないのだが、見つからなければ意味がない。

 できるだけ最小限の人数でここまで来たから、人手が足りないのが問題だ。

 しかし、先に来ている貴族の子飼いの者がいるだろう。そいつらの協力を取り付けるとしよう。


「おい。この街にいる我が国の人間を集めよ。そいつらを使って必ずユミエラを見つけ出すのだ」


「すぐに集めてまいります」


 護衛の騎士数人が即座に動き出した。

 待っている間に部下の一人が拠点の確保が完了したと報告してきた。

 早速向かうとしよう。


 向かった場所にはみすぼらしい小さな屋敷が申し訳程度に建っていた。

 この街には屋敷と呼べる家はここしかないらしい。

 なんて街だ。貴族が来ることを考慮していないのか。

 私はクィンサス王国の王太子だぞ。この地の責任者に文句を言ってやらねばなるまいな。


 部下にそれなりに整えさせ、最大限の我慢をしてここを拠点とすることにした。

 その間に騎士たちがかなりの人手を集めてきた。

 ふむ。ざっと五十はいるか。それなら良いだろう。


「諸君。集まってもらったのは他でもない。諸君らも主から命を受けているように、ユミエラ・フォン・アマリリスの捜索を依頼したい。もちろん有益な情報を得たものには褒美を与える。諸君らの働きに期待する」


 私の話が終わると同時に、集まった者らはそれぞれ競い合うかのように散っていった。

 これならばすぐにでも見つかるだろう。

 その間、私は特にすることがないな。ふぅむ。眠るか。



 ◇◇◇




 あれから一週間。

 未だ何も情報を得ることができない。

 ここに来るきっかけとなった噂程度の情報しかない。

 まったく無能共め。役立たずにもほどがある。

 仕方ない。私自ら動くとしよう。


 私は部下と護衛の騎士を連れ、冒険者ギルドに向かった。

 噂では二か月前ここに現れたという。なら冒険者ギルドで聞くのが普通だろう。

 部下からは冒険者ギルドでは情報を得られなかったと報告を受けたが、ここ以外に情報があるとは思えない。むしろここにしかないはずだ。

 王国からはかなり遠いが、ここでも多少の権力は通じるはずだ。


「――げっ!?」


「む?」


 冒険者ギルドに入った途端変な声が聞こえた。

 視線を向けると、受付カウンターに受付嬢の他にもう一人。黒髪の美しいメイドがいた。

 ………………ん? メイド?

 メイドを凝視しているとどこかで見たことあるような……。


「……貴様もしや、ユミエラの専属侍女ではないか?」


「どなたと勘違いしているか知りませんが、そのようにいやらしい目で見ないでいただけますか? 思わず殺してしまいたくなります」


「無礼な! お前ら、あのメイドを取り押さえろ。あのメイドはユミエラといた奴に間違いない!」


「「はっ!!」」


 護衛の騎士と部下がメイドを囲む。

 ギルド内はいきなりの物騒な雰囲気にざわついているようだ。


「あ、あの! ギルド内でも揉め事はご遠慮ください!」


「黙れ女! 私はクィンサス王国の王太子アルフリード・エル・クィンサスである! そこなメイドは卑しい主人の小娘と我が国から逃げ出した罪人だ。取り押さえる必要がある。冒険者たちよ。協力したものには望む褒美をやろう」


 私が王子と知って受付嬢が押し黙る。

 そして私の言葉を聞いた冒険者たちが数人立ち上がった。

 ふむ。ここにいる全員というわけには行かなかったようだ。

 しかし、私の部下と騎士合わせて七人、それに冒険者五人に囲まれれば逃げ場はない。

 さあ、大人しく観念してもらう。そしてユミエラの居場所を吐いてもらおうか。


「……はあ。できるだけ穏便に済ませたかったのですが、仕方ありませんね。アサミさん、事後処理をお願いします。私はこの愚か者どもに制裁を与えなければならないようなので」


「で、できるだけ加減してくださいね。やりすぎるとギルド長でも何とかしてくれないかもしれないので」


「それはこの人たち次第ですね」


 メイドと受付嬢が何か言っているな。

 まさか、この人数相手にメイドがどうにかできるというのか。

 笑えない冗談だな。


「さて、愚かな王太子さん。先ほどの言葉を撤回する気はありますか?」


「何のことだ」


「私の愛しい愛しいお嬢様を卑しいだなんて………………殺すぞ?」


「っ!?」


 な、なんだ、こいつ。本当にメイドなのか!?

 帝国で会った歴戦の将軍と同じ威圧感があった。騎士や冒険者たちも青い顔をしている。文官である部下たちは気を失っているではないか。

 とにかく、今は従っておこう。


「わ、わかった。撤回する」


「そうですか。まあ殺すのは問題になるのでしませんが、大人しく国に帰ることをお勧めします。もしお嬢様の前に姿を見せたときは……覚悟してくださいね」


 メイドは私のすぐ横を通りギルドから出ていった。

 その間誰も動くことはできなかった。

 これは一度対策を練る必要があるな。

 私はしばらく経ってから拠点に戻り、部下たちに人を集めさせ作戦会議をすることにした。





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